踊る孔雀の夫


※公式ミニキャラで、愛抱夢が孔雀に扮していたことから派生したネタです



 私の夫は踊ることが大好きです。嬉しさの絶頂に至ると楽しそうに軽快なステップを刻んで、スペイン舞踏を思わせる踊りをします。
 夫の名前は愛之介さんというのですが、彼は最近ある夢をよく見ると言っていました。詳しく話を聞いたところ、愛之介さんは夢のなかで孔雀のオスなのだそうです。
 孔雀のオスは豪奢な飾り羽を持っています。より美しい飾り羽を持ち、ダンスが上手い個体ほどメスが愛を受け入れます。愛之介さんはオスのなかでも、一際美しい飾り羽を有していて、ダンスも実に情熱的で上手だったといいます。
 彼は平和に暮らしていましたが、ある時、ひとり水辺に佇むメスの孔雀に心を奪われたそうです。
 彼女には既に番いのオスがいました。しかし愛之介さんは即座に飾り羽を扇状に広げ、情熱的にアピールしたそうです。

「ごめんなさい、私にはもう番いのオスがいるの。」

 メスの孔雀は慎ましく頭を下げ、愛之介さんの美しい飾り羽を見ずに断りました。その貞淑な様子にますます熱を上げてしまったそうです。水辺でちろちろと水を含んでいる姿も餌を啄んでる姿も何もかも可愛らしく感じられ、すっかり夢中になってしまったのです。
 こんなに心惹かれるメスは他にいない、彼女こそ自分の運命の相手だと愛之介さんは求愛のダンスをしました。

「君と番いになれたら、僕はどれだけ幸せだろう。」

 愛しいメスの孔雀にすりすりと体を寄せ、彼女の番いがいない間は、愛之介さんはまるで本当の番いのようにふるまいました。その情熱と求愛は放っておけば、一生続くと思われるほどに。やがて彼の熱意に折れたのか、メスの孔雀がそっと身を寄せて提案しました。

「わかりました。今の番いのオスがもし寿命で亡くなりでもしたら、あなただけのメスになりましょう。死がふたりを別つまで、私はあの方の番いです。」

 この言葉を聞いた愛之介さんは、とても喜びました。彼は愛しい彼女との薔薇色の未来を思い描き、盛大に飾り羽を広げました。

「わかった。ああ、早く君の番いになりたいな。」

 愛之介さんは律儀にも、彼女の番いのオスの寿命が尽きるのを待ったそうです。しかし生涯番いを持たなかった孔雀の命は短く、愛しいメスより彼は先に命を失ってしまいました。
 愛之介さんはこの時、相当悔しい思いをしたといいます。最愛のメスと番いとして蜜月を迎えることなく、未練たっぷりのまま、孤独な孔雀のオスとして死を迎えたのですから。
 彼はこの時、強く決意したのだそうです。次の世では必ず、どんな手段を使ってでも愛しいイブ(運命の相手)を手にいれるのだと。


 
「この夢の教訓は、愛する者はいかなる手段を使ってでも手に入れろということだ。」
「たとえその人にもう決められた相手がいても?」
「愛に障害は付きものだよ。僕は運命の相手と見定めたら、もう絶対に逃さない。」

 愛之介さんはそう断言しました。彼自身に飾り羽などついていないのに、豪奢で贅沢な雰囲気をまとっているように感じられました。

「……そう。」
「名前はあの時のメスの孔雀によく似ている。義理堅くて貞淑で、頭が回る。僕は名前のすべてが愛しくてたまらない。」

 愛之介さんはうっとりと私の左手を取り、その薬指に収まるマリッジリングへとキスを施しました。感極まったのか、手を取ったまま踊り始めました。翻るロイヤルブルーのスーツが、まるで優雅な飾り羽のように感じられました。

「……愛之介さん。私の婚約者だった人が行方不明になったことについて、何か知らないですか?」

 私には愛之介さんと結婚する前、婚約者がいました。誠実で真面目な男性でした。しかし結婚を控えたある日、彼は財布や手荷物ごと私の前から消え、警察では蒸発と処理されてしまいました。
 愛之介さんは朗らかに微笑みました。ステップを刻み、情熱的に私をリードしながら。

「さあ、知らないな。どこかで寿命が尽きたんじゃないか?僕と名前が結ばれるのは運命だった。それだけの話だ。」



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