第4話
船に戻ると、ナギは先程の事をリュウガに話した。
「●●●さん、お城に行くんですか?僕、羨ましいです」
「えっとそれは……船長に聞いてみないと…」
食事の最中。目を輝かせて詰め寄るトワに、●●●は戸惑った表情を浮かべる。
ハヤテが身を乗り出した。
「お前、バッカじゃねぇの?!」
「馬鹿って、どういう意味ですハヤテさんっ!」
「コイツが行ったら、門前払いくらうに決まってんだろ?!」
「バーカ」とハヤテがトワの頭をべちっと叩く。
「い……っ!」
「確かにそうだな。それに迎えがくるかも…怪しいもんだ」
シンもハヤテに賛同して、鼻で笑う。
ソウシが困ったように口を開いた。
「そうだね。…来ないかもしれないけれど。万が一来たとしたら……どうします?船長、」
問うとリュウガは、ははっと笑った。
「だったらおもしれーじゃねぇかよ!」
「は?」
「城になんか、そうそう行けるもんじゃねぇぞ?」
「船長それ、マジで言ってんのかよ?」
ハヤテが動き、ガタッと椅子を鳴らした。
横目にリュウガは続ける。
「けど、お前1人じゃー、行かせらんねーな、」
「えと…」
「大体お前は、さらわれる常習犯だろ?」
ニヤリと笑われ、上目使いでコクンと頷く。
再び笑い声が響いた。
「ま……コイツ1人に何かあってもシャレになんねぇからよ。万が一、迎えが来た時は、全員で行く。いいな!」
リュウガの判断で、もし迎えが来たなら、シリウス全員で城に行く。ということに決定した。
が……誰もそんな迎え、来るとは思っていなかった。
・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆・:
しかしその日の午後。予想に反して、迎えの馬車は到着した。
そこで「全員でなければ、●●●は行かせない」とリュウガに言われ、迎えの者は戸惑ったが。
命令には背けないのだろう。
渋々全員を連れ、城に行くこととあいなった――
*
7人を乗せ馬車が走る。
しばらくガタゴト揺られていると、窓から城が見えてきた。
「わ……ステキ♪」
真っ白な城は、おとぎ話で聞いたシンデレラ城そのもので。
●●●の心をくすぐった。
そして城に到着すると、応接室に通された。
そこにある大きなソファーに腰掛けて待つよう言われたが。
●●●以外のクルー達は、罠かもしれないと警戒心を強めていた。
そんな中、暫くすると――
コンコン
大きな扉がノックされ、先程の執事が腰を折って頭を下げた。
「皆様、当家にお越しくださりありがとうございます」
気づけば背後のドアが開き、ゾロゾロと近衛兵が入ってきている。
顔が強張り緊張が増したその時だ。
「―― 我が当主、エドワード殿下でございます」
執事がそう言って頭を下げると、背後から若い男が現れた。
クルー達は一斉に立ち、整列する。
男は●●●より3つ4つ年上だろうか。とても若い青年だった。
美しい金髪と端正な顔立ち。
切れ長の瞳は鋭くもあり、優しさと艶っぽさをたたえている。
背は高く、がっちりとした体格は筋肉質で。
王子というより、兵を率いる将軍の様なオーラを放っている。
色白で、ひ弱な王子を想像していたクルー達は、彼の姿に息を呑んだ。
「あっ!!」
その時エドワードの背後から、ひょっこりリチャードが顔を出した。
「●●●〜〜っ!やっぱり来てくれたんだねっ!」
「リチャードさんっ!」
走ってきたリチャードが、ぎゅっと腰にしがみつく。
●●●は、フッと微笑んだ。
その時、前を通り過ぎるエドワードの足が、一瞬止まったように思えたが。
直ぐに彼は歩みを進め、クルー達の前に立った。
「剣の稽古をしていたのでな。待たせてすまん」
そう言うエドワードは、ハードな練習をしていたのだろう。
流れる汗を、首に下げたタオルで拭う。
肌蹴た白いシャツからは、筋肉質な胸板が見え、そこにも汗が滴り落ちた。
エドワードはそのまま●●●に視線を向ける。
「弟が我が儘を言ったようで、すまなかったな?」
「……っいえ…そんな」
微笑むエドワードに、思わずドキッとしてしまう。
なんて綺麗な人なんだろう。
見とれる自分にハッとして、●●●は慌ててつむいた。
エドワードはクスッと笑って、再び前に向き直る。
「では、自己紹介をお願いできるか?」
「それでは、私が」
リュウガが1歩前に出て、自己紹介を始めた。
「私が船長のリュウガ。こちらが船医のソウシ。航海士のシン、料理人のナギ。
そして船員の、ハヤテ、トワ、そして●●●です」
エドワードはチラと、●●●に視線を移す。
「ほぉー…●●●、か…」
小さくそう呟くと、エドワードは呼び掛けた。
「弟が、随分迷惑を掛けたようで、すまなかった」
「いえ、とんでもございません。……殿下」
端正な顔で見つめられ、頬が熱くなるのを感じる。
いたたまれず目を逸らすと彼はクスッと笑った。
「なァリュウガ…」
そしてリュウガに視線を移す。
「お前達が国を出るまで。お詫びに●●●さんを城でもてなしたいのだが。
……おれに預けてくれないか?」
穏やかな雰囲気の中、エドワードが出した提案に。
しかしリュウガは、厳しい顔で答えた。
「それは駄目だッ!」
「…っっなにっ?」
途端、彼の顔から笑みが消えた。
「いくら殿下の頼みでも、そいつは聞けねぇな」
リュウガは、胸の前で腕を組み、鋭い視線を彼に向ける。
近衛兵が剣を掴み、室内を緊張が覆った。
「……待て!」
エドワードは右手を挙げ、すぐに兵を制した。
☆
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