玲央はズルい。
私のためにそんなかっこまでして。
好きにならない方がおかしいよ。

なのに、君はもう「女」だから。

だから、玲央はズルいんだ。

君を好きになったときにはもう、君は立派な「女」になっていた。

「あら、どうしたの、名前」
「玲央……」

放課後の帰り道。
二人並んで帰るこの道は、もう当たり前のものになってしまった。

生まれたときからお互いを知っているのだから、当たり前にもなるか。

私たちは家が隣同士の幼馴染み。
それも幼稚園から高校までずっと一緒。
中学受験も一緒にやった。

ひたすらに同じ方向を向いて歩いてきたのだ。

「相談なら乗るわよ?」

玲央はどうしたの?と顔を覗き込んでくる。
綺麗な瞳にとらえられて、思わず身を引いてしまった。
玲央はそんな私に目を丸くして、それから長い睫毛を伏せる。

形のいい唇から溢れたのは謝罪の言葉で、私は勘違いさせてしまったことに気付いた。

「ち、違うの玲央!!玲央は怖くないわ!!」

私が必死になってそう言えば、彼は徐々に口角を上げていき、最終的にはいつも以上に笑顔を湛える結果となった。

私は軽度の男性恐怖症だ。
本能的に苦手なのだろう。特に男性から暴行を受けた経験などはない。

それを知っている玲央は私と距離をとってくれている。
それが嬉しくて、悔しかった。

そんな私が玲央を平気なのは、きっと彼が女性のような振る舞いをしているから。
そして彼が女性のようなかっこをしたがるのは、きっと私のため。

私を、怖がらせないため。
その優しさが、私には痛い。

私は男が怖くて、でも男な玲央が好きで。
でも玲央は私のために「女」になって、だから私は、立ち尽くすのだ。

「さぁ、帰りましょ」

玲央は何も躊躇わずに私の手を取った。
一瞬だけドキッとしたが、私はその大きな手を握り返す。

ほんとに大きな手。
骨ばってゴツゴツしている。
こういうところはちゃんと男なんだもん。
意味わかんないよ。

ほんと、いっそのこと玲央が女だったらよかったのに。
そしたら私は、こんなにも苦しまなかったのに。

玲央のバカ。

「ふふ、名前の百面相」

彼は女性らしく、楽しそうに笑って前を向く。

私は自分が百面相していたことを悟り、恥ずかしくてそっとうつむいた。