それが彼女の日常



05:30
「ううん、眠い…。あ、おはよう雲雀くん。…ふふっ、寝癖ついてますよーってうわあ!照れ隠しでトンファー投げつけてこないでください!」



06:00
「今日も目玉焼きがおいしい。あ、もうこんな時間か。早く食べちゃわないと。もぐもぐもぐ。…よし!ごちそうさま!雲雀くんもお粗末さま、ね!」



06:30
「また雲雀くんはバイクで登校か…。たまには後ろに乗せてくださいよ!え、君はゴリラ並に体力あるんだから歩いて登校しなよ?ああん誰がゴリラじゃこんの雲雀クソヤロウってわあああ!ごめんなさい謝りますからトンファー投げないでください!…あれ、そういえばバイクって中学生は乗れるんだっけ?」



07:10
「うわあ。学校に着いた直後にこんなに大量の書類を押し付けてくるなんて、雲雀くんってばドS…。あーはい。やりますやりますやりますからトンファーをチラつかせないでくださいよもう!…ん?あれ、あそこの窓から見える三年生っぽい人、鼻ピアス付けてません?雲雀くん咬み殺してきます?…ええっ、今日は町の方にも行くんですか?別に良いですけど、とっとと帰ってきてくださいね?はーい。いってらっしゃい」



11:15
「ううう、手が痛い…。判子を押したりサインを書いたり、やることは簡単だけどずっと同じことを続けてるとそれはそれで堪えるなあ。しかもまだまだ書類は山積みだし。これを一日で片付けろだなんて、雲雀くんは鬼だ。鬼畜だ。しかも本人は風紀を乱す輩をやっつけに学校出てっちゃうし。いや、不良を撲滅させるのは良いことなんだけどね!でももうちょっと手伝ってくれたっていいじゃないのさ!ああ、疲れた疲れたつーかーれーたー!」



11:30
「あ、草壁さん!おはようございます。あれ、この時間だったらこんにちはかな。…雲雀くんですか?今は群がる不良を咬み殺しに町に繰り出してます。ああ、この書類を渡したいんですね。分かりました。あたしが預かっておきます。え?ずっと応接室にいることができるなんて天宮はすごい…?ええ、これすごいことなんですか!?こき使いやすいように傍に置いといてるだけだと思うんですけど…。委員長が傍に置いとくこと自体がすごいんだ、って…そんなもんですかね?草壁さんは、雲雀くんはあたしには甘いってよく言いますけど、そんなことないですって。こーんなに山積みの書類押し付けられるし、一日に何回もトンファーで殴られるし!あーあー!雲雀くんってばほんとに人使い荒いんだから!はあ、ごめんなさい。愚痴になっちゃいましたね。……俺でよければいつでも話を聞くぞ、なんてそんなこと言ってくれるの草壁さんだけですよ。ありがとうございます」



12:40
「あ!雲雀くんおかえりなさー…ぎゃああ!ちょっと、血まみれじゃないですか!返り血だから大丈夫とかそういう問題じゃないです!もう、あんまり派手なケンカしないでくださいっていつも言ってるじゃないですか!…は?君も人のこと言えないだろ?この前は草食動物を殴ろうとしてたじゃないか?…あ、あれはですねえ、ツナくん達があたしのことを貧乳とか言うから、つい怒りで我を忘れてしまって…。えっ!強いんなら今度は僕と戦え!?いやいや無理ですよ無理!そんなん最初から決着ついてるようなものです!あたし死にたくありませんって!ほ、ほら、そんな血生臭い話は置いといて、昼ごはん食べましょーよ!体育祭の日からあたしがお弁当作ってきてることですし!ね!…はいっ、はい、いただきまーす!ふふ、卵焼きおいしいですよ。今日は甘めに作ったんです。雲雀くんもどうぞ!」



13:20
「さてと。お昼休憩も終わったことだし、お仕事再開しましょー!ってちょっと雲雀くん!なに屋上行こうとしてんですか。確かに今日は天気が良くて絶好のお昼寝日和ですけど、雲雀くんもこれから事務処理やるんですよ!ほら、鉛筆持って!…あ、そうだ。さっき草壁さんから書類預かってたんです。これに目を通してくださ…、んぶっ!ちょっと、いきなり平手打ちするなんてひどいじゃないですか!僕に命令する君が悪いんだよって、そんな小学生みたいなこと言ってないでとっとと仕事してください!」



14:30
「なんだかんだで、あんなにたくさんあった書類の山がなくなっちゃった!雲雀くんの力は絶大ですね!でもこんなに正確で速い仕事ができるんならいつもちゃんと仕事し、ろ…なーんて少しも思ってませんだから鳩尾にトンファー押し付けるのやめてください痛いです苦しいですうああああ…!」



14:35
「……はあ、はあ。…でも、本当に今日中に終わって良かったです。午前中からずっと頑張ってた甲斐がありました!えへへ!……うわっ、わっ、どうしたんですか急に。頭撫でてくるだなんて…。いや、なんで雲雀くんがポカンとした顔してるんですか!ほんと雲雀くんどうしたの?もしかして思いっきり頭でも打っ…だっ!いだっ!痛い!痛いです雲雀くん毛根死ぬハゲる痛い痛い!何度も言ってますけど照れ隠しとかそういうので暴力するのはやめてくださいよ!もう!」



15:00
「それじゃ、あたしは午後の校内巡回に行ってきます。雲雀くんは午前中にたくさん不良共を咬み殺してきてるし、書類整理もやってくれましたし、ゆっくり休んでてくださいね!いってきます!」



15:10
「オイコラそこの不良共、今は六時限目の最中だろうが。授業サボってんじゃねえですよ。さっさと教室戻らないとドロップキックかましちゃうぞ!…え?生意気なこと言ってんじゃねえ?はあああん!?女だからってナメてると痛い目見るぞこのチャラ男がァ!」



15:20
「あ、ツナくんじゃーん!今、授業終わったとこですよね。おつかれさま。…ああ、この制服?さっきウザイ不良にドロップキックお見舞いした時にちょっと汚れちゃいまして、ね!あれ、ツナくん顔色悪いけど大丈夫ですか?保健室行きます?」



15:50
「ただいま戻りました!今日は六時限目の授業をサボってる奴が数人いましたね。あ、もちろん全員ドロップキックの刑ですよ。あとはまあ特に問題無かったかなあ…。あ、そうだ!雲雀くん雲雀くん。今日は四時半からスーパーで特売やるらしいんで、そろそろ帰ってもいいですか?…はい。今日は鰤の照り焼きですね。分かりました!とびきり美味しいのを作ります!楽しみにしててください」



17:50
「お料理お料理、楽しいなったら楽しいなー、ふっふっふーん。…スープも出来たし、付け合わせのポテトサラダ(ゆで玉子乗せ)も出来たし、あとは雲雀くんが帰ってくるのを待って鰤を焼くだけ!カンペキっ!…んー、でもちょっと早すぎたかなあ。雲雀くん早く帰ってこないかなあ」



18:15
「雲雀くん!おかえりなさい!今から鰤焼くから、手洗いうがいでもして待っててくださいね。…あ、そういえば、さっきスーパーに行った時ちらっとおばさん達が話してるの聞いたんですけどね、商店街の方で万引き事件があったらしいです。怖いですよねえ。…え?犯人はグチャグチャに咬み殺す?まあ、ほどほどにしといてくださいね。血って服に付いちゃうと洗濯しづらいんですから。…とか言ってるうちに鰤の照り焼き完成!」



21:10
「雲雀くんお風呂あがりましたー?それじゃ、あたしも入ってきますね。雲雀くん、ちゃんと髪の毛乾かさなくちゃダメですよ。風邪ひいちゃうといけないし、せっかく良い髪質してるんですから、それをキープさせなくちゃ。……うるさいだとかお節介だとか言ったってあたしは折れませんからね。もうそんなの言われなれてるんです!」



22:00
「んー、ふ、ふわああ…。眠い…。雲雀くーん、もう寝ましょうよー。…あ…、明日って抜き打ちで持ち物検査やるんですよね。ってことは明日は五時起きかあ。風紀委員ってほんとに朝早いですよね…。ううん…」



「……雲雀くん、今日もありがとうございました。こうやって普通に一日を終えられるのは、全部、雲雀くんのおかげです。雲雀くんがいなかったらご飯も食べれてないし、寝床もなかったし、きっと今頃死んじゃってました。それに、群れるのが嫌いな雲雀くんにこんなこと言ったら怒るかもしれないけど、学校に通わせてくれたから友達だってできたんです。…たくさんこき使われるのはもちろん大変だけど、それでもあたし、雲雀くんに拾ってもらってすごく良かったって思ってます。本当に、ありがとうございます」



 ◇



おやすみなさい。その一言を最後に、ヤミは深い眠りに落ちていった。彼女が身を沈めているソファの横で、雲雀はふうと小さく吐息をこぼす。ヤミが数秒もしないうちに意識を飛ばしてしまうのも無理はない。今日も、とても中学一年生とは思えないほどの働きぶりを見せていた。平気なように振る舞ってはいるが、肉体的にも精神的にもかなり疲れているはずだ。雲雀は誰よりもそのことをよく知っている。けれど、そこでヤミを気遣ってやれるほど彼は甘くはないし、器用な人間でもなかった。


『ありがとうございます』


それなのに、彼女は礼を言うのだ。雲雀が住む場所や生活費などを提供してやっているのは確かだが、それでも普段から理不尽に殴ってきてばかり(その自覚は雲雀にもある)の者の為にあんなにも献身的になれるだろうか。雲雀には理解できない。ヤミが礼を言ってくれる意味も、彼女と接している時に感じるおかしな心地よさも、昼間にらしくもなく小さなその頭を撫でてしまった自分自身も。何もかも。雲雀は、めちゃくちゃな思考を断ち切るように自らの寝室に足を向けた。

――そして今日も、一日が終わる。






それが彼女の日常
委員長、微妙に悩む




もはや夢主は雲雀さんのオカン。恋愛に発展するのはまだまだ先になりそうです。

 
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