恥ずかしがりのエピナール



ねえ、隼。隼ってば。

隼の腕の中に閉じ込められて、約1時間。寛いでいたところ突然正面から抱きしめられた私は、最初は嬉しく思っていたし今も嬉しくはあるけれど、一向に動く気配のない隼にさすがに困り始めた。時たま名前を呼ぶけれど、少し身をよじるだけで効果はなさそうだ。

一体どうしたというんだろう。隼は照れ屋さんであまり積極的ではないから、何かあったのかなと心配してしまう。


「ねえ、隼……どうしたの?」
「ん……いや、……何でも、ない」


やっと喋ったと思ったら、何でもないだなんで。そんなわけない。きっとユートや瑠璃がこの光景を見ても、隼に何かあったのかと心配してくれるだろう。
けど、隼だってたまにはこうしたくなるときもあるんじゃないかななんて、私の思い違いでなければ嬉しい。だってそれは私のことを求めてくれてるってことだから。でも、やっぱり心配してしまうのは私が彼に対して過保護だからだろうか。


「何でもなくないよ〜、いつもは抱きつくだけで顔赤くしちゃうくせに」
「そ、れは……くっ」
「言い返せないくらいの自覚はあるんだね…ん」


隼の口がちょうど首元にあるからか、彼が喋る度に少しくすぐったい。
くすぐったさに身体を震わせれば、寒いのか、なんて顔をあげた隼が見当違いなことを言ってくる。


「あはは、違うよ。隼の息が首にあたってくすぐったかっただけ」
「……それは、悪かった」
「ね、それより、どうしたの突然」
「……」
「黙らない!」


また黙り始めた隼の表情を見ると、あれ、さっきより顔赤くなってるような気がする。ううん、完全に赤くなってきている、現在進行形で。
今こうしていることに照れているわけではなさそうだ。じゃあ、何に?

「名前が、前に言ってただろう」
「うん?」
「俺の腕の中は、安心すると」
「……うん、言ったね。正確には隼の匂いだけど」
「……っ。そ、それで、昨日お前が、何か不安そうな顔をしていたから」
「あ、え…」
「だから、俺は」


そこで隼は口を噤んでしまう。
つまり、今日のこの時間は私を安心させるために、ずっと抱きしめてくれていたと。
それを理解した途端、急激に体温が上昇したのが自分でもわかった。顔も真っ赤なことだろう、今の隼に負けず劣らず。


「……い、言ってくれないと、困っちゃうよ?」
「…………言えるか、バカ」
「ば、バカは隼だもん……うー…」


普段はツンケンしてて、結構人の話を聞かないくせに、なんでそういう、ああもう!なんなのもう!
お互い顔を真っ赤にして抱きしめあって、ホント何してるんだろう。ユートや瑠璃に見つかったらしばらくからかわれちゃうな。
そんな現実逃避をしている私を隼は見逃さない。少しカサついて熱を持った唇が、私の唇に押し付けられた。触れるだけで直ぐに離れた、短いキス。だけど隼にとってはかなり積極的な愛情表現だ。


「……今日の隼は、なんか積極的だね」
「嫌か?」
「ううん……か、カッコいい、よ?」
「……っそう、か」


抱きしめられてから約2時間。
ユートが帰ってきてようやく私たちは身体を離したのであった。


……………………………………


ヤンデレユーリとの交換でいただきました!
シュンデレ可愛すぎかよ





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