ふわり、と微笑む


――昼休み。僕はいつも通り、学校内に風紀を乱してる奴がいないか、群れてる奴がいないか、見回りをしていた。だが残念ながら、咬み殺しがいのありそうな奴は見当たらない。つまらないし、あとの見回りは草壁あたりに任せて屋上で昼寝でもしようかな。


「…………」


ふと視界に入った、一人の女子生徒。木陰で一人、読書に明け暮れているようだ。最近の女子生徒によく見られるような極端に短いスカートでもなく、きっちりと整えられた制服。群れてもいないようだし、特に強そうでもない。興味などないので、そのままその女子生徒の前を通りすぎる。


『…あのっ』

「?」


通りすぎようとした、のだが、呼び止められた。この僕を呼び止めるなんて、平凡な見た目であるにも関わらず意外と度胸はあるらしい。微妙に感心しつつ、女子の方に向き直る。無視しないでやったのは、その度胸に免じてだ。今日の僕は、割と機嫌が良いらしい。


「何か用?」

『ハンカチ、落ちましたよ』


見れば、彼女の手には確かに僕のハンカチが乗せられていた。ちなみに、ハンカチは黒色の無地のものだ。僕は無言のまま、差し出されたハンカチを受けとる。その時に女子生徒が持っていた本の表紙が見えた。それは時代劇を書籍化したもののようだ。見かけに寄らず、なかなか渋い趣味をしている。


『雲雀さん、お仕事お疲れさまです』

「は、」


僕が本に気をとられていると、不意に聞こえた労りの言葉。一瞬何を言われているのか分からなくて、不覚にも僕の口から間抜けな声が出た。本当に不覚だ。


『風紀のお仕事、頑張ってくださいね』


小さく笑って言った名も知らぬ少女に、今度こそ何を言われたのか分からなくなった。多分、激励の言葉をかけられたのだと、思う。でもなんで、それこそ初めて会ったような奴にそんなことを言われたのか分からない。理解不能だ。この時、僕には彼女が宇宙人に見えた。なのに、


「ありがとう」


僕は宇宙人相手に何を言っているのだろう。というか、人間相手にだって僕はこんなこと言わない。今度は自分が宇宙人になってしまったように感じた。僕がなんともいえない複雑な気持ちになっていると、気付いたらあの女子生徒はいなくなっていた。なんだかもうどうでもよくなって、僕もまたその場を立ち去る。見回りは、もう少し頑張ろうと思った。

―――脳裏を過ったのは、「頑張ってくださいね」と言った宇宙人の微笑み。



ふわり、と微笑む
ああ僕は きっと、

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