心を見つける物語
『ねえ、ウルキオラさま。ウルキオラさまには心が無いの?』
「………無い」
『じゃあ、ウルキオラさまは笑わないの?泣かないの?嬉しいが無いの?悲しいが無いの?』
「笑わない。泣かない。嬉しいも悲しいも、無い」
『ふうん。そうなんだぁ』
それっきり、ウルキオラの従属官である名前は何も言わなくなった。ウルキオラは何故彼女があんなおかしな質問をしてきたのかが少し気になったが、気になることに意味は無いと判断し、思考を止めた。ウルキオラは意味が無いことはしない主義だった。
「…………」
『…………』
ぺらり、ぺらり。ウルキオラが読む本のページを捲る音だけが、ウルキオラの自宮に聞こえていた。ウルキオラは少しだけ珍しいと感じた。名前は騒がしい破面だ。一緒にいて、この様に静かになることは滅多に、否、全く無い。なのに、今日は静かだ。何故だろうか、とウルキオラは思ったが、また思考を止めた。思うことに意味は無いと判断したからだ。ウルキオラは読書に集中することにした。
『ねえ、ウルキオラさまー』
「…なんだ」
ぺらり。ウルキオラは分厚い書物に目を向けながら小さく答える。
『あの、あのね。わたし、ウルキオラさまに渡したいものがあるんだ』
「…そうか」
『わたしがこれを渡したら、ウルキオラさまは嬉しくなるかなあ?』
「知らん」
『ふうん…』
名前はまた黙りこんだ。ウルキオラは今度は何かを気にしたり思ったりすること無く、読書を進めた。
『ねえ、ウルキオラさまー』
「…なんだ」
『これ、あげる』
ずいっ。名前からウルキオラへ、押し付けるようにして渡されたのは、真っ赤な一輪の花だった。ウルキオラはそれを小さく首を傾げながらじっと凝視する。ウルキオラは考えていた。何故、自分は花を渡されたのだろうか。考えても分からない。意味が分からない。
「……花を渡すという行為に、何か意味はあるのか」
『あるよー!今日はウルキオラさまの誕生日だもん。だから、プレゼントなんだあ』
「プレゼント…?」
ウルキオラはもう一度自らの手に握られた真っ赤な花を凝視した。以前、 何かの書物に載っていたような気がする。確か、チューリップという名の花だ。ウルキオラは、きゅっとチューリップの茎を少しだけ強く握ってみた。
『ねえウルキオラさまー』
「…なんだ」
『ウルキオラさま、嬉しいー?』
「………分からない。…ただ、この辺りが少し、暖かくなった気がする」
ウルキオラは着物越しに胸より少し上の方、虚の証である孔がある場所に触れた。何も無いはずのその場所が、一瞬だけ何かで満たされたような気がした。ウルキオラは孔に触れていた手を、名前に向かって伸ばした。
「………何故だか今は気分が良い。これは、心があるが故なのか?名前」
ウルキオラが名前の柔らかい髪を撫でてやると、名前はぱあっと瞳を輝かせながらウルキオラに言った。
『そう、そうだよ!それは心があるからなの!胸の辺りが暖かくなったのは、ウルキオラさまが嬉しいって思ったからなの!わーい、ウルキオラさまにも心あったー!』
キャッキャッとはしゃぐ名前を遠目に眺め、ウルキオラは真っ赤なチューリップ片手に小さく微笑んだ。
心を見つける物語こころ みーつけた!
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