徹は努力家だ。
天才ではない。でも天才に勝つために努力を重ねる。
そんな彼は私にとって誇りであり、コンプレックス。
どうしても比べられてしまうから、少しも手を抜けない。
嫌ではない。頑張ることは好きだから。張り合いがあって、楽しい。
でも、徹は、天才じゃないから、天才には勝てないんだ。
私も徹の力になりたい。見ているだけは嫌だ。
もう、自室で泣き崩れる徹なんて見たくない。薄い壁一枚越しの泣き声なんて聞きたくない。
三年であるこの時期に転部は出来ないからマネージャーにはなれないけれど、それでも自主的にバレー部に訪れる。記録の付け方を独学で覚えて。タオルやドリンクを配って。部活後の自主練習にも付き合って。
私に出来ることはなんでもしたい。
「名前」
みんなのタオルをたたみ終わり、部室に片付けていた時、背後から声をかけられた。徹の声だ。私は棚の扉を閉めてから振り向く。
「お疲れさま、徹」
「名前もお疲れ」
いつもはみんなの前で笑顔を絶やさない徹も、私の前だとふと真顔に戻る。きっと私が姉や妹だったら、こんな顔は見せてくれない。私が、「双子」だったからこそ、徹は何も取り繕うとしないんだ。
「今日も徹が最後?」
「そ」
徹は部室の扉を閉めると、ユニフォームを脱ぐ。私は鞄に入れておいたタオルを彼に投げる。これは家から持ってきたタオルだ。タオルを受け止めた徹はそれで体を拭く。
私はベンチに置かれたユニフォームを畳んだ。今日もびっしり汗に濡れている。
「名前」
「なぁに?」
「こんなに遅くまで付き合ってくれてありがと」
「こんなに遅くまでお疲れさまって気分なんだけどね、私は」
徹は下のユニフォームも脱ぎ、私に投げてくる。それを畳み、上下セットで徹の鞄にしまいこんだ。
汗を拭き終わった徹は私にタオルを渡すと、ロッカーを開き、着替えを始める。例えイケメンであっても、双子の兄貴の着替えシーンにはテンションが上がらない。岩ちゃんのがいいな。
着替え終わった徹は私から鞄を受け取り、歩き出す。私も自分の鞄を肩にかけ、あとを追う。
部室から出ると、外はもう月が昇っていた。8時ぐらい、かな。
「「綺麗…」」
私と徹の声が重なった。驚いて目を合わせる。徹は「真似しないでよ!」といつもの調子で笑う。
ちなみに何を綺麗だと言ったの?と聞くと、彼は月を指差した。同じだ。思わず笑ってしまった。
こういう時、なによりも血の繋がりを感じる。きっと私たちの考えてることはほぼシンクロする。
だから、今目指している場所も同じ。
私たちはどちらかともなく手を繋いで、歩き出した。
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