危うい天使 | ナノ
第1話
「はーあ、ここには来たくなかったんだけどな……」
「僕もです。ホント。……嫌なところですよね…」
ハヤテとトワが眺める街は、灰色。
厨房の奥から出てきた●●●も、同じように外を眺める。
見上げた空もそれと同じ、どんよりとした曇り空。
「もしかして海軍ですか?」
海賊が嫌がる場所といえば、海軍の取締りが厳しい所と決まっている。
振り返れば、ソウシが首を横に振る。
「逆だよ、●●●ちゃん、」
「?……ぎゃく?」
分からない、っと、首を傾げる。
そこに濡れた手を拭いて厨房の奥から出てきたナギが
ポンと頭に手を置いた。
「ここはろくでなしが集まる、法もなんもねえ無法地帯だ」
「………むほう、ちたい?」
ますます意味が分からない。
ハテナマークを浮かべる●●●に、ソウシが説明を始めた。
「そうここは。法も秩序もなにもない。……海賊ですら立ち寄るのを躊躇する、治安の乱れた島なんだ」
「ああ。捨て身になった人間に、ルールもクソもねえからな。食うか食われるかの…そんなとこだ、」
「………」
聞けば治安の乱れたこの島は、喧嘩、強奪は当たり前。
世の中の逃げ場をなくした犯罪者が、こぞってここにやって来るらしい。
そしてそんな場所になってしまったこの島は
海軍ですらお手上げで。
見捨てられたこの地では、殺人、強姦と、あらゆる犯罪が、日常的に繰り返されているんだと――
「海賊ですら、躊躇するところですか……」
そんなところがあるだなんて…
「そう、…最近ではそんな島とは知らず立ち寄った女性が、何人も行方不明になってると聞くよ、」
「ま……どっかの金持ちに、売られてくんだろうけどな、」
「―― 奴隷みたいにですか?」
ぱ、とナギを振りかぶる。
恐らく彼女の頭にあるのは、労働者として売られていく女達を想像しているに違いない。
けど、女が高く売り買いされるのは、そうではない。
単に金持ちの慰み者になる、ためなのだが…
それをどう説明しようかと言いあぐねていれば
ガコン
小さな揺れが港についたと、知らせた。
「あ―あ。さすがの俺も、ここには来たくなかったんだが…」
ずっと腕を組んで聞いていたリュウガが、窓の外に視線を投げる。
「しかし情報屋の野郎も後ろ暗いヤツでよォー……ここでしか待ち合わせられねえって言うから、困ったもんだぜ…」
特に今回は「世の中の裏社会」ってモンをまだまだ知らない●●●を連れてのことだから
尚更ここには来たくなかった。
が、…お宝のためなら仕方がない。
「とにかくこんなとこ、さっさとおさらばするからよ。いつでも出航できるよう準備しとけ、」
ぞんざいな溜め息を1つついて、リュウガが重い腰をあげる。
不安げな顔が、こっちを見ていた。
「つーことで。お前は船から出るな。…つっても……」
不意にリュウガが視線を落とす。
つられて●●●も足元を見た。
そこには包帯の巻かれた●●●の足。
先日、傾く船に踏ん張りきれず転んだ拍子に、捻挫をしたばかりだ。
「ま……その足じゃ行けねえか。…ってことで、おれが戻るまでコイツらから離れるな」
リュウガは、ふ、と笑みを浮かべ、うつむく頭をくしゃりと撫でる。
それから何度か念を押して
彼は船を降りていった
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