04 帰れなくなった家
終電ないけど?
1日なら置いてやるという持田さんの好意は受け取る事が出来ず、タクシーを拾って私は自宅へと向かった。
途中、姉からの電話があった。
なんとなく、出る気分になれずに放置した。
メールも届き、どう返そうかと悩んで窓の外を見た。
「雨…」
何故だか沈んだ気分と同じように、じとじとと雨が降り出した。
メールを返す気も失せ、流れる景色をただ眺めていた。
寝ているかも知れない姉を起こさぬよう、静かに玄関を開けた。
そこには男物の靴があって、それは先輩が来ていることを表していた。
(もしかして、心配で2人で待っててくれてるのかな?)
申し訳ない気持ちと、大好きな2人に心配してもらっているという、なんとも言えぬ優越感で、部屋の奥へ歩を進めた。
リビングには明かりが着いておらず、2人がいるのは2階の姉の部屋かと思った。
驚かそうと静かにゆっくり進むと、聞こえた声に体は硬直した。
部屋からは、嬌声が響いていた。
途切れ途切れに聞こえたのは、私が帰ってくるんじゃないかという姉と、持田さんが帰さないだろうから大丈夫だと言う、彼の声。
大好きな2人の嬌声混じりに私がいるからいつもはデキないという話を聞かされる私は、ここにはいては行けない存在。
思考は巡り巡って、私はこの世に居なくて、だから誰も気付かないのかと思うほど、孤独感に苛まれる。
「ぁ、イクっ!!」
一段と高い声と息をつめる音が聞こえ、私はきつく目を瞑り、それとは逆に四肢からは力が抜けた。
ずるずると床に崩れ落ちながら、2人の荒い息づかいと布団を被る音を聞きながら、私は動けずにいた。
シンと静まり返った我が家は、雨の音だけが響いていた。
心はズタズタだった。あの日みたいに。
大好きな両親が居なくなった日。
いや、それよりも酷いかもしれない。
あの日は姉がいたから。
今日は姉も先輩も、私をいらないと、離れて居なくなった気がした。
私の世界が終わったかのような、感覚。
ぼぅっと窓の外を眺める。
いくら時間が経っても、空が白むことはなく、暗く厚い雲に覆われ、雨だけが重力に従って動いていた。
‐‐‐
カーテンの閉まった明るいキッチンでテーブルにつき、耳を塞ぐ。
白むことのない空も、暗い部屋も、雨の音も、何もかもが嫌だった。
…1人にしないで。
「眩しいんだけど」
はっとして、そちらに目を向ければ、気だるそうな持田さんがいた。
「すみません、部屋に戻ります」
慌てて立ち上がり、部屋に戻る私を持田さんは捕まえる。
強く腕を引かれながら、連れて行かれるのは持田さんの部屋。
「寒いからカイロ代わり」
と言う持田さんの腕に閉じ込められ、1人用にしては大きなベッドに寝転がる。
スプリングが立てる音も、真っ暗な部屋も、あの日を思い起こすけど。
暖かい体温と聞こえる鼓動は、私を安心させた。
1人じゃない。
‐‐あとがき‐‐
あれだけで世界の終わりとか、なかなかに過剰表現な気もするけど、気にしません。
そうしてたら話が進まない。
そして持田さんが優しすぎてキモい。←
何度か同じことがあって、いつもああしてます。
自分と同じように人の恋人に恋心をよせる主人公をほっとけない持田さん。
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