お団子と瞳と、


暗い目だなあ―――…私が彼に抱いた思いは、それだけだった。色の無い、真っ黒な瞳。綺麗というよりは、そう、深く深く、ひたすら深い、そんな瞳。数年前に暁に入ってきた年若い青年、うちはイタチに私は特に興味を持つことはなかった。今、この時までは。


「…………」

『…………』


もくもく、もくもく。私達の間にある音は、どこか間の抜けたように聞こえるそれだけだった。その発信源は、私の隣からである。リーダーから言い渡された任務をこなし終えた私とイタチは、小腹が空いたのとちょうど任務先の近辺で美味いと有名な茶屋の近くを通りかかったのとで、その茶屋で少し休憩をとっていた。普段ツーマンセルを組んでいない私とイタチが一緒に任務を行っていたのは、イタチの相方である鬼鮫が少し重要な私用があるとかで任務に出られなかった為だ。私は、隣で無表情のまま団子を頬張るイタチを凝視した。


「…………」

『…………』


手にはみたらし団子の刺さった串が握られ、膝の上には同じくみたらし団子が十数本も乗った皿が置かれ。無表情で食べているはずなのに、そのみたらし団子が心底美味そうに見えるのは何故だろう。ていうか、イタチはこんなに満腹キャラだったのか。いや、違う。確かイタチは、普段は食が細かった。あまり食事を共にしたことがないから自信はないが、現に、イタチはかなり細い。最近なんかはその細さにさらに磨きがかかったようにさえ見える程だ。私はさらに、イタチを凝視した。気配に聡いイタチのことだ、そのことに気付いていないはずはないが、彼は完全に無視を決め込んでいる。仕方なく、私は彼に声をかけることにした。


『お団子、好きなの』

「ああ」


即答だった。そこまで高速で答えなくてもというぐらい。私が「の」を言い終わるか終わらないかの絶妙なタイミングで言い放ったイタチに、私は若干引いた。気を取り直し、もう一度口を開く。


『なんか、意外だな。イタチがお団子好きだなんて。他のものはあまり食べないでしょ』


ずず、とお茶を口に含む。今度は少し遅れて、イタチから「まあな」と、返ってきた。イタチと任務以外のことでこんなにお喋りしたのは初めてだった。デイダラや飛段なんかとはよくどうでもいい内容でお喋りすることはあったが、イタチはなんか、人を寄せ付けないオーラみたいなのがあって話しかけづらかった。でも、今日その勝手な偏見が少し取り払われた。私は調子に乗って、またイタチに話しかける。


『私もね、お団子好きだよ。みたらしも好きだけど、三色のやつも大好き。可愛いし、美味しいし。あと、焼き団子に海苔を巻いたやつも!イタチはどう?』

「ああ、俺も好きだ」


心なしか少し緩んだように見えたイタチの口許を見て、嬉しくなる。普段無表情しか見てないだけに、得した気分だった。にやけてしまう口許を抑えることも忘れ、そのまましばらくの間イタチと会話していた。会話、といっても、私が一方的に話しかけて、それにイタチが相槌を打つ。それだけだった。それだけだったけど、楽しかった。イタチと話してる時は、心が何故かほっこりと暖かかった。

―――その時、イタチの深い色の瞳がとても優しい光を帯びているように感じた。



 ◇



あれから、何日か経った。何日経ったかは、覚えていない。元々、時間の感覚にあまり興味はなかった。S級犯罪者の集まりだった暁は、ほぼ壊滅状態だった。メンバーのほとんどが死亡、もしくは戦闘不能に陥り、今は私とゼツと、サソリさんの後釜で入ったトビとかいうなんかあまり好きになれない奴しか残っていない。リーダーも、デイダラも飛段も、あのイタチも、みんなみんな―――…。なんだか寂しかった。S級犯罪者が寂しいだなんて、聞いて呆れる。だけど、私だって人間だもの。仕様がないよね。


『それにしても痛いなあ…』


かくいう私も、もうすぐ地獄へと旅立とうとしていた。どくどくと流れ出る血を見て、苦笑いが浮かぶ。だいぶ派手にやってしまったものだ。視界が霞む。死神はもう、目の前にいた。


『おだんご…』


また、イタチと一緒に食べたかった。また、あのほっこりとした気分を味わいたかった。でも、それは叶わない。私がこれから行く地獄には、きっと彼はいない。私はすべてを知った。イタチの真実は、あまりに残酷だった。だけど彼はきっと後悔していないだろう。最後まで弟を思い、愛した彼は、笑って死んでいった。そしてそんな彼を地獄に落とすほど、神は残酷ではない。ていうか、そうじゃなかったら神まじブッ殺ス。


『イタチ、』



お団子と瞳と、
馬鹿な私と それから


中途半端で終わってしまった感が拭えない。だって仕様がないよね。夜中(っていうかほぼ朝)に書いたんだもの。深夜の勢いってこんなもんだ。だけどお目汚しすみません。
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