はっぴーばーすでい!


『ね、今日って何の日だと思う?』


そう問われた時、僕はいつも決まってこう答える。


「…知らない。学校の定休日でしょ」


世間では一般的に『こどもの日』と呼ばれるその日も、僕にとっては『並中の定休日』でしかない。なぜなら、こどもの日なんてものはどうでもいいからだ。学校の定休日という理由があるから一応覚えてはいるけど、何か面白い事があるわけではない。こどもの日は僕の誕生日だけど、それもやっぱりどうでもいい。そんなものに興味を持てる奴らの気持ちなんて、僕には皆目検討つかないな。

でもそれは、いつもの僕だったらの話だよ。


「ね、今日って何の日だと思う?」


そう僕に質問した君の瞳は、僕と違ってどこか輝いている。ねぇ、君は今何を思っているんだい?


「…さぁね。知らないよ」

「えー?知らないの?今日はこどもの日なんだよ」

「ふぅん。…どうでもいいよ」


そう。こどもの日なんて、どうでもいい。君って、馬鹿みたいだね。そんな事をこの僕に聞くだなんて、さ。僕の事をよく知ってる君なら分かるだろうに。僕はそんな行事に興味がないってことぐらい。


「こどもの日はね、こいのぼりを外に飾るんだよ。それでね、ちまきを作って食べるの」


興味ないってば。そんな話。もっと、他に話はないの?つまらない。僕を楽しませてよ。


「でもね、でもね。5月5日は他にもやる事たくさんあるんだよ」


こいのぼりなんて知らない。ちまきなんて知らない。こどもの日なんて、知らない。


「どうしたの?眉間に皺寄ってる。怒ってるの?」

「怒ってないよ。ただ、不満なだけさ」

「何が不満なの?」

「別に。…君には関係ないよ」


…嘘。関係ないわけない。分からないの?君は僕が、好きなんでしょ?それぐらい分かって当然なはずなんだけど。

―――僕が生まれてきたことに一番感謝しなきゃいけないのは、君だろ?

ただ一言、言ってくれれば良いんだ。その口で、いつもの様に優しい口調で。"ハッピーバースデイ"ってさ。そうすればきっと、このモヤモヤした気持ちなんてすぐに消えてなくなるから。


「ふふ、分かりやすいなあ…」

「…何」


急に笑い出す君。口を手で押さえて、背中を震わせていた。なんだかすごく、不愉快だ。


「…ムカつく」

「わっ、ごめん。ごめんって。落ち着いてよ」

「………」

「だってさ、とっても分かりやすいんだもの」

「だから、何が」

「今、考えてたでしょ。自分の誕生日の事」

「…なんで、」


なんで知ってるの。そう言い切る前に、僕は口を閉じた。とても恥ずかしかった。これじゃまるで、自分の誕生日を催促してるみたいだ。…実際、そうなのだけど。それをあっさりと見破られた事も恥ずかしい。やっぱり、僕の事を一番良く知ってる人間だけあるな、なんて。そんなどうでも良い事を考えた。


「言ったでしょ?5月5日は他にもやる事があるって」


そう言うと、どこからか綺麗にラッピングされた包みを取り出して、それを僕に押し付けた。がさり、と、包みが揺れる。人懐っこい笑みを浮かべて、君が大きく口を開いた。


「はっぴーばーすでい!」


今までに何度誕生日を迎えたかなんて覚えてないけど、これだけは分かるよ。僕は今、とても気分が良い。


「うん。…ありがとう」




 fin


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…何これ」
「何って、誕生日プレゼントだけど?」
「そうじゃなくて。…何これ」
「み、見れば分かるでしょ!手錠を操る恭弥人形だよ。私の手作りなの!」
「……未確認生命体の間違いじゃないのかい?」



君の生まれた日に
片手に贈り物を 片手に愛を


雲手錠同盟へ提出
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