素直じゃなくて何が悪い!



今日は静かな日だ。

というのも、オービタルがいないからだろう。

いつも俺の名前を騒がしく呼ぶあいつがいないとこんなにも静かなのかと部屋を見回す。

部屋には他に誰もいない、俺だけだ。

ハルトは遊馬のところに行くと出かけてしまった。

こんな時こそハルトと二人っきりで過ごしたいものだが……ハルトの時間を奪ってまでそんなことはしたくない。

今日は一人でゆっくりしようと椅子に座ろうとした瞬間だった。


「カイトさんカイトさん!! 見てください! オービタルが仕事さぼってストーカーしてる証拠写真ですよ!!」


ものすごい騒音を響かせてドアを開き、何やら紙切れを持って興奮し叫びながら入ってきたあいつ……名前にまたこいつか、と思わず眉間にしわを寄せる。


「そんな怖い顔しないで下さいよ〜。それより見てくださいよこれ!」


半ば強制的に渡された紙きれ(写真)だったが、俺はそれを見ることなく目の前で破り捨てた。

名前は涙目になりながら、その場に膝をつく。


「ええええええ!!?? 何するんですか!?」

「俺はこんなものに興味はない」


ひどく驚いたそいつを後目に、こいつにかかわるのはめんどうだと、その場を離れようとした俺だったが、無理だった。

名前はそのまま俺の脚に掴まりそれを阻止した。

振り払おうとしたが、意外にも力が強く不可能だった。


「逃げないで下さいよ! 人のせっかくの努力を無駄にしたお詫びに私とデートしてください!!」

「知らん、俺の管轄外だ!」


足に力を込めるが、やはり脱出はできない。

……こんな状況ではあるが、俺はふとこいつの、俺に対する執着心について考えた。

いつからかは覚えていないが、こいつは急に俺に付きまとうようになった。

そのせいでどちらが俺にふさわしいかなど、オービタルと口論になって大騒ぎしていたこともあった。

オービタルはまだしも、赤の他人のあいつが、なぜ俺にこだわる?

俺はゆっくりと力を抜いた。

俺の抵抗がなくなったのが意外だったのか、名前は不思議そうに俺を見上げた。


「カイトさん……?」

「……お前にひとつ聞きたいことがある」

「あ、はい! 何ですか!?」


ビシッと急に正座をした名前と目線を合わせるため俺もしゃがむ。

もしかしたらこいつの顔をしっかり見たのは今が初めてかもしれない。

……意外に綺麗な顔立ちだ…………何を考えているんだ、俺は

首を軽く振ってさっきの疑問を投げかける。


「お前はなぜ俺に付きまとう? なぜそこまで執着する?」

「え、だってカイトさんのこと好きですもん」


まず言葉の意味ではなく、返答の速さに驚いた。

しかし、すぐに意味を理解し、唖然とした。


「もう、そんなことも分かってなかったんですか〜。天然ですね〜」


そんな俺を気にも留めず、名前は一人でへらへらと笑っていた。

こんな俺が好きだと? いつもお前に冷たく接しているのに?

わけが、わからない。


「……カイトさんは私のことどう思ってます?」


名前は急に笑顔を消し、真剣な顔つきになった。

俺はハッと我に返った。

今まで見たことないような表情に引き込まれた。


「俺は……」

「嫌い……ですよね。個人的にはアピールのつもりでいつもあなたについて行ってたんですが……やっぱりその態度だと私のこと嫌いですよね……。ごめんなさい、もう目の前から消えます」


瞳を潤わせ、どこかへと立ち去ろうとした彼女の腕をとっさにつかみ、彼女の体を自分へと引き寄せた。

逃れようとする彼女を今度は俺がしっかりと抱きしめ、阻止する。


「嫌、ではない」

「で、でも、いつも冷たいじゃないですか……!」

「それは……」


彼女に指摘され、自分の行いを振り返る。

さっきの写真を破り捨てたこともそうだが、俺はこいつにたくさんひどいことをしてきただろう……俺が覚えていないくらいに。

でも、こいつのことが嫌いかと言われれば、そんなことはなかった。

むしろ……こんな俺にも無邪気に笑顔を見せて、いつでも俺の側にいた彼女にひかれていた。

俺は心のどこかでそれを認めたくなくて、ずっと彼女に嫌われそうなことをしてきたのかもしれない。(もっとも、それでもずっとそばにいたが……)


「……素直に、なれなかっただけだ」


小声でつぶやくようにささやいた。

名前に聞こえるかも微妙なくらい小さな声だったと思う。


「本当に、嫌いじゃないんですか?」


それでも名前はしっかりと聞いていたようで再度確認をしてきた。

俺は短くあぁ、と返事を返す。

その瞬間、彼女の表情が明るくなり、さらにまるでタックルをするかのように俺を抱き返してきた。

それを受け止められず、俺は名前とともに後ろへと倒れる。


「じゃあじゃあ、デートしてくれますよね!?」


さっきの真剣な顔はどこへ行ったのか、かなり興奮した様子で俺に迫ってきた。

今のやり取りの後ではな……

呆れ気味に承諾すると、彼女はすぐに俺の上から退き、やったー! と声を上げながら飛びあがった。

しかし、俺はただし、と続けた。


「ハートランドシティ以外の場所だ。知り合いに見られたら面倒だ」

「あれ? もしかしてカイトさん……」

「……なんだ」


名前は条件を話した直後にニヤニヤと不審な笑みを浮かべた。


「もしかして〜、誰かに見られるのが嫌なんですか? そんなに照れなくてもいいですよ〜。私とカイトさんの仲の良さを皆さんに見せびらかしてあげましょうy「やはり今日は一人で過ごす」

「え、そんな! 冗談ですよ!!」


俺の脅迫に焦った彼女の腕をひき、外へと連れ出す。

最初は俺が腕を引っ張っていたのだが、いつの間にか名前は俺の腕にしがみついていた。


「意外と楽しみにしてるんですね」

「黙れ」

「……相変わらず素直じゃないですねぇ」


彼女は文句を言いながらもさらに腕に力を込めた。

それが温もりを求めている小動物のように見え、愛おしく感じたが……そんなことは口が裂けても言わない。



……………………………………

Light&Darkness様から10000hitリクエストで頂きました!

ツンデレカイト様が可愛すぎて指が震え出しましたよ!
どう責任をとるおつもりですか!!(机叩き

素敵なカイト様、ありがとうございました!





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