勘違い


「天宮ってさ、」

「ん?」


学期末テストの点数が著しく悪かったあたしは、明日再試を受けることになっている。そのためのテスト勉強を、同じく再試組のツナくんや山本くん、それから助っ人としてアホ寺と一緒に行っていたとある初冬の放課後(最初は咲ちゃんに勉強教えてもらおうと思ったけど見捨てられた)。集中力が完全に途切れ、ペンを走らせる右手よりもツナくんママが出してくれたクッキーに伸びる左手の方が忙しなく動くようになってきた頃、不意に山本くんが口を開いた。


「ヒバリと一緒にいて平気なのか?」









おばかさん









「…うん?」

「あ、それ、オレも思ってた。その、咬み殺されたりしないの?」

「ああー…」


ちゅー、とストローでオレンジジュースを飲みながらどう答えようかと思案する。咬み殺されるか咬み殺されないかと言われれば、普通に咬み殺される。ガンガン咬み殺される。殴られたり蹴られたりトンファーでど突かれたり、なんてのは日常茶飯事だ。けど、イコール平気じゃないかと言われればそうでもない。そりゃあ最初は全然平気じゃなかったけど、だんだんそれが当たり前になってきたというか。


「やっぱ咬み殺されるんだ…」

「似非とはいえ女子にも容赦ねーんだなアイツ……いでッ」


誰が似非だコラ。


「っていうか、女の子に優しい雲雀くんなんてもはや雲雀くんじゃないですからね」

「……」

「……」

「……」


自分で言っておいて何だが、誰も否定しないあたり雲雀くんの悪名高さが窺える。誰もが認める鬼畜野郎とかある意味すごい。


「でもそのわりにケガしてるとこあんまり見ないよね、天宮さんって」

「そういやそうだな」

「まぁこいつはゴリラ並に頑丈な奴っスからね」

「獄寺テメエさっきからケンカ売ってんですか」


…けど、確かに委員会に入る前に比べるとケガしづらくなったような気がしなくもない。ちょっとやそっとのことじゃアザもタンコブもできなくなった。あれ、あたしもしかしてマジで頑丈になってる?


「ハハッ、すげー。ヒバリに鍛えられてんのな」

「…鍛えられ………ハッ」


山本くんが何気なく口にした言葉にあたしは目を見開いた。あたしは、知らず知らずのうちに雲雀くんに鍛えられていたのか。日々理不尽な暴力に耐えることでケガしづらい体質になっていたと…。――つまり、

雲雀くんに殴られる

頑丈になる

ケンカに負けない

雲雀くんぶっころせる!

拙い脳味噌をフル回転させた結果、ピコーンと脳内で電球が灯った。


「雲雀くんをぶっころすためには雲雀くんに殴られまくればいいのか…!!」

「(突然意味分かんね――!!)」


がばっと立ち上がり拳を握り締めたあたしにツナくん達が怪訝な顔をした。

お忘れかもしれないが、あたしはそもそも強くなって雲雀くんをぶっころすために風紀委員会に入ったようなものである。が、いつの間にやらパシリ業の方がすっかり板についてしまい本来の目的が薄れていた。ここは初心に帰り、貧乳と罵られ一発KOにされた雪辱を果たすべく強くなる努力をしなければいけない。たとえその手段が過酷なものであろうとも、必ずや雲雀くんをギャフンと言わせてみせるのだ!

――と、闘志を燃やすのは良いが頭の弱いあたしには、その強くなるための手段が矛盾を抱えまくりなことに気付くことができない。

カーディガンのポケットに常備している携帯を取り出して、電話帳のハ行から雲雀の名前を探す。そうして発信ボタンを押す直前、ツナくんが声をあげた。


「え、え!? ヒバリさんに電話かけんの!?」

「はい。雲雀くんにあたしのこともっと殴ってくださいって言うんです」

「(それただのソッチ系の人――!!)」


ずごーんと心中で何かを言っているツナくんには目もくれず再び画面に目を向けた時、突然携帯が軽快なメロディーを鳴らしだす。最近変えたばかりの着メロをぶった切って携帯を耳に当てると、たった今電話をかけようとしていた男の声が受話器越しに聞こえた。


≪肉まん買ってきて≫


突然連絡をよこしてきたと思ったらこれである。パシリの要求だ。今は夕方で、一番お腹が空く時間。この季節だし、食べたくなる気持ちは分からんでもないが。全く、何が嬉しくて一度帰宅したあたしが肉まんを届けるためだけにまた学校に赴かなければいけないのか。やってらんない。けど。


「もう! 仕方ないから買って持ってってやりますよ! その代わり(あたしを強くするために)たくさん殴ってくださいね!」

≪は?≫

「(うわー…ほんとに言っちゃった…)」


受話器の向こうで珍しく間の抜けた声をあげた雲雀くんのことは無視して、一方的に通話を切った。 それから机に置いてあった勉強道具をさっさと鞄につっこんでいく。勉強はとりあえず中断。再試は、まあ…なんとかなる、はず。よっぽど成績が悪くなければ先生も見逃してくれるに違いない。先生は脅しのつもりで落第だとかなんとか言ってくるがけど、実際そんなことはありえないんだから。義務教育万歳!


「バカだバカだとは思ってたが…、お前ほんとにバカなんだな」

「うるっさいあたしは雲雀くんにギャフンと言わせるためならなんでもやるの!」

「………」

「それじゃお邪魔しました! みんなも勉強がんばってください」


呆れ顔の獄寺のことも無視してツナくんの部屋を出る。ツナくんママにもしっかり挨拶をして(なんかブドウのアメ貰えたラッキー!)、一先ずコンビニに向かうべく走り出す。頭の中には雲雀くんがあたしの前に跪く光景が浮かんでいた。それを現実にしなければ。ぜったい、雲雀くんより強くなってやる!

頭弱い主人公 140421
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -