女の子


(※生理話/露骨な表現あり)


校内巡回をしてきた帰り。報告と今日のプリンのために雲雀くんの根城である応接室に向かう途中、お手洗いに立ち寄った。理由は単純で、まあ簡潔に言うならもよおしたからだ。深い意味はない。個室に入り、スカートの中の下着を下ろす。そしてあたしは誰もいないその空間でひい、と小さく悲鳴をあげた。

下着が、赤黒く染まっていた。染まっていたと言っても一部分だけだったけど、それでもあたしの頭を真っ白にするには充分な威力を持っている。これは、もしや、生理…!?自分が知りうる全ての情報から掘り起こした言葉に驚愕する。保健の授業で習ったことがあるとはいえ、うちは父と兄の三人暮らしで身近にいる女性はせいぜい咲ちゃんぐらいだ。もう中学二年生なんだからいつなってもおかしくなかったけど、いまいち実感が湧かなくて生理なんてもっと先の話だと思っていた。しかしその考えは甘かったようである。

全く予想していなかったので換えの下着など当然持っていないし、ナプキンもまた然り。どうしよう。軽くパニック状態だったあたしは、一先ず誰かに助けを求めようとセーターのポケットから携帯を取り出した。そして何をとち狂ったのか、真っ先に目に入ったその番号を選択し通話ボタンを親指でプッシュしたのである。









女の子の日、来る









『……何』

「雲雀くん…!」


雲雀くんは、人に電話は早く出ろと言う代わりに自分も出るのが早い。ニコール目が始まるか始まらないかぐらいのタイミングで聞こえてきたいつも通りの無愛想なテノールに、訳もなく安心する。


『同じ校内にいるのに電話してこないでくれる。用があるなら――』

「どうしよう、どうしよう雲雀くん」

『…天宮?』

「トイレで、女の子の、血で、血が」


要領を得ないめちゃくちゃな言葉の羅列を口にすれば、電話の向こう側でガタガタッと何かが倒れたような音がした。


『はあ?』

「雲雀くんどうすればいいですか」

『…………なんでそれを僕に聞くの』

「履歴の一番上にあって…」


はあああ、と雲雀くんが深く溜め息をつく。勘が鋭い彼は、あんな意味が分からない上に何か物騒な勘違いをされそうなあたしからのメッセージをきちんと理解したようだ。さすがである。


『…君の友人、部活入ってたよね』

「あっそうか咲ちゃんがいた! 吹奏楽部です」

『それならまだ校内にいるね。呼ぶから君はそこでじっとしていなよ。何階の女子トイレにいるの』

「二階です」


そうあたしが答えるや否や返事もなく通話が終了される。

その数分後、咲ちゃんがすごく迷惑そうな顔をしてやってきた。風紀委員長に呼び出されたんだけど。練習途中で中断するハメになったじゃない。どうしてくれんの。ぶつぶつと文句を言いつつもナプキンを渡してくれたりなんなりと世話を焼いてくれた。実に申し訳ない、そしてとてつもなく恥ずかしい。


「………死にたい」

「あんた、なんでわざわざ私を呼び出すのに雲雀さんの中継挟んだのよ。しかも生理ネタで」


そう、一番の問題はそこである。咲ちゃんの電話番号もアドレスも知っていたので、携帯を持っているなら本人に直接連絡した方が間違いなく良かった。しかもさっき確認したら「今日はもう帰っていいよ」と雲雀くんからメールが来ていた。気を遣われたのだ、あの傍若無人が服を着て歩いているような男に――…!!


「うわあああん明日からどんな顔して会えばいいの――!?」

「知らん」

「咲ちゃんあたしを殺してえええ」

「じゃあ死にな」

「ぐええっ、ちょ、ギブ! 首締めないでほんとに死んじゃう!」


とりあえず、明日は雲雀くんが好きなハンバーグのお弁当を作って持ってくることにしようかなあ。

130313
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