「夕くん、夕くん、星が綺麗だよ」

そう夕くんに声をかけると、彼は私の頭をポンポンと撫でてからニカッと笑った。「そうだな!」夕くんはそう言うけれど嘘だ。だって夕くん、空を見ていないもの。
それが少し悔しくて目をそらすと首を傾げられてしまった。挙げ句の果てには「気分が悪いのか?」と心配される。

「もう、夕くんは……」
「え!?な、なんか、わりぃ…」

多分何も理解していないまま夕くんは謝っている。
夕くんが私を心配してくれるのはすごく嬉しいけれど、何もそんなに気を使わなくてもいいのに。

私は昔から身体が弱かった。生まれつきのものだ。母も父も兄である夕くんもパワフルな人だったからいつかは治ると信じているけれど、正直、学校に行くことすらつらいこともある。クラスメイトに助けてもらいながらなんとか暮らしていけているけれど、私の一挙一動が気にされているというものはなんともむず痒い。

特に夕くんの心配性はすごいものだ。
今日はたまたま太陽に当たりすぎて倒れたのだが、どこから情報を聞き付けたのか、保健室に運び込まれた次の瞬間に夕くんがそこに駆け込んできた。それも授業中なのに、だ。
夕くんは私の手を握り、しきりに「大丈夫か!?」と聞いてきて、大丈夫だと素直に答えても「倒れたんだから大丈夫じゃねぇ!」と一蹴されてしまう。しまいには諦めて、大丈夫じゃない「ふり」をしてしまうほど。
そのせいで今日は早退してしまったのだけれど。

部活から帰ってきた夕くんはものの五分で夕御飯を食べ終え、私の部屋に駆け込んできた。何度「平気」だと言っても聞く耳を持っていないからどうしようもない。あとはもう夕くんにされるがままの二時間。

二時間ずっと彼は私の側から離れない。時々口を開いては「名前と俺が同じクラスだったら…」とかバカみたいなことを言い出すから質が悪い。そんなこと出来るわけないでしょう と、心で指摘するだけに留めている私を誉めてほしい。

「夕くん、夕くん」
「んー?」
「私、今日はもう大丈夫だよ?」
「………お前、この前大丈夫って言った後に倒れただろーが」
「この前って………何年前の話よ……」

ちなみに小学生の時の話だ。それを「この前」なんて言いながら持ち出すなんて、肝が座っているというか、ただのバカじゃ……。

いやいや、兄がすごいのは多分私が一番理解している。夕くんは本当に私にはもったいないぐらいすごい人なんだから。

「でも夕くん、今日はもう眠たいの…」
「じゃあここで見てるから!」
「部屋もどれ」
「もしまた喘息とか痙攣とか起こされたら困るだろ!」
「そ、それはそうだけど……」

前科があるだけに強く言えない。でも、夕くんは明日も早くから部活なんだから、早めに寝てほしいし……。

あ、そうだ。

「じゃあ、夕くん。一緒に寝よう?」
「え、俺と名前が?」

うん と頷けば夕くんはニカッとお決まりの笑みを浮かべた。ああ、この笑顔、夕くんだなぁ。

「じゃあ、お邪魔します」
「どうぞどうぞ」

夕くんは私のベッドに入り、こちらを向いて微笑む。私も笑顔で返した。

「これなら安心でしょ?」

私の言葉に夕くんは頷く。
そして彼は布団の中で私の手を握ると「おやすみ」と呟いて瞼を下ろした。

数秒後に聞こえてくる大きないびきを期待しながら、私も瞼を下ろす。

おやすみ夕くん。今日も、私を守ってくれてありがとう。
明日も明後日も、私を守ってね?



「ん〜ぐががが……!!!」

(いびきうるさい……)


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