私は見てしまった。
愛しの明智光秀様の素顔を。

それは殿と、まったく同じものだった。
まるで双子……いや、同一人物のような…。本当に、疑いようもないほど瓜二つ。

光秀様は何かを隠している。絶対に、私たちに言ってないことがある。

「光秀様のお顔を拝見したいのですが…」

光秀様は密会を好む。といっても、二人きりの方が一人一人の意見を聞きやすいから、ということらしい。はじめの方はドキドキしていたが、今はもう無駄な期待はしないことにしている。

「わ、わしの顔か…?」

いつも涼しい顔をしている光秀様の目が、大きく見開かれた。やはりそうだ。隠しているんだ、その顔を。信長殿と瓜二つの顔を。

「はい、光秀様のお顔です」
「いや……そんな、なんの変哲もない、普通のものだ。つまらないだろう?」
「いいえ。私はそんなこと思いません」
「だ、だが、名前殿に病が移るかもしれぬ」
「光秀様に移されるのなら本望です」

光秀様は頑なだ。確信した。やはり、何かがおありなのだ。
私はそんなことどうだっていい。光秀様の顔が誰に似ていたって、光秀様は光秀様だから。気にしない。
だから、私には何も隠さないでほしい。

「知っています」
「え?」
「私、光秀様の素顔を知っています」
「…!?」

やはり、見られたことに気付いておられなかったようだ。隙だらけの光秀様も素敵だけど、心配になる。本当に隠したいことならば尚更。

「見てしまったのです。都合が悪うございましたら、今すぐ私に自害を命じてください。光秀様が望むのなら私は…」
「分かった。分かったから、そんなことはしないでくれ。名前殿が死んでしまったら……わしは悲しい」

本当に悲しそうな目をなさる。ずるいです。私は、何も言えなくなってしまうから。
それでも、私は彼を愛してしまっている。

光秀様は一つ頷くと顔に巻かれた布を外された。
私はごくりと唾を飲む。

「ああ、この通りだ」
「やはり、殿と……」

瓜二つ。
そっと手を伸ばしかけて、彼が光秀様ということを思い出した。私は手を引っ込めようとするが、光秀様に掴まってしまった。

「光秀、様…?」
「怖がらないでほしい。わしも分からないのじゃ。ただ、わしとサ……信長様の顔は瓜二つ。それだけは確かなこと」
「怖がるなんて、そんな…」

そんなこと、あるはずないのに、彼に掴まれた手は震えている。
光秀様は複雑な笑みを浮かべる。念願の素顔なのに、普通に喜べない私が嫌いだ。

「わしはわしじゃ…。何も変わりはしない…」
「っ……」

憂いに満たされた言葉に何も言い返せない。この方は何を抱えていられるのだろうか。私では抱えきれないようなものなのだろう。とても重く、複雑なものなのだろう。

「だから、そなたは笑っていてくれ」

彼は私の手を自分の頬に当てた。いつも布に隠されていた頬は白く、冷たいのに、生きている。

「はい……」

なぜか泣いてしまいそうになって、必死に涙を飲み込んだ。
あなたが、泣きそうだから。でも泣かないから、私も泣けはしないの。

こんなに苦しいのに、今彼を見つめられること、触れられることが嬉しくて仕方ない。
どんなに隠し事をしていたとしても、明智光秀様、彼は、私の愛した人だから。