驚いたかな。
いきなり来て。
目を腫らしていて。
驚いたからなにも言わないのかな。
「とりあえず、入りな」
嶋田さんは私の腕を引いて家に入れてくださる。
季節は冬。今さらそんなことを思い出した。
ダメだ、全身が熱くて、なにも考えられない。
嶋田さん家はとても暖かかった。冷めた心を包み込んでくれる。
そう思うと、また涙が流れてくる。
嶋田さんはなにも言わない。
迷惑だろう。
分かっている。
分かっているけれど。
泣かせてほしい。
今は泣くことしかできないから。
嶋田さんは私の頭を撫でてくださる。
不器用な手つき。
嬉しくてたまらない。
次々と流れる涙を拭っていると、自然と言葉が漏れた。
「フラれた……………フラれっちゃった………」
今日、大好きな先輩に告白した。
嶋田さんは近所のよしみで私の相談にのってくれて、色んなアピールを教えてくれた。
精一杯アピールしたの。でも、ダメだった。
「年下には興味ない」って。アピール以前の問題で、なにも考えてないのが分かってバカらしくなった。
バカらしくなってね、泣くしかなかったんだ。
涙しか、流れなかった。
「そっか……」
彼は小さく呟く。
何か気の利く言葉がほしいんじゃない。
ただ、そばにいてほしかった。
嶋田さんに。
一番お世話になった彼に。
「馬鹿な男だよ」
彼がにこりと笑う。
先輩のことを言っているのかと思ったけど、そうでもなさそうで、なにも言えない。
「その先輩も、俺も。馬鹿ばっかりだな男は」
「……?」
首を傾げると嶋田さんは自嘲気味に笑いを溢した。脆い笑顔。
消えちゃいそうで怖い。
「年下には興味ないとか、もったいないこと考えるよなぁ」
励まし、というわけでもなさそう。
そんな風には聞こえないから、なんとなくだけど。
嶋田さんは笑みを浮かべていた笑みを引き締めると、ゆっくりと私を抱き締めた。
拒絶も、なにもできない。
余りにも優しいその動作に、なにも反応ができない。
「好きな男がいるやつを好きになる俺も馬鹿だ…」
「嶋田さ…」
「俺は名前が好きだよ」
彼を引き離そうと肩に伸ばした手が止まる。
ああ、私も馬鹿だ。
知らなかった。
嶋田さんの気持ちなんて。
私は学生だから、彼にはそんな感情がないものだとばかり。
同じ人間で、違う性別なのに。
あり得ないものだとばかり。
私を抱き締める手が強くなる。
私はただその腕に身を任せた。
今は甘えさせて、その好意に。
ごめんなさいごめんなさい。
その好意という安心の中で、泣かせてください。