第6話




「んじゃ…思いがけねー無人島に…」

「「カンパーーーーイッッ!」」


グラスが高々と持ち上げられ

賑やかな宴が始まった。






「うんめえええっ!この肉、超うめェーし!!」
「うわ!ほんとにコレ、美味しいです♪ こっちのマリネもサイコーですね★」

もぐもぐとローストビーフを頬張るハヤテと
皿にとったナギの料理を、口いっぱいに、頬張るトワ。

競うように食べる2人を、隣で●●●が、くすくす笑う。

おれも肉を片手で頬張り、ジョッキの酒を飲み干して、またそこに酒を注ぐ。
今朝、上陸を決めたってのに、ナギのメシはさいこーだ。


「たくさん焼いたからな。どんどん食え」

ナギが放ったひとことで、ハヤテは身をズイと乗り出し、皿に肉をゴッソリよそう。
瞬く間に胃に納めると
奴はまた、皿に肉を積み上げていく。


「……おい、」

その様子をワイン片手に眺めるシンが、器用に眉を吊り上げた。

「おまえ…馬みたいに食って…それで味が分かるのか?」

ハヤテはフォークを口に突っ込んだまま、「分かるに決まってンだろ」と顔だけ上げた。

「ナギ兄のメシは、なに食ってもウマイんだよ…つか、ソレ食わねーなら、オレにくれよ!」
「はあ‥っ?!」

ブンンッッ、と何かがいきなり伸びた。
咄嗟にシンは身をかわす。
ハヤテのフォークが、グサッと足元に刺さっていた。

「だ……っ、誰が要らないと言った、この胃袋バカがァ!」
「そうじゃねーの?おまえ全然、食ってねえから」
「これはあとでゆっくり…って。 お前にやるモンは、これっぽっちもない!」

ぴしゃりと言われ、あまつさえ皿を引っ込められて
ハヤテは、ちっ、と舌打ちをする。
かと思うと、刺さったフォークをグイと抜き
ハヤテはまた、皿の肉を頬張り始めた。

(つかおまえ……どこ狙ってんだ…)

そんな奴らのやり取りを、おかしそうに笑うソウシと、呆れるナギ。

「うわああ!どれも美味しそう。それじゃ私は、カツサンドをいただこうかな♪」

そんな中、嬉しそうに笑う●●●が、前に並ぶカツサンドを、手に取った。
片手では持ちきれない、分厚い肉の挟まるサンドを、●●●は両手で口に運ぶ。
食う寸前、ナギが「待て」と声をかけた。

「へ?」
「お前はこっちを食え」
「?」

ヒョイと投げられた小さい包み。
中には●●●が食べやすいよう、小さくカットされたカツサンドが並んでいる。

「これって…私のためにわざわざ?」
「別にわざわざ、って程じゃねェ。お前の口でも食えるよう、ちょっとカットしただけだ」

ナギの顔が、ほんの少し赤くなる。

「でも、持ちやすくて食べやすいです★」

それを受けて、●●●の顔も、ポッと少し赤くなる。
こういうところがナギの良いところであり……油断ならねェところだ…

●●●は、ありがとうございますと、小せえ口を目一杯開け、カツサンドを頬張った。

「!」

途端、花咲くように綻ぶ。


「ふわああああ……ナギさん、凄くおいしいです♪」
「そうか?」
「はいっ!冷めてもこんなに美味しいなんて、さすがナギさん♪ほんとに美味しい!」

嬉しそうに笑いかけられ、まんざらでもねェ顔で、ナギも笑う。
そんな2人を、横から交互に、眺める、おれ。

「そんなにうまいか?」
「ええ…すごく♪」

●●●は笑って、またナギと目を合わせ、笑い合う。
その様子にメラメラと、嫉妬心が渦巻いた。


「――なァ…」

イライラの頂点に達した俺は、●●●が手に持つカツサンドに、視線を送る。

「そんなに美味いなら、おれにも食わせろ」
「ん?そう?じゃあ…船長には…」

当然●●●は前にある、野郎サイズのカツサンドに手を伸ばす。が。
ムカつくオレが食いてーのは、それじゃねェ。

どれにしよっかなァ〜とか言って、●●●は右手を彷徨わせるが
おれは逆の手とグイと掴んで、食いかけのカツサンドを、パクッと全部、食ってやった!

「‥っああああーーー!」

ついでに指まで、しゃぶってやる。

「……っ〜〜〜!」
「こりゃ…うめえ、うめえ、さいこーだ」
「!」

してやったり顔で笑うおれを、横からジトリと睨む視線。

「もぅ!……船長の分はこっちにたくさんあるのにぃーー!」

指まで舐めたー!とか言って、ぷくっとホッペを膨らませるコイツが、ホントにかわいい。
がはは…と笑って、ちゅ、とホッペにキスをする。
満足したオレが、ジョッキの酒を一気に飲み干し、手元の酒を掴んだ瞬間――

いや〜〜な視線を感じた。

「………!」

顔を上げて、ギクリとした。
そこには‥‥人でも殺しそうな、ナギの顔。

「な、なんだよ…」

たじろぎながも問うオレに、
ナギは「酒」と言って、おれの手元に視線を落とした。

「さ、さけ…?」

地を這うような低い声に、誰かがゴクッと唾を呑む。

「……酒、無くなったら、取りに行ってもらうんで」
「……!」

辺りがしんと、静まり返る。
無言のままの野郎たちが、沖に泊まるシリウス号を、一同揃って返り見た。 



「ブゥゥゥッッッーー!」

直後ハヤテが、腹抱えてゲラゲラ笑う。

「そりゃいいや!酒無くなったら取りに行ってくれよな船長!…独りでボートこいでよォ!」
「ハヤテてめェ!おれが船長だってこと…」
「いーーえ! たとえ船長といえど、私たちの2倍も3倍も飲んだものの責任は取って貰いますからね」
「く………」
「トワに行かせるとか、わたしが許しませんから」
「……っ、ソウシ、てめー」

いきり立つオレの隣で、●●●は口に手を充てて、くすくす笑う。

「おまえも笑ってねェで、オレの援護を…」

ドンッと背中を押してやると、●●●はキョトンと目を剥いた。

「行きたくなければ、程々にすればいいじゃないですか?…お酒…」

そして、そしらぬ顔でナギのカツサンドを、見せ付けるようにパクッと頬張る。

「……コイツら……」

けど、返す言葉もねェおれは。

「わーーったよ!チビチビ呑みゃいいんだろ?」
「あと、●●●のモンは取らないことですよ船長?じゃないと…」

シンが合図するみてえに、野郎の顔をぐるっと見る。
そこには……さっきの笑いもどこへやら…
じとりとオレを見据える奴ら。

(コイツら揃いも揃って…)

けど、奴ら全員を敵に回して、歩がねェおれは。

「ああ、もう、わかったよ」

しかたなくデカいカツサンドを、やけくそになって頬張った。
そしてそこに野郎たちの笑い声が、ゲラゲラ響いた。





「なァ……●●●ッ!」
「ん?」

メシも終盤になった頃、ハヤテがいきなり声を上げた。

「メシ食ったら泳ぎに行こうぜ?」
「うん!……っあ!」

●●●は、オレのシャツに視線を落とす。

「少しぐらいなら、焼けてもいいかな…折角水着も着てることだし…」
「だったら、ビーチバレーしませんか?」

今度はトワが声を掛ける。

「ビーチバレー!うん、やりたい♪」

ノリ気の●●●に、すぐさまシンが声を掛けた。

「ビーチバレーなんかやめておけ、」
「え……なんでですか?」
「森の奥に湖がある。メシが終わったら2人で行くぞ」

どうやら偵察の時、森の奥で見つけたらしい。

「湖?行ってみたいかも…」
「なら決まりだな。もしそこで泳ぎたいと言うのなら…俺も水に入ってやってもイイ…」
「―― え?」

●●●だけじゃねえ。クルー全員が、「意外だ。」と
そんな目でシンを、ポカンと見た。

(そりゃそうだ)

お前が1番、水着になるのを渋ってたよなァ? 
日に焼ける、つって。

それに普段、髪がちょびっと濡れるだけで、ぶーぶー文句言うくせによ。
●●●と一緒なら、水に入る…ってか?

お前、水着のコイツに何する気だ?

湖はダメだと制する前に、ソウシが横から口を挟んだ。


「●●●ちゃん。湖もいいけど…森の奥で花畑を見つけたんだ。あとで一緒に行かないかい?」
「え、花畑?行きたいです!!」
「は?」

ノリ気の●●●に、シンの言葉は耳に届いてねーらしい。
目を輝かせる●●●の様子に、シンがムッと眉を寄せる。

(ソウシも偵察ン時、別ルートで見つけたんだな。残念だったな…シン…)

そう思いつつ、次は、のっぴきならねェソウシか、どうするかと思っていれば。
●●●が、意外な人物に声を掛けた。

「ナギさんは、この後、なにをするんですか?」
「あ?おれか?」

手にある皿を、ナギはトンと下に置く。

「おれは釣りだ。イイ岩場があったからな」
「釣りですか!」

●●●の目が、キラリと輝く。

「最近寝不足だから、わたしも一緒にやろうかな♪…って、ああダメだ。‥‥釣り竿、持って来てないんだ…」

かと思うと、●●●はしゅんと肩を落とす。
竿が無けりゃー釣りはできねえ…
おれの口が、ニヤリと歪んだその時だ。

「持ってきてある」
「え?」
「お前の竿も、持ってきてやった」
「……っ、」

掴んだ酒を、思わず落としそうになった。
つか、どんだけ抜かりがねーんだよ、ナギのヤツ。
じとりと睨むオレの隣で、●●●が「そうだ!」と、ぽんと手を叩いた。

「じゃァ…ごはんの後、のんびり釣りをして。その後、湖に行って、帰りに花畑に寄って。最後にみんなでビーチバレーをするってのはどうでしょう★」

我ながらイイ考え。みてーな顔で、●●●は顔を綻ばせる。
バカだな、そんな事……おれが許すわけねェだろ?


「そりゃダメだ…」
「え……なんでですか?」

●●●だけじゃない。野郎全員の視線までもが
オレの全身に突き刺さる。

けど。…悪いな。


「お前はこの後、オレと散歩だ」
「さんぽ?」
「ああそうだ。一緒に散歩するなんてこと、滅多にねーだろ?」
「……それは船長が、いつも酒場に行っちゃうからで…」
「それはまた話すとして……たまには、一緒に、な?」

バチッとウインクをかまして、片手で肩を抱き寄せる。
もう1度、な?と顔を覗き込むと……おれにすっかり惚れてる●●●は。

「う……うん。じゃぁ…行ってみようかな…」

ほら、のってきた。


「…ってことで、決まりだ。おれと●●●は、島をぐるっとしてくるから、お前ら、ついてくるなよ?」

さっきの反撃とばかり、●●●の肩を抱き寄せる。
ムッとする奴らを、おれは眺めて、高らかに、声を出して笑った。


それから腹いっぱい、旨いメシを堪能すると

●●●の右手を左手で掴んで、俺たちは海岸沿いを歩き始めた。









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