01



(side-獄寺)


ポニーテールのアホ女がいなくなった10代目の部屋で、俺はぽつりと立ち尽くしていた。なんだよ、あいつ…。


「いや――、死ぬかと思った。あぶない、あぶない」

「んな〜〜〜!!!」


死んでいたはずの男が頭をさすりながら言った。なっ…!なんで生き返ってやがんだ!もしかして、宇宙人か何かか!


「こいつは「殺され屋」のモレッティだぞ」


…どうやら、宇宙人ではないらしい。いつでも仮死状態になれるボンゴレの特殊工作員だそうだ。さすがボンゴレだぜ。


「ん?」


足元にあった木クズを踏んでしまった。じ、地味に痛ぇじゃねぇか…。木クズを拾い上げて窓から外に投げる。木クズは風に乗ってどっかに飛んでいった。


「そういや…」


あの木クズ、アホ女が作った屋形船の木ぐるみの一部じゃなかったけか。10代目のお部屋にゴミを置いてくとは、許さねぇぜ…。ヒバリのヤローの匂いを嗅いでいたアホ女の顔を思い出す。けっ…あれじゃ、ただの変態じゃねーか。それに、あのヒバリのどこが良いんだか。全くもって意味分かんねぇ。


「ご、獄寺君?」


っつーかアイツ…ヒバリの事が、その…すっ、好き…なのか?ついこの前まで10代目に引っ付いてたくせに…


「おーい、獄寺君ー?」


はんっ!どうせ片思いで終わるだろーな!なんせ、あの学校一筋のヒバリのことだ。あんなアホ女なんか眼中にないだろうぜ。


「ん?いや待てよ…」


仮に、両思いになったらどうする?…いや!べっ、別に俺には関係ねぇ!ほっとけば良いんだ!


――――……


ヒバリとアホ女が仲良さげに笑い合う姿が頭に浮かぶ。顔から血の気が引いたのが分かった。


「駄目だ!止めねーと!あの二人はくっ付いちゃ駄目だあ!」

「獄寺君…大丈夫?」

「…え?」

「さっきから顔赤くしたり青くしたり…変だけど?」

「なっ、なんでもありません!別にアホ女の事考えてる訳じゃないんです!」

「………」


10代目が、何故か変な視線で俺を見てきた。…まぁいい。今はとりあえず、アホ女達がくっ付くのを阻止する方が先決だ。べっ別に10代目をほっとくわけじゃねーけどな!


「アホ女とヒバリくっ付けない大作戦だぜ!」

「ご、獄寺君…」



(side-ツナ)



さっきから獄寺君の様子がおかしい。いや、まぁ…だいたい理由は察したけどさ。獄寺君ってなんだかんだハルの事好きだったんだなぁ。あれか。ケンカするほど仲が良いってやつ?あぁ…また面倒くさいことに巻き込まれそうな予感。


「まずはアホ女のヤローにヒバリがどんだけ嫌な奴か思い知らせねーとな!けっけっけっ」

「………」


獄寺君がペンを器用にクルクル回しながらブツブツと呟いている。また理論がどーのこーの考えてるな。…そういえな何でこの人帰らないんだろう。言っとくけどさ、死体事件が解決してもう5時間経ってるんだけど。山本だってとっくに帰っちゃったよ。どんだけ図々しいんだよこの人。


「もう、帰ってくれないかな…迷惑なんだけど」


…とは言えずに、仕方なくどこかの誰かさんのお陰で爆発して散らかった部屋を片付ける。あぁ、もう…なんでオレってこう、あれなんだろう。


「っしゃあ!完璧だぜ!」

「はぁ?」


片付けをしていると、不意に獄寺君が立ち上がった。その手には大量の文字やら計算式がメモられていて。それに何の意味があるのかは皆目検討がつかない。


「よし…!ヒバリめ…見てろよ!オレのこの完璧な作戦でギッタンギタンに叩きのめしてやる!」

「………」


キラキラと目を輝かせて、獄寺君はオレを華麗にスルーして部屋を出て行った。本当に何しにきたんだろう、あの人。


「ヒバリの丸頭ぁぁぁあ!!!」


窓の外から何か聞こえた気がするけど、オレは知らない。知らないぞ。面倒ごとには首突っ込みたくないんだよオレは!


「おい。ツナ」


後から面倒ごとばかり運んでくる悪魔の声が聞こえた気がするけれど、これって幻聴だよな。そう。オレはなーんにも聞いてないんだ。


「ツナ」

「オレは何も聞こえてないんだからな!あ、あんな所にカラスがいる」

「…ツナ」

「あぁ。お腹空いたな。ランボのブドウ飴貰ってこようかな。あ、でもランボのことだから包み紙だけしか…」

「このオレを無視するとは良い度胸だな。一発ドタマかち割って…」

「ほんっとすいませんでした!ごめんなさい神様仏様リボーン様!」

「フン……ツナ。お前獄寺の応援してやれ。もちろんハルのキューピットもこなせよ」

「…泣いても良いですか」


っつーかさ、どう考えても無理だろ。獄寺君を応援しながらハルのキューピットをこなすだなんて。だって矛盾しまくりだもん。リボーンとビアンキの関係と同じくらい矛盾してるもん。あれ、なんか今の表現意味分かんないな。


「獄寺のやつ、何するつもりなんだろーな」

「知らないよ!あの人いつもムチャクチャだし」

「じゃあ調べてこい」

「………」


なんか最近こんなのばっかな気がする。ああ、もっと優しくて常識のある人が家庭教師だったら良いのに。


「死ねダメツナ」

「勝手に人の心読むな!」



 ◇



結局、獄寺君の作戦を調べなければいけなくなった。どうやって聞き出そうかな。まぁ、獄寺君はオレが聞いたらすぐ教えてくれるだろうけど。そうだ。電話でもしようかな。獄寺君の携帯の電話番号って、何だっけ…?


「もしもし。獄寺君?」

『…あ、10代目じゃないっスか!どうかしたんですか?』


受話器越しに聴こえる獄寺君の声は。心なしか少し高い。…機嫌が良いのかな。


「あのさ!獄寺君、ハルと雲雀さんくっ付けない大作戦って言ってたじゃん?

『あ、はい。…それがどうしたんですか?』

「それって、具体的に何をやるのかなー…なんて。いや、その…協力してあげたいなって思ったから」

『10代目…!感激です!オレの為にわざわざそんな事までっ!』

「あはは…」


なんか獄寺君、鼻声なんだけど。これ絶対に泣いてるよね。確実に泣いてるよね。


『あ、作戦の内容でしたね。実は…』

「うん」


―――ヒバリのヤローをぶっ倒そうと思うんです


『どうです、10代目?良い作戦ですよね!』

「………」


おい、誰だよ完璧な作戦とか言った奴。どこも完璧じゃねーよ。欠点だらけだよ欠けすぎだよ。あれだけ考え込んどいといて、結局最後はこーなるわけ!?この人やっぱりメチャクチャだ―――っ!!!!


『協力してくれますよね?10代目!!』


何これどうしよう。すごく嫌だ。



 ◇



それから何やかんやで、次の日になった。永遠に今日という日が来なければいいのにな。


「おはようございます、10代目!」


後から聞こえた自称オレの右腕。何でだろうな。すんごく返事したくない。そんな思いを必死に堪えて、後を振り向いて口を開いた。


「おはよう。獄寺く…」


体に巻かれたベルトに大量のダイナマイト。手にも数本のダイナマイト。背中にも馬鹿でかすぎるダイナマイト。ダイナマイトの装備にダイナマイトの装備を重ね、またさらにダイナマイトで装備をした獄寺君が、オレの目の前に立っていた。


「何、その格好…」

「ヒバリを倒す為に徹夜して準備したんです。正直ヒバリは手強いっスからね。これぐらいしないと」

「あ、あはは…」


笑えない。本当に笑えない。何なのこの人。オレより馬鹿なのこの人。絶対馬鹿だよねこの人。


「さぁ、ヒバリの所に乗り込みましょう。10代目!」

「いや、オレはちょっと…」

「とっとと行け。ツナ」

「うわっ…リボーン!?」


またいつの間にか現れるパターンかよ!なんでこいつ普通に現れる事できないんだよ。もうちょっとさぁ、こう…「おはよう、ダメツナ」みたいな感じで。あれ、何でオレわざわざダメツナって言わせたんだろ。


「そりゃー、おめーがダメダメのダメツナだからだろ」

「だから勝手に心読むなよ!」



 ◇



「…ね、ねぇ獄寺君」

「ん、なんスか?10代目」

「本当に雲雀さん倒しに行くの?」

「ええ。もちろんっス!ヒバリとアホ女は絶対にくっ付けちゃいけませんからね」

「は、はぁ…」


あー、もうダメだこれ。目が本気だもん。本気と書いてマジと読むもん。何があっても雲雀さん倒すつもりだ。オレ本当に行かなくちゃダメかなー…。雲雀さんにボコられんの嫌だよ…。でもリボーンに獄寺君の応援してやれって言われてるしなぁ…。


「付きましたよ、10代目。応接室です。雲雀は基本ここにいると聞きましたから、今日もきっといるはずです」

「あ、えと…うん……」

「どうかしたんですか?」

「いや、やっぱり…やめた方が…」


「はひ?ツナさん?」


「!」

「!」


こ、この声は…。なんつーバッドタイミングだよ…!っていうか…


「あ、アホ女!てめー何でこんな所にいんだよ!今は授業中だろうが!学校はどうした!」


そう、そうなんだよ。今はちょうど1時間目あたりのはず。この時間帯だったら緑中生徒のハルは緑中にいるはずなのに…。


「それはこっちの台詞です!今はツナさん達だって授業中のはずですよ!」

「ぁあ?俺達はなぁ、ヒバリのヤローを…」


「僕が、なんだって?」


「いっ!?」

「っな!?」

「はひっ!」


なんか今、死亡フラグ的なもの立った気がしたんだけど。気のせいだよね。そう、気のせいだよ。あはは…あ、はは……。






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