百合さんより


お湯が沸いた音がする。その音はすぐに消えて、こぽこぽと注がれる音が聞こえた。しばらくすれば、ぱたぱたとスリッパの音がだんだんと近付いてきた


「はい、お茶飲んだら帰ろ」


机に置かれたのはお茶と二つのみたらしだんご。書類に目を通してた僕は、すぐに書類の束を片付けてお茶を啜った。なまえはそんな僕を見て可笑しそうに笑うとみたらしだんごを頬張った。時計を見れば下校時間はとっくに過ぎていて、暇をしていただろう彼女に少しだけ申し訳ないなと思った


「まだ6時前なのに、もう真っ暗だよ」

「12月だからね」


ありふれた会話をするのが、なんとなく幸せだなって思う。そんなことをなまえに言えるわけないけど、というか言わないけど、彼女に出会ってから僕は少し変わった気がする。具体的にはよくわからないけど、なまえと過ごすありふれた時間が大切になっているのは確かだ


「うわあ、寒っ」


外に出ればやはり寒い。なまえは寒そうに身を寄せてくるもんだから、手をぎゅっと握ってやった。今日は珍しくなまえの手の方がひんやりしていた。彼女も驚いたようで、恭弥の手が珍しく暖かい、と煩い


「…あ、」


ふわふわと空から舞い落ちる白い雪。だから今日はいつもより寒かったのか


「恭弥と初雪ツーショット頂きっ」


カシャッと音が聞こえたときには遅く、携帯で写真を撮られた


「なに勝手に撮ってるの。消しなよ」

「えへへ、保存完了っと!」


勝手に撮られたのは少しイラッとしたからデコピン一発で許してあげるよ。力は込めたから、痛そうな表情をして赤くなった額を触るなまえ。そんな仕草さえ愛しいと思ってしまう僕は、やっぱりなんか変になったんだね


「なまえ、」

「ん?」

「…やっぱ何でもない」

「えー、何なの?教えてよー」


またいつか言うことにしよう。僕は今幸せだってこと。空から降る白い雪がなんだか少しだけあたたかいような気がした




12月の幸せそうなふたり
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