夜中のプレゼント


『おかえり、神田』

「…まだ起きてたのか」


薄汚れた団服を見に纏い、ランプを片手にぶら下げた少女はにこりと笑って頷いた。それを見て、神田は呆れたように深く深く溜め息をつく。


「今何時だと思ってやがる」

『深夜の2時、かな?』

「……3時だ」


ああ、そうだったね。言って少女はまたにこにこと笑った。神田からすれば、何が面白くてそんなに笑っているのか全く以て意味が分からない。いや、彼女はきっと面白くもないのに笑っているのだろう。そちらの方が意味が分からないが。


「お前も、任務だったんだろ」


薄汚れた団服を一瞥し告げれば、少女――名前は笑みを崩すことなく答えた。そうだよ、今日は…いや昨日は任務だったんだ。いつ帰ってきたんだと問えば、5時間前と悪びれもせずに答えられた。馬鹿だ、こいつ馬鹿だ。しかもこいつが行っていた任務は長期のものだと記憶している。相当疲れただろうに、俺を待つためだけにここで5時間も待っていたのか。神田はもう一度溜息をついた。


「少しは自分の体を労れ」

『やだ神田、心配してくれてるの?』

「うるせェ」


ぷいと顔を逸らした神田に特に気分を悪くするでもなく、名前は飽きもせずに笑っていた。それがなんだか余計に居心地が悪い。この変な空気をなんとかしたくて、神田はあまり物事を考えないまま口を開いた。


「何か俺に用があったんじゃねェのか」

『あ、そう。そうなんだ』


言って名前は、団服のポケットをごそごそと漁り始めた。名前のポケットは教団内で密かに四次元ポケットと囁かれているぐらい謎が多い。一体その小さな袋にどれだけのものが入っているんだと毎日つっこみたくなるぐらいである。一度、そのポケットの中から茹でる前の蕎麦が出てきた時はさすがの神田でさえも目を剥いた。


『あ、これだ』


むんずと名前が掴み出てきたのは、しわくちゃになった小さな包みだった。しわくちゃにはなっているが、その包みには丁寧にラッピングが施されていた。本当に、しわくちゃなのが残念である。


『これ、神田にあげる』

「あぁ?」


ぐい、と押しつけられたそれを見て、神田は眉間に皺を寄せた。こいつが、俺にプレゼント?怪しい、怪しすぎる。ぜってえまともなものじゃねェ。名前#の顔を見れば、相変わらずの笑顔。いい加減その表情にも飽きてきたのだが、まあそんなことはどうでもいい。


『遅れてごめんね』

「は、」


一言そう告げると、名前はそそくさと立ち去っていく。神田は結局訳が分からないまま、柄にもなくぽかんと口を開けてその場に突っ立っていた。神田の手に抱えられたしわくちゃの包みがガサリと揺れる。ハッピーバースデイ、神田。そんな言葉が誰もいないはずの教団のエントランスに響いた気がして、初めて神田は昨日が自分の誕生日だということに気付いた。



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