Happy Birthday


理不尽な雲雀君と私



「…………」

「…………」


――馬鹿な。


「…………」

「…………」


――馬鹿な。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


――そんな馬鹿な!

私は心中で叫ぶ。無理もないだろう。だって、常に感じるんだもの。風紀委員長雲雀恭弥からの熱い(?)視線を!登校時から、授業中、部活時間、下校時まで。どこかしらに潜む雲雀さんからひたすらにその鋭い眼光を向けられる。それなのに、常に一定距離の範囲内には入ってこない。本当に、見てくるだけ。きっと人はこんな人間のことをこう呼ぶのだろう、"ストーカー"と――…!

いかにも肉食的な雲雀さんがそんな行動に及ぶのも驚きだが、何より雲雀さんが私なんぞに思いを寄せているだなんて信じられない。友達に話したら、頭とち狂ったんじゃない?と鼻で笑われそうである。雲雀さんは性格にこそかなり難があるが、一方でそのお顔はたいそうに整っている美人さんなのだ。それに比べて私はスタイルも微妙で顔も平凡な一般女子。いろんな意味で月とスッポンも良いところだ。雲雀さんが私に一目惚れだなんて、誰か嘘だと言ってくれ。

そんなことを悶々と考えつつも、気付けば商店街での件から三日が経過していた。一目惚れされてからずっとあの射抜くような視線に晒されていたので、さすがにもうビクついたりはしないが少し疲れてきた。ずっと見られているというのはやはり緊張するものだ。今まで視界の片隅にたまにちらつく雲雀さんは見て見ぬフリをしてきたけど、もう耐えられそうにない。ここは、なけなしの勇気を再度振り絞って声をかけてみよう。そしてストーカー紛いの行為はやめてほしいと、はっきり言おう。……また殴られてしまうかもしれないけれど。その時は軽傷で済むことを祈る。

思い立ったが吉日。早速、背後にある電柱の裏に隠れて真顔でこちらを見てくる雲雀さん(本格的にストーカーへの道を突き進んでる気がする)の元へ向かう。話しかけるとなるとやはり怖いが、度胸を見せるんだ私!震える足に鞭を打ち、バッと後ろに振り返って電柱の方へとずんずん進んでいく。雲雀さんは切れ長の鋭い目を見開いたけど、その高いプライドからか逃げるようなことはなかった。


「…………」

「…………」

「…こ、こんにちは」

「…………………やあ」


普通に挨拶してしまった。何をやってるんだ私。けど今回はすぐに殴られなかったし、長い沈黙はあったがちゃんと返事をしてくれた。初めて会話が成り立ったのだ。これでも目覚ましい進歩である。


「あ、あの、雲雀さ…うぶっ」


これならばちゃんと話ができるかもと思い、もう一度声をかけようとしたら何故かビンタされた。ほんとに何故。トンファーで殴られ気絶するよりマシだが頬がビリビリと痛い。涙目で雲雀さんを見上げれば、やはり真顔のままこちらをガン見してきている。違う意味で雲雀さん怖い!

しかし、今ちらりと見えてしまった。柔らかそうな黒髪の間から、ほんのり赤く染まった耳が!やっぱりこれ照れ隠しなのねそうなのね!とっても分かりにくいよ雲雀さん!


「…君が、…可愛いのがいけない。死ねばいいのに」

「理不尽!!」


新手のツンデレか!けどなんだろう。なんか私まで顔熱くなってきた。ひ、雲雀さん今、私のこと可愛いって言ったし…。やっぱこの人、私のこと好きなんだ…。う、うわあ。なんだこれ恥ずかしい。ってあれ、なんか急に雲雀さんがカッコよく見えてきたような。………え?

いやいやいやいやいやいや。ないよ!それはないよ!だってこの人めちゃ怖い人ランキングぶっちぎりの一位になるような人だよ!?顔は良いし正直私の好みだけど、性格に大問題あるからね!?私トンファーで殴られてるし、たった今ビンタされたからね照れ隠しで!そんなとこが可愛いなんてちっとも、これッッッぽっちも思ってなんかないからね!?


「僕と付き合わないと咬み殺す」

「あ、はい (あれ…?)」

「あと僕は今、中三ってことにしてるから敬語とかさん呼びは無しだから」

「あ、はい (あれ…??)」


私の解答を聞いてテンションが上がったのかなんだか知らないが、雲雀さん…いや、雲雀君はどこからかトンファーを取り出すとボカッと私の脳天に振り下ろした。おそらく女の子とかが褒められた時に「もォ〜!そんなこと言ったって何も出ないんだからっ」と言いながら背中をバシバシ叩いてくるアレ的なものと同じようなソレだろう。自分の意識が薄れていく中で思う。私、何しに来たんだっけ。

とりあえず目を覚ました時に頭に巨大なタンコブができていないことを祈ろう。多分無理だけど。
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