愛してたんだ


私はイタチと所謂幼馴染みという関係にあった。物心ついた時からずっと一緒にいた。イタチはとても良い奴だった。強くて頭がよくて何でも出来る才能に恵まれていたにも関わらず、そんな自分を決して周りに自慢したりしない。しかもとびきり優しいときた。こんな完璧な人間、いるだろうか。私は彼をとても誇りに思っていた。同時に彼に大きな嫉妬の念も持っていたけど、それ以上に彼が大好きだった。だから、


『イタチ…?』

「…………」


だから、彼が武器を構えて私の家に入ってきた時は、本当に驚いた。意味が分からなかった。でも次の瞬間、何事かと玄関に出てきた両親がその刃に貫かれていくのを見て、否応なしに状況を理解させられた。イタチは私の両親を殺し、そして私を殺そうとしている。周りはやけに静かだった。違和感が私の頭を過る。静かだ、静かすぎる。――まさか。


『一族を全員…殺したの…?』


イタチは何も答えない。私は入り口に立つイタチを押し退けて、外に出る。その瞬間鼻をついたのは、濃い血の臭いだった。視界に入る全てのものが信じられない。ほんの数分前、お裾分けにとたくさんの野菜をくれた隣の家のおばさんは、苦悶の表情を浮かべ地に伏せていた。いつもきゃっきゃと元気に走り回っていた近所の子供達も、玩具を握りしめたまま動かなくなっていた。家の中に視線を戻せば、大好きだった父さんも母さんも胸から血を流していた。当たり前だった日常が、がらがらと音をたてて崩れていく。ああ、どうして。


『どうして!!』


腰に付けたポーチからクナイを取り出し、何も考えずイタチに飛び込んでいく。だけどそんな攻撃をイタチが防げないはずもなく、私は次の瞬間にはあっさりと彼の手によって首を締め上げられていた。


『っ、……ど、…して…』

「…………」

『どうして、そんな悲しい顔してるのよ…!』


イタチは涙を流していた。透明な雫がぽたぽたと地面に染みを作っていく。イタチが私の首を締める力は変わらない。私はもがくことも出来ないまま、意識が少しずつ薄れていくのを感じていた。それと同時に、今までのことがまるで走馬灯のように蘇ってきた。うちは一族の皆の優しい笑顔。私は、一族の皆が大好きだった。強い誇りを持った彼らが、大好きだった。


『ッ…』


中でも一番だったのは、この一族殺しである彼だった。幼い頃からずっと一緒にいた、彼だった。ずっと一緒だったから、彼のことはなんでも分かっているつもりだった。好きな食べ物も、嫌いな食べ物も、得意教科やあまり好きでない教科、それから、好きな女の子のタイプだって。でも、私は何も分かっていなかった。一族を殺した理由も、この涙の理由も。思えば、少し前から彼は様子がおかしかった。人との関わりを不自然に避けていたり、その表情に暗い影を落とすようになっていたり。そのことを母さんに話せば「思春期なんだから色々あるわよ」と返されて、それで納得してしまった。この時ちゃんとイタチの話を聞いてあげれば、何かが変わっていただろうか。


『…………』


どちらにしろ、もう手遅れだった。私はもう虫の息。声は出ない。視界も霞み、今は二重に映ったイタチの姿しか見えない。こんな時でも、私の頭を埋めつくすのは大好きなイタチの優しい笑顔。あの顔、もう一度見たかったな。最後に、笑ってくれないだろうか。ねえイタチ、私ね、貴方のこと――…


貴方は気付いてたんでしょう?
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