気付いたら、私の幼馴染みは私だけの幼馴染みではなくなっていた。
要と私は家が隣で、生まれた時から遊んでいた。
しずねぇや日紗ちゃんと遊ぶこともあったけれど、結局は要といる時間が多かった。
でも私は昔から身体が弱くて幼稚園も休みがちだったから、要が幼馴染みと呼んでる三人とは余り関わらなかった。
私には、要だけだったのだ。
それはきっと恋とかそういうものではなくて、もっとそう、単純な独占欲だったのだと思う。
私には、要だけなのに、要には、私だけじゃない。
それが何より悔しくて、悲しくて。
私はよりいっそう引きこもった。
小学校も中学校も、私はまともに学校に通わなかった。
それは病弱に託けた不登校であったと、その時から理解している。
友達が欲しくないとか、きっとそんな風には思っていない。
でも多分、友達が欲しいとも思ってなかったのだと思う。
結局私の世界には要一人で。
それ以外に何かがいたって、何もいなくたって、私にとっては何も変わらないことだったのだろう。
「名前」
要は毎朝私の部屋にやってくる。
いってきますを言うために。
そして出来れば私を外に出すために。
「おきてるか、名前」
「おきてるよ」
私がいつも通り返せば、要は少しだけ口角を上げる笑い方をする。
布団の隙間からその表情を見て、私は安心するのだ。
要はまだ私を助けてくれるのだと。
私はどこかで怯えていた。
いつか要が私に愛想を尽かして、離れていってしまうんじゃないかと。
誰かと結婚して、家庭を築いて、私なんかに割く時間なんて無くなって。
それで私は本当に一人になるんだ。
「あのさ名前」
要がベットサイドに腰かけた。
スプリングがギギッと音をたてる。
人の重みを表現するこの音が好きだ。
私の存在すら証明してくれる。
要は私の前髪を指で払い、優しく頭を撫でてくれた。
病人でも怪我人でもないのに、その手つきはどこか割れ物を扱うよう。
でもね、要。
要がいくら私に優しく触ろうとも意味がないんだよ。
だって、私は既に欠陥してるんだもん。
「なぁに、要」
「実はさ……」
少しだけ布団をずらし、しっかりと顔を出す。
するとまた要は口角を上げた。
「俺の幼馴染みとアホ猿にお前の話したら会いたいって言われてさ、悪いけど会ってやってくんねぇかな?」
俺の、幼馴染み。
そうだ。
私と彼の幼馴染みは違うのだから。
それにしてもアホ猿……。
気になるけれど、私なんかが入っていい空間なのだろうか。
そこには私がいなくても回る空間感があって。
私の知らない要がいて。
だから私はいらなくて。
そこに私はいられなくて。
どうしても、私は弱い。
「いやだ……」
私は布団を深く被る。
ここから出たくない。
要以外に干渉されたくない。
「要だけ、いればいいもん…」
チラリと要を盗み見れば、彼は複雑そうに笑っていた。