アンジェロ様はとっても綺麗な顔立ちをしているの。それでいて努力家で、一途で。でも、ただ純朴なわけじゃない。
人一倍過酷な人生を歩み、世の中の汚いところを余すことなく見てきたはず。
彼の瞳はいったい何を見て、彼の脳は何を感じたのか。他人であり、ましてやニュータイプではない私には、一生分かることはないだろう。

だからこそ、私は彼が羨ましい。
こんな美しく生きている人に嫉妬しない方がおかしい。美しいっていっても、綺麗ってことじゃない。彼の美しさはその汚れと強さだから。身体に刻まれているだろう生々しい痕の全てが美しい。

ずっと見てきたんだ。アンジェロ様のことを。羨ましくて、憎くて憎くて、それでも尊敬して。ぐちゃぐちゃになりながらも彼を見てきた。
私は底辺でただ彼を見上げるしかできない。

羨ましいと呟きながら。
強く拳を握りしめながら。

だから彼が今私の目の前にいるのはおかしいの。
アンジェロ様はまさしく雲の上の存在で、私の目の前に降りてくるなんてありえないこと。
なのに彼は私が手を伸ばしたら触れられる距離にいる。

ああ、やっぱり綺麗だ。
白銀の髪、アメジストの瞳。高価な宝石で彩られているかのごとく神々しさ。私の視界を、爛々と光らせている。

「名前」
「え、あ、は、はいっ」

いきなり名前を呼ばれ、声が上ずる。
私があわただしく姿勢をただし、返事をすると、アンジェロ様はふっと口角を上げた。そんな気を張るな、楽にしろ。と、ありがたい言葉付きだ。その言葉がむしろ私を緊張させるのだと、彼は気付いていない。

「お前、私の秘書官になるつもりはないか」
「え……?」

いきなりの申し出。
断る理由なんてないのに、余りにも申し訳なくて、辞退するためのいいわけを考えてしまう。
というか、なんで私を秘書官に?
私は目立った賞罰なく、アンジェロ様とは真逆の穏やかでつまらない人生を歩んできた。秘書官なんて経験ないし、アンジェロ様が私を推薦する意味がわからない。

「なにも今すぐとはいっていない。時間はとるよ。しっかりかんがえてくれ」

アンジェロ様はそう言い残して背中を向けてしまった。
言いたいことは何一つまとめられてないのに、ついつい彼を呼び止めてしまう。このままいかせてしまったら、なにもわからないままだ。
アンジェロ様は私の制止に振り向かず、ただ足を止めてくれた。

「私が、何かしてしまったのでしょうか」
「…………」

未だ背中を見せてくるアンジェロ様が、視線だけをこちらに投げてきた。

「何か、か……」

その表情はどことなく明るい。そして綺麗だ。

「さぁな、教えてやる気はない」

嘯いたアンジェロ様は笑みをこぼし、歩き出してしまう。
もしかしたらの可能性を導き出したり、さっきの笑みはなんだったのだろうかと考えてみたり。精一杯脳を回すが、なにもまとまらない。
余裕そうに笑っていたアンジェロ様が羨ましくて、やっぱり私は嫉妬していた。叶わない背中だとは気付いているが。