さよなら、日常
「じゃあ私、こっちだから。また明日ね、ヤミ」
「うん。また明日。ばいばーい!」
6月17日。あたしが中学に入学して、早2ヶ月以上が経っていた。入学したての頃は緊張やら何やらでドキドキが治まらない日々を送っていたあたしだけど、今ではすっかり学校に馴染めたように思う。新しい友達もそこそこに出来たし、入りたかった部活にも入れて、先パイだってたくさん出来た。我ながら、なかなか充実したスクールライフじゃないだろうか。
「ただいまー!」
「おう!愛しい妹よ、おっかえりー!」
「あ、シスコンがいる」
「妹よ!俺のことはシスコンではなくお兄さまと呼びなさ」
「お父さん、ただいまー」
「無視ッ!?」
「おかえり、ヤミ。学校は楽しかったか?」
「うん!」
あたしの家族はシスコン兄ちゃんと現役陸上選手の(すごいでしょ?)お父さんの二人。お母さんは私が小さい頃に交通事故で亡くなったとかでいないけど、それでもあたしには二人の大切な家族がいるから、満足だった。
「あたしちょっと疲れたからベッドで寝てくるね。夕飯の時間になったら起こして」
「んー?今日は俺の愛しい妹ちゃんが食事当番じゃなかったっけか?」
「はあ!?なに言ってんの、今日は兄ちゃんの当番でしょー。おやすみ!」
「そうだっけ…、まぁいいや。おやすみヤミ」
兄ちゃんの声を背に受けながら、自室のある二階に向かって階段を上っていく。今日は部活がキツかったから、すんごく疲れてしまった。夕飯までそんなに時間はないけど、全く寝ないよりはマシだろう。ああ、今日は兄ちゃん何を作ってくれるだろう。兄ちゃんの作るご飯、何気に美味しいんだよなあ。そんなことを考えてるうちに、気付いたらベッドは目の前に。スクールバッグを放り出して、勢いよくベッドに飛び込む。そして、意識は数秒もしないうちに闇に呑まれていった。
「ん…むにゃ……」
―――まさかもう二度と親友や家族と会えなくなるなんて、この時のあたしは考えてもいなかった。
さよなら、日常
愛しき人達へ ありがとう