ごめんね恋心


「恭弥ったらまた怪我してる!」

「こんなの怪我の中に入らない」


ぷいっと顔を背けて言う恭弥のことは無視して、救急箱から取り出した消毒液で怪我した所を消毒する。確かに深い傷ではないけど、ばい菌が入って化膿してしまったらいけない。消毒を終えたら、包帯を丁寧に巻き付けた。


「この傷…、刃物で切られたの?」

「…草食動物のくせに脳はあったみたいだね。ナイフでもなきゃ僕を倒せないと踏んだらしい。まあ全部返り討ちにしたけど」


特に興味もないので適当に相槌をうつ。最初の頃はそれはもう飛び上がるくらいに驚いたけど、さすがに今は慣れた。恭弥は重度の戦闘狂だから、こんなことはよくあるのだ。とは言っても、前に隣町の中学に乗り込んで大怪我をして帰ってきた時はショックやら悲しさやらで涙が止まらなかったけど。まあ今はそんなことどうでもいい。


「恭弥、お昼ごはん用意してないでしょ。作ってきたから一緒に食べよ」


スクールバックを漁ってお弁当を取り出す。恭弥が複雑な顔をしてこちらに視線を向けてくるけど、気付かないフリをした。恭弥が何を思っているかは分かっていた。はい、と言って黒い布に包まれたお弁当箱を手渡す。専用に用意した恭弥のお弁当箱だ。恭弥は一瞬躊躇ったようだったけど、素直に受け取ってくれた。


「名前、」

「いただきまーす!」

「なんで、」

「卵焼きおいしー、我ながらカンペキだわ」

「…なんで僕に構うの」


からんからん。軽い音をたてて、私の手から箸がすべり落ちる。作っていた笑顔のまま、表情が固まる。恭弥は無表情だった。無表情のまま真っ直ぐに私を見ていた。私は恭弥の顔を直視出来ずに、恭弥が学ランの袖に通している風紀の腕章を見ていた。

――恭弥の質問は尤もなものだった。私は恭弥の家族でもなければ召使いでもない、況して彼女なんかでも。恭弥と私の関係は、言うなれば同じ学校に通っている少年と少女、ぐらいのものだ。それ以上でもそれ以下でもない。出会いは覚えていないけど、私達の関係は出会った頃から何も変わっていない。だから、こうして他人の、しかも泣く子も黙るような最強の不良の世話を焼く義務も義理も私にはない。


「ねえ、なんで」

「それは…」


答えられなかった。答えは分かってる。だけど答えられなかった。答えは簡単だった。私は恭弥が好きなのだ。でも告白する勇気はなくて、だけど少しでも傍にいたくて、だから世話を焼くことで恭弥の傍にいた。それで満足していた。でも、それも今日で終わり。泣きそうになったけど、ここで泣いちゃだめ。恭弥に迷惑だもの。


「私がただのお節介だから!…私、用事思い出したから行くね。それじゃ」


もう世話は焼かない。恭弥とは会わない。そう決意して、最後まで恭弥の顔を見ずに応接室を出ていく。後ろで恭弥が何かを言っていたのが聞こえたけど、私はその声を振り払うように応接室の扉を閉めた。



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