悪戯


――寝ている。

応接室の片付けを言い渡して群れを咬み殺しに行き、帰ってきたところで雲雀はソファで眠りこけるミナを見つけた。出ていく前より部屋が整理整頓されているから、掃除は一応終わっているのだろう。口を半開きにした、それはそれは餓鬼臭い寝顔に雲雀は溜め息をついた。


(…馬鹿面……)


なんとなく、頬を引っ張ってみる。眉間に皺が寄るが起きる様子はない。鼻をつまみ引っ張っても、もごもごと何かを言うだけでやはり起きなかった。爆睡している。

そのまま退屈そうに寝顔を眺めていた雲雀が、ふと自分が使っているデスクに目を留めた。必要最低限のものしか置いていない良く言えば小綺麗な、悪く言えば殺風景なデスク。そこにあるペン立てをじっと見つめ、再びミナの方へ視線を戻す。


「…………」


うず。

立ち上がってペン立てから黒いペンを抜き取った雲雀は、そっとキャップを外した。


「うー…」


結局、ミナは最後まで起きなかった。









そんな気分でえがいた









「ぬわあああ!?」


鏡に自分の顔を映したあたしは大きく声をあげた。酷い顔だった。黒いインクであちこちに落書きが施され、もはや元の顔の原型が残っていない。しかも油性。こんな惨状になっているあたしを一番最初に見つけた草壁先輩は必死に笑いをこらえながらまぁまぁと肩を叩いてくる。


「お、落ち着け天宮。委員長もきっと悪気があったわけじゃ」

「これで悪気無しにやってた方が問題だと思いますけど!?」

「………」


どこぞのゴルゴのようにくっきりと引かれたほうれい線に極太眉。額にでかでかと書かれた「机にあるプリント一年の学年主任に渡しといて」というメモ書きにふざけんなくそやろうと思ったのは決してあたしが怒りっぽかったからではない(あたしのおでこは断じて委員長のホワイトボードではないのだ!)。あんの並盛ラブ男め。人が気持ち良く寝てる時に顔に落書きってそんなベタな。どうしてこんないらないところで茶目っ気を出してくるのか。

水道でばしゃばしゃと顔を洗いながら悪態をつく。油性の黒インクはなかなかに頑固で少し擦っただけではほとんど落ちなかった。許すまじ雲雀くん。


「今度雲雀くんが昼寝してたらもっと酷い落書きしてやります…」

「委員長は葉が落ちる音でも目を覚ますから無理だと思うぞ」

「あの人猛獣か何かなんですか!?」


「(……委員長と天宮は仲良いんだな…)」


石鹸の泡にまみれた顔のまま大声を出すあたしを尻目に草壁先輩がそんなことを思っていたこと、雲雀くんが他人にあんな子供っぽい行動をとるのは初めてであったこと。そんなのは、あたしには知る由もないことだった。

140107
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