11 心の平穏と体の不調
式が終わると、今までは何だったのだろうかと思うほど、平和な日々が訪れていた。
一人になりたくないとか、色んな感情が渦巻いていたのに、気持ちの整理が出来れば何のことはない、今までよりも気軽に実家に行けるようにまでなった。
2人はこのまま帰ってくる事を望んだが、残念ながら今は帰る事は出来ないと断り続けている。
2人のいる家に入れば、また思い出したくない事を思い出しそうで怖いということが1番の理由。(流石にあの日の夜帰って来ていたとは2人には言えずにいる)
でも、今はそれよりも気になる事がある。
持田さんの様子がおかしい。
‐‐‐
「持田さん、出来ましたよ」
ささみの照り焼きにオニオンソースをかけたメインに、サラダ、オクラとなめこのマスタード和え、野菜たっぷりの煮物に、コンソメスープ。
以前持田さんの箸のすすみがよかった料理。
最近暑さのせいか食が細くなり、疲れた雰囲気を漂わせる持田さんのために、食べやすい料理を心掛けた。
ん、と返事をしソファから持田さんが料理の並ぶダイニングテーブルへやってくる。リビングのテレビはここのところバラエティばかりだ。
毎日グリーンの芝ばかり映っていたのに、今は知らない芸人と笑い声が流れる事が違和感。
あんなにサッカーに必死になっていた持田さんが、サッカーをみないのは何故?
食卓について食事が進むが、今日もまた。
「まずかったですか?」
全てを食べ終わる前に、箸が置かれる。
「別に。 あんまり腹減ってねーの」
「そう、ですか」
特に体が資本のプロスポーツ選手なのだから、日々口に入るものには気を使っていた持田さん。(そのせいで最初の頃の料理は苦労の連続)
こんなにも残されると、体が心配。
明らかに様子が変だ。
そう思いながらも、どうしたらいいのか検討もつかず、私までおかしな様子を見せないよう、いつも通りを心がける。
食事の片付けが終わり、次は洗濯物だと、取り込んだ物をリビングの床でたたみ始めると、いつもと違う感覚が襲う。
「持田さん」
「何」
「洗濯物がたたみにくい、です」
後ろから腰をホールドされ前後左右どこにも動けない。
片膝を立て、床に寝かせた足との間に私を置き、肩に持田さんの顔がのしかかってくる。
「あっそ」
私の言葉など聞く耳を持たず、その様子のまま退こうともしない。
いつもは私が何してても干渉しないのに、こうして構ってくるのは、明らかに様子がおかしい。
「…何か、あったんですか?」
腰に回った持田さんの手にさらに力が入ったのがわかる。
「リカが元気なのが納得いかねー」
「は?」
「お前、不幸のどん底で式から帰ってくるかと思ってたけど、元気じゃん。 実家にも帰ったみてーだし」
「心配してくれてたんですか?」
「ばーか、お前の不幸な姿が見たかっただけだっつーの」
持田さんが照れ隠ししている少年のようで、私の表情が勝手に緩む。
「式の前日に持田さんが背中を押してくれたお陰で、姉夫婦との関係は以前よりずっと良好ですよ」
ふふっと笑うと、隣からは短く舌打ちが聞こえた。
「でも、突然そんな言いがかりみたいな事言われても困りますよ」
式は2週間も前の話だし、突然そんな事を言われるとは思わなかった。
この様子のおかしさは、持田さんの特別なあの人と何かあったのかと思ったのだが。
「お前、実家戻らねーの?」
「あ、持田さんが良ければ、まだ置いていてほしい、です。 2人とあの家で暮らしたら色々思いだしそうで、怖いんです」
やっぱり完璧に先輩を忘れられたとは言えない。
気持ちがなくても、2人の情事現場に出くわしたらと思うと気分はよくない。
「別に、家事やってもらえんなら追い出す理由もねぇし」
「じゃ、家事やらせてください。動けないんですけど…」
話しているうちに洗濯物はたたみ終わった。
次はこれをしまえば家事は終わりで、私の自由な時間だ。
「リカ…もうちょっと、ここのままでいさせろ」
腰に回る手に力がこもり、横にあったはずの持田さんの顔は私の肩に埋められていた。
甘えたな子供のような彼の様子に、何かあったと確信しながら、これ以上どうする事も出来ないことにもどかしさを感じた。
せめて気の済むまで、このままで。
早く元気な持田さんに戻れればいい。
‐‐あとがき‐‐
ちょっと甘さが欲しくてやりました。
甘くなってる?
後ろからぎゅーってされるのに萌える。
遠恋になってからしてもらえてないなーという欲求が詰まりました←
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