HQ!! 月島
少女は少年を探して走り出した。
しばらく走り回って、ようやく見知った後姿を見つけた。
河川敷の土手の上、丸くなった背中は少し震えていたように見えた。
「けーくん、見つけた!」
そう呼びかけると、ちらりと頭がこちらへ傾く。
少年のトレードマークの眼鏡越しに視線が絡み合う。
少年の瞳は揺れていた。
「け、けーくん!それ、どどどうしたの!?」
少女は彼の姿を見てすぐさまそばに駆け寄る。
少年の顔には血の滲んだ擦り傷がたくさんあった。
「なんでもない」
「なんでもないって…」
そんなわけがない。
見るからに何かあったとわかる傷たちを晒していても、なんでもないのだと不満そうに唇を突き出した少年。
少女はこんな姿で頑なに口を閉ざす少年に、それ以上何を口にしていいかわからずに唇を噛んでただただ立ち尽くすばかり。
一陣の風が吹いた。
「あ、けーくんのボール!」
沈黙が破ったのはその言葉。
少年の傍らのバスケットボールは風に転がされ、川に向かって一直線に坂道を転がり落ちていく。
「けーくん! ボール川に落ちちゃうよ! 流されちゃう!」
少女がそう懸命に訴えても、一向に腰を上げようとしない少年。
「ーーーっ!もうっ!」
それを見かねて少女は走り出す。
「もういらない!」
走り出した少女の背中に突き刺さった言葉。
それでも少女は真っ直ぐに土手を駆け下りる。
「なんで? あんなに、バスケ楽しそうにやってたじゃん! 一生懸命やってたじゃん!!」
だから、ボールを捨てバスケを捨てて欲しくなかった。
少女は必死になってボールを捕まえた。
そして、必死になってボールを少年に返した。
でも、差し出されたボールを見つめる少年は、それを手に取る素振りを微塵も見せない。
「・・・怖いんだ」
ゆっくりと自身の膝に顔を埋めながら少年は揺れた声でそう言った。
「怖い?」
少女はボールと手を引っ込めて、首を傾げた。
それから、少年の隣へ腰を降ろす。
「どうして、バスケ、怖くなったの?」
優しいこえ。
「・・・お前なんて、背がデカイだけで役に立たないって。 先生から可愛がられて調子乗ってんなって、同じチームのメンバーなのに、コーチがちょっといなくなると試合形式の練習で当たりがキツくて、眼鏡なんてしてんなよ、あぶねーからって取られて、ほとんど見えないのにパスが回ってきて、取れないと下手くそデクノボウって」
普段は大人しい彼が流れ落ちる滝のように喋り、だんだんとか細くなる声。
少女は胸が締め付けられた。
本当は同じチームのメンバーのはずなのに、付けられた擦り傷と青痣。
信頼しあって一つのゴールを目指してボールをつなぐ競技のはずなのに。
どれだけ辛いことなのか、少女には計り知れなかった。
涙のせいで最後まで言葉が紡げなくなった少年と、切なさで口を閉ざした少女はいつまでそうしていたのだろうか。
「ねぇけーくん!」
また、一陣の風が吹いた。
すくっと立ち上がった少女を潤んだ瞳で少年は見つめた。
一緒に、バレーボールしない?
ネットを挟んだ相手からは、もうぶつかられることはない。
コート上の仲間6人で、必死にボールを繋ぐ。
そんな競技に出会ったのは、この時だった。
終われ(キΦдΦ)
何となく、月島の過去(小4位)を妄想。
うちの兄ちゃんもだけど、幼い頃から眼鏡の子は先天的なものの影響だから、眼鏡じゃないと矯正が間に合わないって子居ますよね?
月島はそうなんじゃないかと妄想。
だからバレーというかスポーツしてても眼鏡なのだと!
そういう妄想から出来た産物。
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