ハンカチ?腕時計?お菓子?マフラー?
色々考えては頭に×を作る。ハンカチはすぐ破けてしまうし腕時計なんて高いもの買えないしマフラーは……つけてるところ見たことないなぁ。やっぱり無難にお菓子?
1月28日、今日は僕の先輩平和島静雄さんの誕生日だったりする。トムさんが朝メールで教えてくれた。…どうせだったら一週間前くらいに教えてくれれば、こんな慌ててプレゼント考えずにすんだのに。なんて悔やんでも仕方ない。
実は今日、静雄さんと会う約束をしている。昨日静雄さんが顔を赤くして「明日、空いてないか?」って聞いてきたのだ。少し疑問に思ったんだけど「いいですよ」と返事をした。その疑問はトムさんのメールですぐ分かったんだけど……
「(誕生日に過ごすのが僕でいいんだろうか…?)」
「……ゴホン!」
「……あ、」
目の前には数学の先生が仁王立ちしていた。いけない、今は授業中だった!
「次の問題を三好、解いてみろ」
「……はい」
考えを中断して黒板へ向かった。……周りの視線が痛い。
***
結局、無難にケーキを買ってしまった。本当は作りたかったんだけど…。スポンジから作るにしてもクリームから作るにしても時間が足りなかった。
「三好」
心地よい低い声がした。振り返ると静雄さんが公園のベンチに座っていた。どうやら待たせてしまったらしい。慌てて走ると静雄さんは「転ぶから走らなくていい」と笑った。
「…転びませんよ。」
「お前、この間走ってこっち来たら途中でコケただろ。トムさん心配してたぞ」
「……気を付けます。」
「おう」
静雄さんの視線が僕の目から手にうつる。何だこれ?と言いたげな視線になんとなく苦笑いしてしまう。自信を持って渡すには慌てすぎた気もする。でも、喜んでくれたら嬉しいから。
「誕生日、おめでとうございます!」
「……え」
静雄さんの目が僕をうつす。そのまま固まってしまった静雄さんが面白くてつい笑ってしまった。
「トムさんから誕生日だって聞いたんです。もっとはやく教えてくれたら良かったのに」
「…………」
「……?静雄さん?」
「…あ、ああ。悪い、その…祝ってもらえるなんて思ってなかったつーか」
静雄さんは気まずそうに目を逸らした。僕は驚いてしまって一瞬反応が遅れた。
「祝いますよ!だって静雄さんが生まれてくれた日ですよ。僕、静雄さんがここにいてくれて、生きてくれて嬉しいんです」
「!!」
生まれてくれた事に感謝しているのだ。静雄さんがここにいるから僕は静雄さんに出逢えた。それはスゴく嬉しくて素敵な事。
「だから、これはプレゼントです。ケーキなんで良かったら食べてください」
「…サンキュ。」
静雄さんはケーキを受けとってくれた。照れているのか少し頬が赤くなっている。僕は嬉しくて笑ってしまう。
「三好も一緒に食べないか」
「え、でも。」
「このまま夜飯食べようぜ。…嫌か?」
「嫌じゃないです!ただ、誕生日に過ごすのが僕でいいのかなって…」
すると静雄さんは首を傾けて、何を言ってるんだ?といいたげな雰囲気だった。
「お前と一緒が良いんだけど?」
「っっ!!」
今度は僕が照れる番だった。真っ赤に染まる僕の頬を静雄さんは不思議そうに見ていた。
「そうだ。どうせだったら俺の部屋に来いよ。飯も買って部屋で食べた方が寒くねぇし」
「あ、じ、じゃあ夜ご飯作りますよ!」
「!!本当か!」
「はい、簡単なもので良ければ」
「あ、……でも冷蔵庫空だった」
「スーパーに寄ってから、静雄さんの部屋ですね」
クスッと笑う僕を見て静雄さんも「そうだな」と微笑む。少しでも今日が幸せであるように、と心の中で祈りながらスーパーへと足を向けた
Happy Birthday!
祝ってもらうつもりなんてなかった。ただ、今日、会いたかっただけだった。だから「誕生日、おめでとうございます!」驚いた。そしてその言葉を聞いてスゲー嬉しかったんだ。俺が生まれた事に喜んでくれる奴がいるなんて。考えた事さえなかったんだからよ。
だから、ガラにもなく思っちまったんだ。来年も、お前に祝ってほしい。ってさ。