いざ勝負!


『わぁ…!恭弥くんかっこいいっ!』


パンと両手を合わせて喜ぶ少女は、目の前に立つ黒衣の少年―――雲雀恭弥の姿をしかと瞼の裏に焼き付けようと、これでもかというほどに目を見開かせた。


「喜びすぎだよ。…君の方が可愛いし」

『ううん!恭弥くんのがかっこいい!恭弥くんの私服姿すーっごくかっこいいよ!』


そう、雲雀は今、私服なのである。普段学生服ばかり身に付けている雲雀に、雲雀の彼女である名前が「私服着てデート行こう!」と言い出したので、彼は仕方なく自宅のクローゼットに眠っていた洋服を引っぱり出してきたのだ。

白のTシャツに、黒いジャケット、ダークグレーの細身のジーンズなど、黒を基調としたシンプルな服装は、男にしては少し白めな雲雀の肌によく冴えていて。顔もスタイルも整っている雲雀は、メンズ雑誌に載っているモデルそのもののようだった。そして、そんな雲雀の姿に名前が喜ばないはずもなく―――…


『かっこいいかっこいいっ!ねえ写真撮ろう?良いでしょう?』

「やだ」


ほんの少し、ほんの少しだけ。不覚にも、雲雀はこうして詰め寄ってくる愛しい彼女にうんざりしてしまっていた。写真だなんて、冗談じゃない。何が嫌いだとか明確な理由は無いが、とにかく写真は嫌いだ。面倒な私服を半ば強制的に着せられた上に、写真まで撮られたとあっては堪らない。

それに、さっきから彼女は自分のことを「かっこいい」だの「似合っている」だの何だの言ってくるが、彼女の方こそその私服姿は反則と言っても良いぐらいによく似合っていて可愛いのだ。


『むー、恭弥くんの意地悪ー…』


ぷぅ、と頬を膨らませていじける姿も、なんだかリスが口の中いっぱいに木の実を詰めている姿に似ていて好きだ。

名前は元々雲雀と違ってそこまで美形というわけではないのだが、恋する女は美しくなる、という言葉通りに雲雀と付き合いだしてからは女らしさが増し、ほんのり色気までが出るようになった。雲雀は別に見た目で彼女を好きになったつもりはないし、そんなものだけで人を判断出来るほど単純でもない。それでも自分の好きな人がこうして美しくなっていくのは正直に嬉しかった。―――そして、


「君の方が可愛いから。僕のことはどうでもいいでしょ」


だからこそ、これだけは譲れなかった。


『どっ…!?どうでもよくなんかないよ!恭弥くんの方がかっこいいもん!!』

「いや君の方が可愛い。10倍ぐらい」

『じゃあ恭弥くんはその100倍かっこいいよ!私なんかより全然似合ってる!』

「…それは聞き捨てならないな。君の方が1000倍可愛いんだから」

『1万倍!』

「10万倍」

『100万倍!!』



――――――…………

――――………

――…



「ハハッ!あいつら何やってんだろうなー。おもしれー!」

「けっ!公衆の面前で恥ずかしいったらねーぜ!バカなんじゃねーの」

「ちょっ!!獄寺君聞こえちゃうって!(あの二人いつまで惚けてるつもりだよ―――っ!!!)」


物陰でひっそり(?)と隠れながら、とあるバカップルの二人を見守る三人の姿があったとかなかったとか。

めでたしめでたし!



ある秋の日にて
(恭弥君、じゃんけんで決めよう)
(僕が負けるわけないだろ)


雲雀夢小説同盟へ提出
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