願わくばこの一瞬を… | ナノ
第2話 






「どーしたよ花音。マスクなんかして、風邪か?」
「違いますよ船長。コイツ目が赤いあたり…おそらく花粉症ですよ」
「…!」
「ほぉーその顔は図星か。つか、花粉症とはダセエなァ」

俺とトワが、テーブルに皿を並べる最中。
船長とシンが、マスク姿の花音をからかう。
しかしそうされても、花音のくしゃみは止まらないようで。

「もォーー!船長もシンさんも!そんなに笑わなくても……くしゅん、…いいじゃないですか!」

ズズッ・・・・・
ムッとしながら抗議をするが。鼻のてっぺんを赤くしたままじゃー、迫力もへったくれもあったもんじゃねえ。
むしろそれは可愛くて。火に油をさすのも同じ。

「……ほら、」

だから俺は3人の会話を断ち切るようにして、1人だけ違うメニューの皿を、花音の前にカタッと置いた。

「え?!ナギこれ?」
「は?なんで花音だけ、貧乏くさいメシなんだよ?」
「あ゛? 誰が貧乏くさいだコラァ」

買Kンンッッッ
ふざけたことをぬかすハヤテの頭を拳でイッパツぶん殴る。

いってえええ!とほざくハヤテを無視すると、すぐにドクターが口を挟んだ。


「へえ……さすがナギだね。さっそく作ってあげたんだ?」
「ええ、まあ…」
「ソウシさんは何でコイツだけメシが違うか、知ってンすか?」

頭をさするハヤテにつられて、船長とシン。トワと花音も、ドクターへと視線を投げる。
首の後ろをさするドクターは、花音の皿を引き寄せた。


「これはね。花粉症に効果がある料理なんだ」
「へぇ〜〜」
「見てごらん?さっきハヤテは貧乏くさいだなんて言ったけど……ヤマトでは普通の食事なんだ、」

そうだよね?
問いかけるドクターに、花音が頷く。

そう。俺が作ってやったのは、野菜中心のヤマトの料理。
それは昼間、ドクターに聞いたからで。


「まず根野菜の煮物。ほうれん草のおしたし。サバの味噌煮も、花粉症の症状を和らげると言われてるんだ、」

ドクターの説明にクルー達が、へえ〜と頷く。
すると今度は肉がごっそり乗る、俺たちの皿を指差した。

「花粉症はね、体質にもよるだろうけど。…肉食を中心とする人種に多く発症すると言われてるんだ。…だから船長やシン。ハヤテのように、肉ばかり食べていると、近い将来。花粉症になるかもしれないよ?」


ゲッ
顔を歪める船長とハヤテに対して、シンは呆れたように腕を組む。

「俺は肉と一緒にワインもとっているんでね。花粉症?…そんなヤワなモンに、かかるわけがない」


さすがはシンだな。
花粉症の知識まであるとは思わなかったが。

ムカつきながらも感心しているとドクターが不適に笑った。


「シンの言う通り……ワインに含まれるポルフェノールは花粉症にイイと言われていてね。…他にも、緑茶や甜茶にも効果があると言われているんだ」

シンが、さも当然と言わんばかりに鼻で笑う。

「だけど…」
「ん?」
「シンのように野菜は全く食べないで、肉ばかり食べていると、ポルフェノールの効果もどこまで続くか分からないよ?」

ふふっと笑うドクターに対して野菜ぎらいのシンが、わずかにだが眉根を寄せた。
その肩にドクターは手を置く。

「ま……ようはバランスということだよ。花音ちゃんもナギの料理で症状が和らぐといいね?」
「はい!!…あ、ナギ。私のためにありがとう!」

花音が俺に、ニコリと笑う。
その頭に手を置いた。

「ま……食いモンでどこまで直るかわかんねーけど、取りあえず…な?」

くしゃりと髪を撫でてやれば、花音はうんと頷いた。

それから花音には、青魚やら、ネギやら、シソやら。
ドクターに効果があると言われた食材を使った料理と。
食後にはヨーグルトを、毎食、食わせた。

が、…所詮は食い物。
薬のように、すぐに効果が出る訳じゃねえ。

だからこの島に停泊して4日も経つが
未だに花音は部屋に閉じこもったまま。

そしてようやく船の修理も終わり、いよいよ明日、出航となった5日目の夜。

仕込みを終え、手を拭いていると不意に足音が聞こえてきた。
振り返ると開いたドアから、花音が顔を覗かせている。

「おま……マスクも無しで平気なのか?」
「うん。ナギのお陰で今日は症状も軽いみたい」

どうやら食い物の効果と。今が夜だということもあってか、症状も若干、落ち着いたようだ。

久しぶりに花音の顔を、まともに見た気がした。

「だから手伝うよ」
「いや、…もう終わった、」

俺はふと、店のオヤジと話した会話を思い出した。
そして目の前には、この港についてから、1歩も陸に降りてない花音。

行ってみるのも悪くねえか。


「出かけるぞ、」
「へ?…こんな時間に、どこへ?」

戸惑う花音の手を引いて、キッチンを出ていくおれ。

あれから5日もたっちまったが、間に合うか。

おれはオヤジに聞いた場所に向かって黙ったまま歩き続けた。









 
   






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