百合さんより


「名前…!!」

赤、赤、赤…
深く赤い液体が視界に入ってしまう。温かかった温度もだんだん氷のように冷たくなってきて思わずしっかりと手を握った。握られた彼女の手は力を入れることなくだらりとしている

「目を覚まし、なよ」

途切れる言葉。こんなにも震えてしまうなんて僕らしくない

愛しい君が人形のように冷たい

何度も、何度も、名前を呼ぶ。だけど、それはただの独り言で終わってしまう

「ご愁傷様、ですね」

いつの間に現れたのか、面白いものを見るかのように僕を見た。ただ僕はキツく睨む。君なんかにそんな言葉聞きたくない、そんな顔見たくない。消えてくれ

「おやおや…憎しみの顔ですか、せっかくこの僕が姫を蘇らせる方法を教えてあげようとしたのに」

「何、それ」

話す気もなかったのに。その言葉が呪文のように耳に残った。ただでさえ六道骸は嫌いだ。「知りたいですか?」と誘われるように聞かれ小さく縦に頷いた

「クフフ、そうですね…代償は“貴方の命”です」
「それを…それを、あげたら姫は目を覚ましてくれるんだね?」

「ええ、もちろん」

じゃあ、あげようじゃないか“僕の命”を。君のためなら要らない。目を覚ましてくれるなら。君がいなきゃ僕が居る意味なんてない。君が居ないと困る。好きだよ、愛してる。だから………



僕の分まで生きて




ごめん、僕は馬鹿なんだ





──────


気付いたら白い天井が目の前に見えた。おかしい、私は彼を庇って、それで銃で撃たれて、意識が遠くなって…

「生きてる?」

手が動く。足も動いた。死んでない、生きてる。でも何かおかしい、何か忘れてる。肝心な何かを…

「目が覚めましたか」

「雲雀、は?」

この部屋に雲雀がいない。骸がいるとは予想もしていなかった。雲雀なら私のことを心配して「なんで僕なんかを庇うの」とか「心配したんだから」とか言ってくれるはずなのに


雲雀がいない 


真実を知らないくせに。何故か瞳からぽろぽろと涙が出てくるのを止めることすら出来なかった。ああ、どうして涙が勝手に出てくるんだろ



氷砂糖の行方
(愚かな人間、ですね)
一人の男はそれを嘲笑った
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