01


「でも…強くなるって、何するんですか?」


雲雀くんに、強くなって再び戦うことを約束させられたのち。土埃で汚れたスカートをぽんぽんと払いながら、同じく得物である鉄の棒についた土を払っていた雲雀くんに尋ねる。すると雲雀くんはちらとどうでも良さげな顔でこちらを見て、なんとも投げやりな態度で返事をよこしてきた。


「さぁ?」

「さ、さぁって…」


言い出しっぺはあなたなのに。もはやそんなつっこみをする気にもなれない。雲雀くんは、君を鍛えるなんて面倒くさいこと僕はやりたくないしね、なんてことを続ける。さっきと言ってること違うじゃない!君を強くしてあげようかって言ったのはこの人のはずなのに、とんだ自由人め。まぁ、あたしだってこんな人に鍛えてもらうなんてまっぴらごめんだけど。だいたい、この人を相手にしていたら命がいくつあっても足りなそう。

ふわぁ。雲雀くんは呑気にもあくびをこぼす。細身な体型に、色の白い肌、無造作に伸ばされた柔らかそうな黒い髪。加えて内容はめちゃくちゃだけど、喋り方は至って穏やか。こうやって何もしていなければ、とてもあんな暴力的な人には見えないのに。

そんなことを考えていると、不意に、雲雀くんが口を開いた。


「ねぇ、君」

「?」

「僕はお腹が減ったから、購買で何か適当に買ってきてよ」

「は?」


藪から棒に、雲雀くんは突然そんなことを言い出す。当然、素直に「はい、分かりました」なんて答えられるはずもない。どうしてあたしがそんなことしなきゃいけないの?けれど、あたしが文句を言うより前に雲雀くんは再びその凶器を構えてにやりと笑って言うのだ。


「もちろん、ここで咬み殺されてもいいって言うなら、それでもいいけど」









パシられる









「天宮、そこの資料取って」

「はぁ」

「天宮、これ教頭に渡してきて」

「えぇ…」

「天宮、食べる物買ってきて」

「………」


あれからというものの。なぜか雲雀くんに放課後呼びつけられてはあれやこれやと雑用を頼まれる(強要される)ようになってしまっていた。何か命令されるたび、堪忍袋の緒が切れそうになる。パシリである。完全なるパシリである。あたし、何やってんだろう…。

ていうか思ったんだけど中学生の彼にこんなに仕事があるのはなぜ。なんで教頭に渡す資料とかあるんだ。おかしい。


「僕の視界にあまり入らないでくれる。群れてるみたいでムカつくから」

「あだっ」


そんな具合で、さっきトンファーでど突かれた腕をさすりながら購買への道のりを歩く。まったく、時折思い出したように理不尽な暴力をしかけてくるのはやめてほしい。そっちから呼び出しておいて視界に入るなとは何様なのよ!ムカつくのはこっちだと言いたい(言ったら鉄の棒もといトンファーが飛んでくるから言えないけど)。


「おばさ〜ん。えっと…このコロッケパンとあんパンくださいな」

「はいよ」


放課後の、解散間際の購買のコーナーに着くと、適当に見繕ったパンを店番のおばさんに差し出す。別に何がいいとかは言われてないし、これでいいよね。


「あんた最近よくこの時間に来るのねぇ。前はあんまり購買使ってなかったのに。あ、2つで260円ね」

「えへへ、それが最近よくパシられるようになっちゃって…」

「あら、かわいそうねぇ。部活の先輩?」

「部活とかじゃないんだけど、先輩に…」

「自分で買いに来りゃいいのにねぇ」

「あはは…。その人風紀委員長なのに、後輩パシらせるなんてひどいですよね。自分のが風紀乱してんじゃんって感じ…」


ちゃりんっ。300円を渡したお釣りに40円を貰おうとすると、おばさんが不意に小銭を落としてしまった。転がっていく10円玉。それを取りに行こうとすると、パンの入ったビニール袋をかけた手首を突然ぎゅっと力強く握られた。え、何?


「お金返すよ!」

「え?」


何故か慌てた形相になったおばさんは、あたしに手の平を差し出させるとそこにさっき渡した300円を押しつける。落ちたお金はあとで拾っとくから大丈夫よ!そう言うおばさんはさっきまでとは明らかに態度が変わっている。それに、お金返すって…。戸惑うあたしをそのままに、おばさんは鼻息を荒くして言った。


「雲雀さんからお金を貰うなんてとんでもない!」


いや払ってんのあたしなんだけど!そう言おうと口を開く間もなくおばさんはあたしの肩を掴むとぐるりと体の向きを転換させて、背中をぐいぐい押してきた。雲雀さんに頼まれたおつかいなら、さっさと終わらせてきな!咬み殺されるよ!そんなことを言うおばさんに、もう呆れることしかできない。雲雀くんってほんとにいろんな人に怖がられてるんだな。


「これからもお代はいらないからね!」


必死そうなおばさんの声を背中に受けて思わず苦笑いしつつ、応接室へ戻った。



 ◇



「お茶、淹れて」

「はーい…」


帰るとさっそく用事を言い付けられた。反抗したらまたトンファーが飛んでくるから仕方ない。ゆるく返事をして隣接している給湯室へ向かう。

これは雲雀くんにパシられるようになってから気付いたことだけど、応接室も給湯室も、風紀委員(ていうか雲雀くん)がよく使う部屋は普通の公立学校とは思えないほどよく設備が整っていた。例えば今使ってる電気ポットも最新のやつで使いやすいし、コンロは無駄に電気式だし、壁に設置されたクーラーは明らかに他の部屋のものよりちゃんとしてる。ソファやテーブルだっていくら応接室だからと言っても、あたしでも分かるその高級感はやっぱり学校のものとしては似つかわしくない。その辺りから、どれだけこの委員会(ていうか雲雀くん)の権力が高いかが分かる。活動場所だってそう。だって、応接室を使う委員会とか前代未聞すぎる。これじゃ応接室が本来の役割果たせないじゃん。応接できないじゃん。絶対おかしいでしょ!

さっきの購買のおばさんといい、これといい、咲ちゃんから風紀委員会(ていうか雲雀くん)はヤバイとは聞いてたけど、想像以上だ。ヤバイ。


「雲雀くん、お茶です」

「ああ、ありがとう。貧乳の天宮」

「べろ火傷してしまえそしてしね!」


ああもう、なんであたしこんな人にパシられてるんだろう!

修正 160329
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