福寿草 | ナノ
第7話 









それから「機嫌直せ、な?」なんて
何度も言われているうちに、何を怒っているのか分からなくなった頃。

メイン会場でもある、大広間の前に辿り着いた。

ドアを開けると大勢の海賊船の船長と、同伴者である女性たちとで、会場内はごった返して、思わず尻込みしてしまう。
それでもリュウガに肩を抱かれ、SAKURAも中に入っていった。



      *



「おっ!リュウガ船長のお出ましだぜ?!!」
「ほォー…今年は美女と一緒ですか?」
「へェ〜〜〜〜」

誰かの声で次々と集まってくる、イカツイ風貌の男達。
あっという間に取り囲まれ、どうしていいか分からないSAKURAは、リュウガの上着をぎゅっと掴む。


「(……かわいい……)」


まるで籠の中のウサギのようだ。
彼らの視線が舐めるようにまた、カラダ中を這い回った。

「…………」

いたたまれず、少しだけカラダを彼に寄せる。
リュウガもそれに気づきながらも、特別事を荒立てず、運ばれてくるグラスを手にとり、彼らと談笑している。
会話を聞いているのもなんだなと思い、チラリと視線を上げてみれば、やっぱりだ。

リュウガを海賊王だと聞いた途端、目の色を変えた女達が、競って彼に際どいモーションをかけている。


『――あの女達は……肩書きと金に群がってるだけだ』


彼は、呆れたように言ってたけれど
取り残されているようで、
淋しい……

そんな気持ちをかき消すように
SAKURAは運ばれてくるシャンパンを手に取り、次から次へと飲み干していた。


   
    *



「おい、大丈夫か?」

挨拶がてらの談笑も終わり、周りの人間がはけた頃には、SAKURAの頬は、ぽーっと赤く染まっていた。

「おい、ベロベロじゃねーかよ。歩けるか?」
「ん……たぶん、」
「気分はどうだ?悪くねえか?」
「それは平気、ですけ……ッう、あっ!」

ぐらりとよろめくSAKURAのカラダを、リュウガが咄嗟に腕で支える。
SAKURAもぎゅっとしがみついた。

「大丈夫じゃ、ねーみたいだな?」
「えっとォー………はい」

腕の中で、しゅんと項垂れる彼女の姿に、思わず笑いが込み上げる。

そりゃそうだ。
あれだけの、ねちっこい視線に晒されたんだ。

会話をしながらもSAKURAのカラダを、舐めるように眺める、野郎たち。
コイツは奴らの頭ン中で
どんだけの男に抱かれただろうな?

寄り添うカラダに笑みを漏らして、リュウガは周囲を伺う。
そこにポツンと、人気の無いところが見えた。

「SAKURA…」

カラダを起こして、目を合わせる。

「これから俺はスピーチに行かなきゃならねえ。…その間。…お前はあそこで休んでろ」
「……………え」

SAKURAの目が不安で揺らぐ。
行かないで、とは、言えない。
スピーチは海賊王の勤めだから。
けど……心細いのも本音。
そんな気持ちが伝わったのか、リュウガの指が頬に触れた。

「直ぐに戻ってくる。…だから、な?」

ちゅ、とおでこにキスをされたら、頷くしかない。
その頭をくしゃりと撫でて彼は椅子を持ってくると、SAKURAをそこに座らせた。

「それじゃ少しの間だけ……ここで待ってろ」
「………はい」

コクンと頷く耳元で「変なヤツにはついていくなよ?」と、もう一度耳にキスをして
リュウガは人混みに消えていった。










 
   


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