君の笑顔


その日、私は単独の任務で少し遠くの里まで来ていた。Bランクで、特別に簡単でも難しくもない極々一般の任務。が、医療忍術を多く使うものだったそれは、私の体力を容赦なく奪っていった。というわけで、


「んーっ、疲れたあ…」


茶屋の椅子に腰をかけ、大きく背伸びをする。凝り固まった骨がパキパキと音をたて、相当に疲れが溜まっていたのが分かった。医療忍術はチャクラコントロールが難しく、普通の忍術よりも疲労が出やすい。無事に任務も終わったことだし、しばらくこの茶屋で休憩しよう。そう思い至って、茶屋のおばさんを呼ぶ。


「お団子ください」

「はいよ」


暖簾をくぐり、店の奥に消えていくおばさん。何気なく店内を見回せば、私以外の客は少し離れた場所に座った男の人一人だった。私と同じくお団子を頼んでいたらしく、お茶をすすりつつ黙々と食べている。しばらくするとおばさんが三色団子を三つ乗せたお皿とお茶を持ってきてくれた。笑顔でそれを受け取ると、おばさんは再び店の奥に消えていった。


「………!?」


慌てて視線を戻す。そしてその男を視界に捉えた瞬間、ぎょっと自分の目が見開かれたのが分かった。あまりに自然にその場に佇んでいたものだったから気付かなかったが、その離れた場所に座ってお団子を食べている男は、見覚えのある格好をしていたのだ。黒地に、赤い雲が描かれた特徴的な外套。それは、私の警戒心を強めるには充分な材料だった。


「…………」


しかし、ここで事を荒立てるわけにはいかない。今はチャクラを多量に消耗しているからまず勝ち目はないし、何よりこんな町中で戦ったら間違いなく多くの人々が戦いに巻き込まれる。仕方がない。急いで里へ帰って師匠に報告しよう。こんな所で呑気にお団子なんて食べている場合じゃない。私は下ろしていた荷物を背負うと、椅子から立ち上がった。


「そんなに急いで何処へ行く」

「!!」


ぽんと肩に置かれた手。離れた場所にいたはずなのに、いつの間に…。咄嗟に背後を振り返れば、そこには赤い瞳を不気味に光らせ、無表情で私を見下ろす男の姿が。私は見開かれていた目をさらに大きくした。こいつ、知っている。こいつは――…


「うちは、イタチ…」


サスケくんのお兄さんで、サスケくんが何より憎み、殺そうとしていた人。会ったのは初めてだけど、なんていったってS級犯罪者で、暁に所属している男だ。その顔は指名手配書の中の写真で何度も目にしたことがある。

――いや、今はそんなことどうでもいい。そんなことより、早くこの場から逃げ出さないと。けど、どうやって?これ程の実力者相手に瞬身の術ぐらいで逃げ切れる自信はない。変わり身の術やらで騙せる自信もない。…ええい、何を弱気になってるのサクラ!ここは一か八か、やってみるしかないじゃない!しゃーんなろーっ!


「…ふっ」

「え?」


瞬身の術を使おうといざ身構えたその瞬間に聞こえた、小さく吹き出す声。イタチの顔を見れば、彼は面白そうに笑っていた。その顔は女の私よりもずっと綺麗で、思わず見惚れてしまった。…って、落ち着け私。相手は暁の人間よ。見惚れてしまった、じゃないわよ。そりゃあ確かにサスケくんのお兄さんなだけあってすごい整った顔立ちしてて格好良い、かもしれなくもない、けど…。


「さっきから顔を赤くさせたり青くさせたり、君は面白い人だな」

「なっ…!」


イタチはそう言うと、また声を押し殺し、上品に笑った。もう、開き直ろう。彼は敵ながらものすごい格好良い。ああ、なんだろう、この間の抜けた空気は。とてもS級犯罪者が目の前にいるとは思えない。ていうか、相手に分かるほど感情が面に出てただなんて、私ったら忍失格だわ。


「一緒に団子、食わないか?」

「は、はあ…」


―――こんな敵の誘いに簡単に乗ってしまった私も、忍失格ね。



 ◇



イタチさんと一緒にお喋りするのは、思いの外楽しかった。彼は聞き上手なのだと思う。彼相手にだと、するすると言葉が口を出ていく。もちろん里の機密を話したりするような真似はしない。話す内容は、至ってどうでもいい話ばかりだ。それでもイタチさんは、私の話を受け流したりせず、時折相槌を打って聞いてくれた。


「それでナルトの奴がすっごいバカで――…」

「そうか。…木の葉の里は、平和なんだな」

「?」


イタチさんは笑った。その笑顔はなんだか妙に切なげで。ずきりと胸の奥が痛んだ気がした。イタチさんの額に視線を移す。一文字に傷が入った木の葉の額当て。こうやって一緒にいるだけだったら、とても彼が里を抜けた犯罪者だとは思えない。それどころか里を、木の葉を愛しているようにさえ見える。どうしてイタチさんは、里を抜けたんだろう。


「…さあ、そろそろお開きにしよう」

「あ…」

「君も、里に帰らないといけないだろう?」

「はい…」


ああ、どうして。どうして今、私は彼と離れたくないなんて思ってしまったんだろう。彼と私は敵同士のはずなのに。複雑な表情をする私を見かねたのか、イタチさんは優しく微笑んだ。


「仲間を捨ててはいけない」

「!」


そしてそれまでの優しさが嘘だったかのように、イタチさんは再び赤い瞳を不気味に光らせ、表情を消した。幾度となく人を殺してきた、恐ろしい犯罪者の顔。体が凍りついたように動かなかった。


「次に相見える時、俺達は敵同士だ。……じゃあな」


イタチさんはそう告げると、その場を去っていった。「仲間を捨ててはいけない」「俺達は敵同士だ」、その言葉は、まるで私の心情を読み取っていたかの如く私の心に深く突き刺さった。私の心を掴んでおいて、なんて狡い人なんだろう。






君の笑顔
もう一度だけ見てみたい、なんて




思いの外長くなってしまった。イタサクで原作設定だとどうしてもシリアス気味になるよう。ほのぼの書きたかったのに/(^o^)\ そしていつも中途半端で終わった感が残るのはなにゆえだ…!途中からイタチの呼び方が変わってるのは仕様です。
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -