リア充高尾の誕生日


「あの、さー」


後ろ手に何かを隠した名前ちゃんが、俯き気味にもごもごと口を動かした。いつでもはっきりきっぱりとした態度の彼女にしちゃー、珍しい。ん?と首を傾げてみせると、余計に縮こまって首に巻いたマフラーに顔を埋めてしまう。肝心な言葉の続きは出てこないし、どうしたもんかな。


「うー……」

「なんかほんとに珍しいじゃん。名前ちゃんが口ごもるなんて」

「それは、その」

「ま、とりあえず帰りながら話そうぜ。もう夜遅いし」


なんて、オレがこんな時間まで名前ちゃん待たせてんのにな。いつもごめんね。そう言うと、名前ちゃんは私が高尾君を待ってたいだけだから、とやはりもごもごと話す。

――ちっくしょう俺の彼女可愛い!

心中で頭を抱える俺にこの子は気付いているんだろうか。



 ◇



ほこほこと白い息を吐きながら帰路を歩く。途中で肉まんを買ってって、名前ちゃんが買ったピザまんもちょっと貰って、あっという間に食べ終わり腹減ったーとぼやく俺に名前ちゃんは笑う。


「今食べたばっかじゃん」

「部活終わりのこの胃袋にはあんだけじゃ全然足りねーの」

「男の子だなあ」


いつの間にかいつもの調子に戻っていた名前ちゃんに安心して、頬を緩める。いつも通り家まで送っていくと提案して、いつも通り遠慮されて、それでも無理矢理着いていけば、やっぱりいつも通り名前ちゃんが折れる。そうして、さして意味も無いことを喋りながら歩いていたら、気が付けば名前ちゃんの家に着いていた。それじゃ、また明日な。言いながら彼女に目を向けると、また地面に視線を落として黙り込んでしまっていた。


「名前ちゃん?」


俺が声をかけるのと、胸元に名前ちゃんの頭がぶつかったのはほぼ同時のことだった。


「誕生日、おめでとう」


俺の学ランに顔を埋めて、いくらかくぐもった声で名前ちゃんが言う。一瞬鼻を掠めたシャンプーの匂いに少し心臓がざわついて、落ち着く間も無く彼女は俺を抱き締める腕にさらに力を込めた。


「う、わー…いつになく積極的じゃないすか」

「うるさい」


耳を真っ赤にさせてる名前ちゃんに、俺まで顔に熱が集まってって。カッコわりーな、とか思いつつ口角は気持ち悪いぐらいに緩まってく。


「もっと、早くに言いたかったんだけど。なんか緊張しちゃって、なかなか言い出せなくて」

「いやー、全然言ってこないから忘れられたかと思ったわ」


っていうのはウソで。俺を前にしてはそわそわと口を開けたり閉じたりする名前ちゃんが言いたいことは、今日の朝から気付いていた。ただ、そんな名前ちゃんが可愛くて黙ってたなんて言ったら怒られそうでやめた。いつ言い出してくれるのか待ってるのは正直楽しかったとか、バレたら三日は口聞いてくれなさそうだ。そいつは困る。


「えっと、これ誕生日プレゼントね」

「うおっ、なになに、見ていい?」

「うん」


離れた体に何となく寂しさを覚えつつ(我ながらきもい)貰った紙袋の口を開ける。落ち着いた色合いの毛の塊が見えて、「あ」と声が漏れた。


「…これ、マフラー?」

「うん。前に新しいの欲しいって言ってたから。……もしかして気に入らなかった?」

「いや…」


肩に掛けたスポーツバッグを開き、中から別の紙袋を引っ張り出す。さらにその中から目的のものを手に取って、名前ちゃんの前に広げてみせた。


「部活の先輩にも貰っちゃった…」

「え!?」


ずずいっと俺が取り出したマフラーに顔を近付けた名前ちゃんが、ショックを受けたように目を見開く。


「これ、手編みじゃない!」

「大坪さん最近編み物にハマってるらしくてさ」

「!!」


名前ちゃんの頭上に雷が落ちたように見えたのは気のせいなのか。ずーんと項垂れて宙にのの字を描き出す。


「負けた…大坪先輩に負けた…」


大坪さんは大柄な体型で目立つ上、バスケ部主将をやってるから他部の名前ちゃんでも知ってるらしい。

名前ちゃんから貰ったマフラーはなるほど市販のもので、色はそんなに派手なものじゃない。比べて大坪さんから貰ったのは毛糸が余っていたらしく赤色で、しかも手編みにしてはちょっと編み方が凝っている。新しい編み方を覚えたんだと誇らしげだった大坪さんに笑い死にしそうになったのはまだついさっきのことだった。


「…ぶ」

「?」

「ぶっははははは!」

「え、な、なに?」

「大坪さんの方が女子力高ぇー!」

「!!」


名前ちゃんに100のダメージ!こうかはばつぐんだ!なんつってね。硬直してしまった名前ちゃんに大坪さんから貰ったマフラーを預けて、空いた両手で名前ちゃんから貰ったマフラーを首に巻く。それから大坪さんのマフラーを受け取ってバッグの中にしまい込み、寒さに赤くなった名前ちゃんの手を取った。


「まーでも、俺はこっちのが良いから、大坪さんのやつは真ちゃんにでも譲るかな」

「なにそれ高尾君いけめん…」

「お褒めに預かり光栄でっす」


…ってか、ここで先輩とはいえ野郎の編んだマフラーの方が良いとか言う馬鹿はいまい。大坪さんには申し訳ないけど、市販のものだろうとなんだろうと彼女が選んでくれたやつの方が数段嬉しかった。

にししと笑った俺に、名前ちゃんも同じように笑みを返す。その口からこぼれた白い息が俺の顔にかかって、あー俺ら青春してんなって思うと少しだけこそばゆくなった。


「ありがとな!名前」


マフラーの恋しい季節になりましたが、俺は今年も幸せです。




131123

大遅刻すまっせーん!!(スライディング土下座) 高尾お誕生日ございました(⌒ー⌒) 大坪さんの手編みグッズ欲しいです。 / back
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