Tuesday




小鳥のさえずりが聞こえる。チュンチュンと可愛らしい声で、朝が来たよと告げる。まだ、寝ていたい。一瞬うっすらと目を開くが、睡魔に襲われる。二度寝をしようか、そう思ってもう1度目を閉じようとしたとき、鳴き声が聞こえた。小鳥ではなく、何か別の鳴き声。その鳴き声ははっきりとは聞こえなかった。けれど、この鳴き声はきっと、

「アルの散歩!」

散歩を楽しみにしているアルが待っている。勢いよく飛び起きて、はっと我に返る。ここはあたし、天宮ミナの家ではなく、この身体の持ち主、黒崎さんの家だ。当然ここにアルの姿はなく、広いリビングにあるソファーで眠っていたあたし一人だけ。寝て起きても夢から覚めないなんてどういうことなのだろう。小鳥のさえずりはもう聞こえず、増して静かになった。

ぐぅ。
静寂を破るかのようにお腹が鳴った。

「お腹、すいた…」

そういえば、夕飯を食べずに寝てしまったし、お風呂も入ってない。とりあえず、何か食べようと少しためらいつつ冷蔵庫を拝見。中は調味料と飲料水、一週間分くらいの野菜やお肉、それに卵があと4つ。うん、あとで卵を買い出しに行こう。今日は簡単に目玉焼きにして、ベーコンも一緒に焼こう。卵を2つ頂戴して一人分の朝ごはんを作る。ちゃちゃっと食べて、使った食器やフライパンも洗って片づける。次はお風呂に入らなくては。黒崎さんはどこにタオルとか置いてあるんだろ…。自室だろう部屋を見つけてそっとドアを開く。いたってシンプルなベッドに大きめのタンスと書物の棚。その棚の上にドライフラワーが飾られている。あたしの部屋とはまるで違っていて、飾り気のない部屋だ。探し物はタンスの中で、あまりじろじろ見ない方がいいだろうと思い、素早く取り出す。よし、お風呂を探そう。

「……」

気付いていないわけではなかったが、やっぱり、このふくらみは、あたしにはないこのふくらみは。バスルームにあった鏡を見て、自分の身体ではないことを再確認する。あたしの胸はぺったんこだ。断崖絶壁とかいうやつだ。中学生ならもう少しくらい膨らんでてもいいはずなのに、成長がみられない。けど、この子の胸は、

「う、羨ましい…」

異国人の顔つきで、淡い紫色のきれいな長髪。すらりと長い脚に、膨らみのある胸。あたしにはないものばかりだ。寝て起きても覚めない夢、もしかしてこれは楽しんじゃっていいのではないだろうか。バスルームから出て丁寧に髪をドライヤーで乾かし、そのままサイドに三つ編みをする。普段のあたしには出来なかったこと、この子の身体なら出来るかもしれない。そう思うと、嬉しくなってる自分がいた。


***


「やっぱり来てしまった…」

一人でいるのもなんだか退屈で、友達の咲ちゃんはこの夢の中にはいないようだ。ツナくん達とこの子が繋がっているかもよくわからない。外でうろうろしていたら、結局、並盛中に足を運んでいた。別に雲雀くんに会いに来たわけじゃない。ただ暇だったからここに来てしまったわけで、雲雀くんに会いに来たわけじゃない断じて。…でも、ここの雲雀くん優しいから少しはそうかもしれない。

「また熱中症になりたいわけ?」

「あ、雲雀くん」

いつも聞き慣れている声より、少しやわらかみを感じてしまう。けど、その声はあたしに向けられたものではく、この子に向けたもの。なんだかよくわかんなくなっちゃうな…。考え事に夢中になっていると、足音が聞こえてすぐそこで止まった。ふと顔をあげれば、雲雀くんの整った顔が。

「昨日から呼び方違う。あと、雰囲気もなんか違う。君、熱中症で頭おかしくなったんじゃない?」

「え、」

ぎくり。そうだ、よく考えてみれば「雲雀くん」なんて呼ぶ人がいるのだろうか。あたしはそう呼んでるけど。ほとんどの人が「雲雀さん」だ。でも、この子はもう少し雲雀くんと距離が近そうな気がするんだけど、なんて呼んでるんだろう。わかるはずがないからこの際、雲雀くん呼びで押し通せばいいんじゃないかってすっきり解決した瞬間、両の手に鉄の棒を握りしめた雲雀くん。

「で、最初に言ったよね。間違えたら咬み殺すって」

「……え?ええ?ちょっと待って雲雀く…っ!?」

びゅっと頬を掠めていく鉄の棒。わざと外しているのがわかった。やばい、こっちの雲雀くんも戦闘狂…!!彼とまともに戦えるなんて思ってないあたしは逃げるために走り出したが、すぐに違和感を感じた。想像してた速さと実際の速さが一致しない。この子の身体はあたしとまるで違う。はっ、ということは怪力じゃない可能性もあるってことですか!?

「逃げるなんて君らしくない。やっぱり変」

「ぎゃっ!危ないじゃないですかっ!」

鉄の棒が容赦なく飛んでくる。それを思っていたより素早く避けるが、可愛くもない悲鳴をあげてしまった(うう、黒崎さんごめんなさい)。けれど、逃げるだけのあたしがつまらなかったようで、武器をしまうと校舎の中へと入っていく。応接室に向かうのだろう。そう思ったあたしは風紀委員会の仕事を少しくらい手伝おうと雲雀くんのあとを追いかける。いつもならやりたくないんだけど、なんかこう…やっぱりわかんないや。



(ほんとこの夢、どうなってるんだ……)
手伝わせたことないのに、上出来だねと雲雀くんに褒められた時はいろんな意味で心臓止まるかと思いました。

The next day has not come ...

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