13 私じゃダメなのに
「脚…?」
白くなった頭で必死に女性が説明する持田さんの状況を整理する。
持田さんは今、脚の怪我で戦線を離脱している。
「も、持田さんの脚は、治るんですかっ!?」
彼女の上着につかみかかり、聞いていた。
「今は大丈夫、大事をとっての欠場だから」
女性は苦笑しながら、私の腕を払う。
そして、真剣な目をした。
「でも、今は精神的に参ってる気がするから…」
確かに、最近の持田さんはどこか沈んでいた気がする。
「…持田さんを支えてあげて下さい!」
「持田くんと同じ事言うのね」
悲しく笑う。
「あなたは持田さんの特別な人なんです! あなたがいれば持田さんはきっと大丈夫ですっ!!」
あなたは、私には出来ない事ができるんです。
持田さんは、あなたがいれば優しくなれる。
精神的に安定させる事が出来る。
…私じゃ、出来ないんだ。
「あなた、持田くんの事好きなのね」
その言葉に思わず顔をしかめた。
私が持田さんを好き?
あれ、違うの?と女性は目を丸くした。
「…どうして、そう思ったんですか?」
私はそんな気持ちを持った自覚はない。
ようやく先輩から卒業できたばかりなのに。
「サッカーに興味ないって言う割には、持田くんの脚や精神面を必死に心配してるから?」
にこりと女性が笑い、私の頬は熱くなる。
そんなに必死だった?
でも、私じゃダメなんだよ。
「…あなたは持田さんが好きなんじゃないんですか? 支えてあげられないんですか?」
「チームスタッフとしては支えるわ。 でも、彼の恋人や伴侶としては出来ないの」
そう言うと、女性は静かに左手を見せた。
薬指に輝くダイヤを見て、婚約しているだと認識し、同時に持田さんの言葉もすとんと納得出来た。
持田さんの特別な人も、もう他の人のものだったのだ。
「でも、あなたがいるなら、案外持田くんは大丈夫かもね」
女性は私の肩を叩き、持田くんをよろしくと言い残し、踵を返した。
待ってと引き止めることも出来たけれど、今は何よりも、持田さんが心配だった。
‐‐あとがき‐‐
まどかさんと主人公のやりとり。
支えて欲しいって縋った持田さんを番外でそのうち書きたい。
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