「全てはクイーンミラージュ様のため」

ファントムの忠義はどこか依存的で危ない。見ていられないのだけれど、私は何も言えない。

世界中のプリキュアと戦い、いつ倒れるか分からない戦場で、ただクイーンミラージュ様のために彼はカットラスを振るう。
その姿が大好きで大好きで、だからこそ見たくなかった。

「オレはクイーンミラージュ様のために剣を抜く」
「そうだね」
「邪魔する者は全て叩き斬る」
「……」

彼に強くあってほしいと願うなか、どこかで負けてほしくもある。
これ以上彼が苦しまなくてもいいように、誰か彼を倒して。そして止めて。
こんな汚いことを願うぐらいしか、私には出来ない。

「ファントムは、強いもんね」
「ああ」
「すごい自信」
「事実だ」
「うん。たくさんプリキュア倒したもんね」

今までのプリキュアはみんなファントムにやられてしまった。

キュアテンダーはいいところまでいったのだけれど、ファントムが言う「甘さ」のせいで、今や墓場で眠っている。
彼女に「甘さ」さえなければ、今ごろファントムは私の隣にいてくれたのだろうか。
それは何か、違うような気がした。

「甘さ」が無ければ、彼女はあそこまで強くならなかった。
「甘さ」が、守りたいものがあったからこそ、彼女はファントムを追い詰めることができたのだ。

ファントムが言っていることは、時々矛盾する。

まあ、強さだけを極めたファントムなのだから、ちょっとぐらい抜けていても仕方ない。その力は仲間である者からも嫉妬の対象にされているのだから。

「ファントムって、周り見えている?」
「周り?」

そう、例えば私とか。
そんなこと、口が裂けても言えないけど。言わないけれど。
どこまでも一方通行なんだよな、結局。みんな、そうだ。

「ううん、見えてないならいいの」
「……?」

見えてないなら、それでいい。
無理して見なくていい。
泣いてる私なんか、見ないで。見つけないで。知らないままでいて。

まぁ、ファントムのことだから周囲に目を向けてもなお、何も変わらないかもしれないけど。
多分ね、彼の視界に入りたいだけなんだよ、私は。

綺麗事で飾った醜さ。

「ファントム」
「今度はなんだ」
「ファントムってね、亡霊って意味なんだって」
「……そうだな」
「うん、それだけ」

私の方がよっぽど亡霊だろう。
ふらふらさ迷って、どこに辿り着くでもなく、ただただその背中を追いかけて、追い付けなくて、辛くて、歩みを止めて、後悔して。バカらしい亡霊だ。

「ファントム」
「……」
「ファントム」
「……どうした」
「私は好きよ、ファントムって名前」
「そうか」
「ファントムは好き?」
「考えたこともない」
「勿体ないなー」
「名前は自分の名の意味を考えたことがあるのか?」
「ないよ」
「ふん」

だろうな。ファントムは鼻を鳴らし、それっきり口を開かなかった。
あ、私も何も言えない。
沈黙だ。もう、助からない沈黙の海。
終わったんだ。
私は見つからないように涙を流した。

君は亡霊だよ。
ふらふらと、掴めたと思ったらすり抜けてしまう。
そんな亡霊だよ。