腐敗系男子


 02※

 病室内、ベッドの上。
 ごちゃごちゃやかましい山下を追い払いとうとう一人になった俺はやることもなく天井の染みの数を数えていた。

「……」

 暇だ。
 鹿波から貰った林檎でも食おう。
 思いながら膝の上に乗せたままになっていた買い物袋に目を向ける。
 近所のスーパーか果物屋さんで買ってきたようだ。
 氷もなにも入っておらず、すっかり温くなったそれを手に取ったとき、買い物袋のその奥になにかがあることに気付く。
 紙切れだ。
 レシートかなにかだろうかとか思いながらそれを引っ張り出せば、どうやらそれはノートの切れ端のようだ。

『ありがとう』

 そこにはそう一言だけ無骨な字で書かれていた。
 それこそ差出人名は書かれていなかったが間違いなく鹿波の文字だろう。
 一瞬なにについてのお礼か分からなかったが、ふとここに入院する切っ掛けとなったときのことを思い出した。
 瞬間、心臓がぎゅっと握り締められたような感触が走る。
 背筋がぞくぞくと震え、顔面に熱が集まり、全身が痒くなった。

 これは、あれじゃないか。
 卑怯だろ。こんなの。不可抗力だろ。
 なんだよ「ありがとう」って。へったくそな字だな。なんで何回も消した後があるんだよ。

 なんで鹿波がわざわざ俺の病室までお見舞いにやってきたのか、ただからかいにきただけだろうとは思ったがまさか本当にお見舞いに来ていたとは思わなかった。
 一応は感謝してくれていたようだ。
 ずっとなにも言われなかったからてっきり向こうも対して気にしていなかったからそれもそれでいいかとなにも言わなかったのだが、まさに不意打ちを食らってしまった。

 顔が熱い。
 頬の筋肉が緩む。
 どんな顔をして鹿波がこれを書いたのか想像しただけでなんかもういてもたってもいれなくなって、ナースコールで看護婦を呼んだ俺は鹿波から貰った林檎を切ってもらうことにした。


 ◆ ◆ ◆


 フラグか。
 病室で山下が言った言葉を思い出す。
 いやーなるほどこういうことか。
 もしやと前から薄々は感じていたがあのヒステリックバイオレンス野郎、もとい鹿波はどうやら俺に気があるようだ。
 俺としたことが迂闊だった。
 あのバイオレンス行為には鹿波の照れ隠しであり愛情表現という意味が込められていたに違いない。
 あいつもあいつであれだな、ツンデレというやつだろう。
 素直になればいいものを……。


 学生寮、廊下にて。
 病院に少々無理を言って退院してきた俺は鹿波の部屋へ向かっていた。
 因みに鹿波の部屋については以前山下から聞いたことがあるので問題ない。

 鹿波の気持ちを知った今、俺がやることはただ一つだ。
 今こそ上下関係をハッキリさせる時がやってきた。

 鹿波の部屋の前。扉に鍵がかかっていないことを確かめた俺はドアノブを掴み勢いよく扉を開く。

「っ?!」

 バンッと大きな音を立て開かれる扉に驚いたようだ。
 ベッドの上で雑誌を読んでいた鹿波は慌てて飛び起きる。
 ルームメイトらしき姿は見えない。
 丁度いい。

「は、っおい!なに勝手に入ってきてんだよ!」

 ベッドから降りる鹿波は扉から普通に入ってこようとする俺に向かってそう怒鳴る。
 構わず、警戒する鹿波に近付いた。
「つーかお前、病院は……っ」いつも通り怒り始めたかと思えば今度はなにか意味がわからないものでも見たかのような呆れたような顔をする鹿波はどうやら相当動揺しているようだ。
 わかっている、わかっているぞ鹿波。
 これはよくあるあれだな。
 好きな人のことを考えたら本人が現れてどきっ!ってあれだな。
 まあそれを狙って鹿波の部屋に突撃したのだからもちろんどうすればいいかも把握している。
 後退る鹿波の腕を掴み、そのまま俺は鹿波の華奢とは程遠い体を抱き締めた。
 鹿波の肩がビクッと跳ね、腕の中の体が緊張する。
 ここまでは計画通りだ。
 そして、鹿波が暴れだす前に俺は次の行動に移した。

「……さっきはごめんな」

 そう、少女漫画のイケメンヒーローさながらの儚い表情をした俺はそう鹿波の耳元で囁いた。
 やばい、決まった。
 そうナルシシズムな余韻に浸っていると「は、はぁ?」と呆れたような戸惑った鹿波の声が聞こえてくる。ぶち壊しである。せめてここは「……え……?」くらいにとどめていてほしい。ムードのないやつだ。
 しかし、これも鹿波なりのあれだ。照れ隠しなのだ。
 構わず作戦を続行させる。

「って、おい、離せよ!なんのつもりだてめぇ……っ」

 そして、ようやく俺に抱き締められていることを理解したようだ。
 俺の肩を掴み引き剥がそうとしてくるがこれも照れ隠しだ、わかっている。
 肩を潰す勢いで掴んでくる鹿波に一瞬怯みそうになったがここでへたってしまえばそれこそいつもと変わらない。
 あまりの痛みに顔の筋肉が引きつりそうになるのを必死で堪えながら、俺は鹿波のことをさらに強く抱き締める。

「お前、俺のこと好きだったんだな」
「ッ」

 そう言いながら鹿波の顔を覗き込めば、面白いくらい鹿波の目が見開かれる。
 この反応は間違いなく脈ありだ。
 恋愛漫画好きの俺が言うのだから間違いない。
 そう、間違いなくだ。
 いくら鹿波が「んなわけあるか!どうしてそうなるんだよッ、離せ!気持ち悪いっ今すぐこっから出ていけ!」と言いながら俺の顔面を手で押さえ暴れようともだ。
 ちょっ鼻はやめてください。

「お前、とうとう危ない薬にでも手を出たのか!」

 最近のツンデレはここまで言うのだろうか。
 あまつさえ人を薬物使用者呼ばわりする鹿波に心が折れそうになったがまだ耐える。

「お前のその生意気で憎たらしい口の悪さも照れ隠しだったんだろ?ごめんな、せっかくのデレを蔑ろにして……」

 言いながら鹿波の背筋から腰にかけるラインをなぞるように優しく撫でれば、ぞくりと鹿波の背筋が小さく震える。
 しかし、我慢出来ず然り気無く皮肉を織り混ぜたのがまずかったようだ。

「その言葉が俺を蔑ろにしてんだよ!」

 瞬間、そう顔を真っ赤にした鹿波は間髪入れずに俺の腹部を思いっきり蹴り飛ばしてきた。
 激痛というよりも衝撃と言った方が適切なのかもしれない。
 半ば強制的に引き離された俺は「ギャフッ」となんとも雑魚キャラのような声を上げながら壁に吹っ飛んだ。
 ドッと背中が壁にぶつかり、背中と蹴られた腹部両方がずきずきと痛み出す。
 しかし、鹿波に散々殴られ色々な意味で開発された俺にとってこのくらいの痛み特に苦痛ではなかった。が、どうやらこいつはそうではないらしい。

「っ、ぁ……」

 しまった。
 呻きながら壁際に踞る俺にそう顔面を蒼白させる鹿波。
 あくまでも俺が怪我人だったと言うことを思い出したようだ。罪悪感というやつだろう。鹿波も甘くなったものだ。これはあれだ、利用するしかない。

「ぐっ、いってぇ……ッ」
「お、おい……そんな強くしてないだろ……」

 首の後ろの辺り、そこを手で押さえながら顔をしかめそのまま丸くなる俺に対し、まんまと俺の迫真の演技に引っ掛かった鹿波はそう相変わらず不安そうな顔をしたまま俺に手を伸ばしてくる。
 どうやら起こしてくれようとしたようだ。
 そのまま膝立ちになり、心配そうに俺を覗き込んでくる鹿波。
 よしきた。そう人知れずほくそ笑む俺は伸びてきた鹿波の腕を掴む。

「……あ?」

 本気で俺が動けないと思ったようだ。
 呆然とする鹿波の体は簡単に崩れ、自分の上へ引っ張る俺はそのまま鹿波にキスをする。
「んむっ」呼吸のタイミングと重なり、目を丸くさせた鹿波はそのまま硬直した。
 構わず、後頭部に手を這わせた俺は鹿波の体を抱き竦め、そのまま角度を変えて深く唇を重ねる。
 ああ、やっぱり柔らかい。そのまま舌突っ込もうとしたが、鹿波は固く唇を閉じてしまった。

「んッ、んーっ」

 目の前で怒ったような顔をする鹿波は俺の髪を掴み、ぐいぐいと乱暴に引っ張ってくる。
 これくらいで照れるなんて可愛いところもあるじゃないかとにやにやしながら鹿波の唇を舐めたとき、頭皮からぶちぶちと危うい音が聞こえてきた。幻覚であって欲しい。
 固く結んだ唇の隙間に舌を捩じ込むことが出来れば、それを無理矢理こじ開けるのは簡単だった。
 上唇をなぞるように歯茎に舌先を滑らせ、髪を引っ張ってくる鹿波の手から次第に力が抜ける。どうやら咥内を他人に弄くられるのは嫌いなようだ。

「っふ、んぅ……ッ」

 顔を逸らそうとする鹿波の顎を捕まえ、僅かに浮いた歯の間を潜り相手の咥内に舌を入れれば、ふいに触れた鹿波の舌は奥へと逃げてしまう。
 構わず、そのまま舌を伸ばし鹿波の舌を無理矢理絡める。唾液同士が絡まり濡れた音が咥内に響いた。相手の舌を無理矢理愛撫すれば行き来する舌が邪魔で開きっぱなしになった鹿波の唇から熱っぽい吐息が漏れ、相変わらず視線が合わないよう目を伏せる鹿波の顔が赤いわ色っぽいわうっすら涙浮かんでるわでなかなか興奮する。
 ああ、ショタ受けが一番だったはずなのに、なんでかたまにはこういうのも悪くないななんて能天気なことを思いながら俺はまだ顔を逸らそうとする鹿波に深く口付けたまま上顎をなぞる。

「っ、ん……んん……っ」

 息苦しそうに細められた目はじんわりと赤くなり涙が滲んだ。
 しつこく絡ませる舌から相手の咥内へと唾液を流し込めば受け止めきれず、だらしなく開いた鹿波の唇から溢れる。唇から顎、首筋へと流れ、それが鹿波の服の下まで垂れて乳首まで汚していくなんて想像したら酷く興奮する。

 鹿波とのキスに夢中になっていたのは俺の方かもしれない。
 服を掴んでくる鹿波の指先から力が抜け、こちらを絶対見ようとしないその目は眠たそうにとろんとして、だけど鹿波の舌は相変わらずすぼまったままで。
 唾液が溜まったのか、耐えきれず鹿波がゴクリと喉を鳴らしたのを見た俺はそのまま唇を離した。
 頭がぼんやりする。どうやら軽い酸欠を起こしてしまったようだ。それは鹿波も同じようで、キスで惚けていた鹿波ははっとすれば思い出したように唇をごしごしと擦り始める。

「……ぶっ殺す……ッ」
「それも照れ隠しなんだろ?」

 肩を上下させ、浅く呼吸をする鹿波を見上げたまま俺は「わかってるって」と微笑んだ。すると「気持ち悪いんだよ」と素敵な返事が返ってきた。
 キスに夢中になっている間に俺の上には覆い被さるように鹿波が乗っていて、それに気付いた照れ屋な鹿波は舌打ちをして俺の上から降りようと上半身を起こした。
 すると、丁度目の前には鹿波の胸があったのでそのまま抱き竦めるように鹿波の背に腕を回した俺はそのまま鹿波の胸に顔を埋める。
 頭上から「なッ」と驚いたような鹿波の声が聞こえ、全身が緊張し僅かに胸が反った。
 薄い部屋着越し、小さく膨らんだそれを見付けた俺はそのまま布越しに舌を這わせる。瞬間、鹿波の体がピクリと反応した。

「死ね……ッ、まじ死ねっ、くそっ頭打っていかれたのかよっ!この○○○○野郎!」

 あまりにも酷いので伏せさせていただいた。
 唾液で箇所のみを濡らし湿らせれば一部不自然に肌に貼り付いたそこにはつんと尖った乳首の形がくっきりと浮かび上がる。エロい。

「しつけえんだよっ、全然よくねぇ!離せ!調子ぶっこいてんじゃねえぞキモヲタがっ!」

 鹿波の罵倒は止まらない。頭を殴られ肩を掴まれ腕を引っ掻かれ、それはもう暴れる鹿波に俺の体は傷つけられながらもそれらを無視して浮かび上がった乳首の形をなぞるよう舌先を這わせれば流れ込んでくる鹿波の鼓動が一層速くなった。

「お前、絶対頭おかしいって……っ、なにが楽しいんだよッこんな、くそっ、離せ……っ」

 息が荒い。舌で濡らし、びっちょりと濡れたそこはちょっとした刺激だけで血液が集まり見てわかるくらい勃起し始め、頭上から聞こえてくる声を無視して布ごと擦るように舌を這わせた。
 もう片方の手を服の裾の下に潜り込ませ、そのまま脇腹から胸元へと指の腹で撫で回すように手を動かす。
 そのままそっとまだ触っていない方の乳首に触れればそこはもう既に硬くしこっていて、やんわりと指で挟むように乳輪ごと揉めば鹿波の体がピクピクと反応し始めた。

「やめろってば……っ、おい、日本語わかんねえのかよ、くそ、っ、やめろっ、なあ、聞いてんのかよ……ッ」

 そのまま鹿波が着ていた服を捲り上げれば、濡れてぷっくりと膨れたそこが現れる。
 次第に弱々しくなる鹿波の声。再び呼吸は乱れ始め、両胸の突起を刺激すればする度その声は僅かに上擦った。
 乳首に吸い付き、口に含めた状態のまま舌先で尖った乳首の先端をつつくように嬲れば鹿波の腰が小さく揺れる。
 もう片方の乳首は指の腹でくにくにと潰すように転がし、潰し、引っ張り、弄る。
 いくら舌や指を使って潰してもすぐにそこは勃起していて、鹿波もそれに気付いているようだ。

「っふ、ぅ、んんっ、……やっ、くそっ、も……ッなんでそこばっか……っ」

 愛撫する度に声を震わせる鹿波は自分の口許を手で押さえ、そう逃げるように胸を仰け反らせるが俺からしてみればもっと弄ってと胸を突き出しているようにしか見えない。
 薄い筋肉がつき、程よく張った鹿波の胸は触り心地がいい。
 片胸全体を手のひらで撫で、そのまま鷲掴むように揉みくだしながら親指でコリコリとそこを刺激すればするほど鹿波の声は色付き、口に含めたそれにわざと歯を立てればビクンと鹿波の体が震える。

「っんんッ、く……ッぅ、やめろっ、も……っほんと、死ね……ッ」

 相変わらず口が悪い。頬を紅潮させ、身動ぎする鹿波は唸るように喘ぐ。
「勃起してるくせに」小さな音を立て唇を離し、突起を指先で跳ねた。弄りすぎて赤くなった胸が可愛い。
 慌てて口を塞ぎ堪えた鹿波は、忌々しそうな顔をして俺をキッと睨み付ける。

「お前が舐めたからだろ……っ、終わったんなら離せ!」

 まあ、そう言われればそうだな。なんて納得しながら、上から逃げようとする鹿波の腰を掴んだ俺はそのまま抱き締めるようにウエストの下に手を滑り込ませ、下着越しに両手で挟むようにその尻を鷲掴んだ。

「っ、ひ」
「なんも終わってねーじゃん。俺まだなんもしてないし」

 そのままゆっくりとぷりぷりした鹿波の尻全体を撫で回すように外側から内側へと揉みくだせば、自分の臀部を振り返った鹿波はぎょっと目を丸くさせる。
 みるみる内に鹿波の耳は赤くなって、力んだせいできゅっと締まる尻の筋肉を解すように執拗に揉んだ。
 わざと割れ目と肛門を広げるような揉み方をすれば、「も……っ揉むなっ」ともぞもぞ動く鹿波は俺の胸元をがしがし叩いてくる。可愛い。

「じゃあ指入れていい?」
「いいわけねえだろっ」

 まともに力が入っていない鹿波に調子乗ってそう布越しに肛門の窪みを撫でれば、顔を真っ赤にした鹿波に腕を引っ掻かれる。
 さっきから猫みたいに暴れる鹿波のお陰で俺の腕がリストカットみたいになっている。
 まあ確かに鹿波にこういうことをするのは自殺行為に近いのでこの例えはあながち間違っていないな。
 思いながら鹿波の尻の手触りを堪能していると、どうやら鹿波は俺が怯んだかなんだかと勘違いしたようだ。

「くそっ怪我人だかなんだか知らねーけど調子に乗んなよっお前なんか怪我人以下だっ、変態、強姦野郎ッ」

 そう吠える鹿波はいつもの調子が復活したようだ。
「あーもう、キャンキャンうっせーな。今どきのツンデレでもそんな騒がねーぞ」再びぐいぐい髪を引っ張ってくる鹿波に顔をしかめる俺は相変わらずバイオレンスな鹿波の愛情表現に耐えられず無理矢理黙らせることにした。

「意味わかんねえこと言って、っん、じゃ、っぁ、んあっ、……おいっやめろっ、おい!」

 怒鳴る鹿波を無視して、下着の裾から指を滑り込ませた俺は問答無用で肛門に指を突っ込んだ。
 瞬間、鹿波の全身が硬く強張り、構わず指の付け根まで突っ込もうとするがきゅっと内壁が締まって指の侵入を拒もうとしてくる。

「っ、やっ、ぁ、てめ……ッ、おい、やめろっ指抜けバカ……っ」
「あー悪い悪い、あまりにも柔らかいから揉みまくってたら手滑ってずっぽりいっちゃった」

 もちろん故意だが、どっちにしろ鹿波がキレるのは目に見えていたのでそういうことにしておく。
「今抜くから待ってろよ」そう、上半身をくっ付けてくる鹿波に笑いかけた俺はそのまま指を抜き、再び中を擦るように指を挿入した。

「はッ、んんっ、ぅ、あ……っやめ……ッ」

 指の動きに反応して小さくひくつく内壁を指先で刺激すればそれは絡み付いてきて中々楽しい。
 指を出し抜きして摩擦するように内壁を激しく擦り上げれば上げるほど、体勢を崩して俺に凭れないよう必死に俺の背後の壁にしがみつく目の前の鹿波は吐息混じりに喘ぎ声を洩らす。

 無意識なのだろうか。鹿波の腰は揺れ、指の動きに合わせてそれはゆっくり動く。まるでもっととねだるように。
 あまりにも指が気に入られたようで、俺は二本、三本と体内の指を増やせば「入れすぎだ」と鹿波に怒鳴れる。
 まあ確かにただでさえ狭い鹿波のケツだったが、馴染ませるように中を解せばあっという間に鹿波は嬉しそうにして腰を揺らし(本人は認めないだろうが)、指をバラバラに動かして絡み付いてくる内壁を擦ればビクンと鹿波の下腹部が大きく跳ねた。どうやら性感帯にでも触れてしまったようだ。

「く、ぅ……んん……くそ、やろ……っ」

 目を潤ませ、顔を赤くして、恨めしそうな顔をする鹿波。
 必死に声を抑えているようだ、今さらだと言うのに。
 前立腺を指でコリコリと撫でれば「ぁっ」と小さく声を洩らした鹿波はビクンと震え、そのまま背筋を仰け反らせる。
 逃げようとする鹿波の体を捕まえ性感帯を執拗に愛撫すれば、密着した鹿波の下腹部が動きゆっくりと人の腰に硬くなったそこを擦り付けてきた。

「腰動いてんじゃん」
「っ、うっせぇ……ッくそっ、見んじゃねえ……っ、にやにやすんなっ、死ねッ」

 どうやらずっと前を触らなかったせいで我慢出来なくなったようだ。
 自分でシコるのも恥ずかしいのかどさくさに紛れてわざわざ人の体に擦り付けて勃起したそこを刺激しようとするなんて普通に手でやった方がいいのをなんでこいつはそんなにエロいんだ。
 俺の目があるのにも関わらず腰を動かしやわやわと自身を刺激する鹿波の姿にこちらが恥ずかしくなってくる。
 こいつはあれか、確信犯なのだろうか。
 鹿波が擦り付けてくるそこには俺の下腹部があって、布同士が擦れ合う音とともに硬く膨らんだ鹿波のもので下腹部撫でられたらそりゃあ誰だって興奮する。
 布越しの硬さに我慢出来ず、自分のを取り出した俺は鹿波の尻から手を離し、そのまま相手の下着をずらし勃起したそれを取り出した。

「っ、や、触ん……っ」

 言い終わる前にぶるんと飛び出した勃起したそれは既に先走りがとろとろと溢れていて、いやらしく濡れたそれと同様勃起した自分の性器を手で束ねる。
 片手ではいっぱいいっぱいだったが、それだけでも充分裏筋と裏筋が触れ合い気持ちがいい。そして暖かい。

「どうせ擦るんならこっちの方が良いだろ」
「嫌だ……っ気持ち悪……っ」

 そう離れようと暴れる鹿波だが、ゆっくりと二本のそれを手で擦ればひくっと喉を鳴らし大人しくなる。
 鹿波の先走りが性器を濡らし、手を動かし裏筋を擦り合わせる度にぐちゅぐちゅと濡れた音を立てた。
 トクントクン脈打つ鼓動が流れ込んできて、なんだか不思議な感覚だ。
「こんなに勃起してるやつがなに言ってんだよ」あまりにも死にそうな顔をしてる鹿波にそう笑いながら俺は手を動かせば動かすほど裏筋が先端の凹凸が敏感な部分までもがお互いに擦れ、そこから流れ込んでくる甘い刺激にぞくりと背筋が震える。

「っん、ぁ、嫌だっ、なにこれ……っ嫌だ、やめろッ」
「っ、あーすげ、絡み付くなお前の先走り。ぬるぬるしてすっげえ気持ち良い」
「っ、おい、実況すんじゃねえ……っ!」

 カリとカリが擦れて、同時にお互いの体がビクンと跳ねてなんだか可笑しい。
 鹿波は恥ずかしそうに悔しがっていたが。
 すっかり鹿波の先走りでぐっちょり濡れた俺の性器はこれまでにないくらい勃起していて、汗と混ざったような先走りの匂いに酷く高揚する俺の手は自然と加速する。

「鹿波の、ドクンドクンって脈打ってて直接伝わってきてさあ、なんか、すっげぇ熱……っ」
「だから実況やめろっつんてんだろッ」

 息が上がり、朦朧としてくる。体が熱い。
 ぬるぬると手の中を滑るそれは捕まえようとすれば無意識に力が込もってしまい、ぎゅっと手のひらで締め付けたらもうその熱でちんこ溶けるんじゃないんだろうかってくらいの快感に俺の方がイキそうになって。
 あまりの気持ちよさにそう声に出してしまうが、どうやら鹿波はそれが気に入らないようだ。
 鹿波が怒鳴る度に振動が伝わり、煩いけど結構気持ちいいなあとか思ったときだった。
 細めた視界に影がかかり、唇にぷにっと柔らかいなにかが触れる。

「っ!」

 ぎょっとして目を見開けば目の前には鹿波の顔があって、俺はそこでようやく自分がなにされているのか気付いた。
 ぎゅっと目を瞑った鹿波はどうやら俺の唇を塞ごうとしたようだ。
 唇を尖らせ、ぎこちない動きでただ触れるだけのキスをしてくる鹿波。その頬は赤い。
 普通に手で塞げばいいものを、わざわざ唇で黙らせようとしてくる鹿波になんか爆発しそうになる。

「っ、ふ、ぁッ……んむ……ッ」

 問答無用で鹿波にキスを返した俺は、そのまま唇から頬、瞼から額に首筋喉仏鎖骨へと何度も軽く触れるだけのキスを繰り返す。ちゅっちゅ、と小さなリップ音が立ち鹿波が気恥ずかしそうに眉を寄せ顔を逸らす度に追いかけて何度も唇を押し付けた。
 ちんこを擦りながら夢中になって鹿波の体中をちうちう音を立てながら吸えば至るところが赤く鬱血し、それを見てまた興奮した俺は手を加速させる。

「ぁ、や、もうやめろって、たか……ッあっ、ぁ、や……んっ」

 先走りと先走りが混ざり合い、手のひらで摩擦する度に泡が立つ。
 硬くなったそれはぬるぬると擦れ、指と指の隙間をどろどろに濡らすそれを潤滑剤代わりに更に手を加速させれば熱くなった全身に汗が滲んだ。
 ガチガチになったそこは熱く、本当に融けて先走りと一緒になって混ざり合うんじゃないかってくらい鼓動が重なり、ああそろそろイキそうだな、なんて思いながら俺は鹿波の唇にキスをした。
 触れるだけではなく、貪るようなキスを。

「ん、んぅ……っ」

 開いた口から吐息が混ざり、お互いの熱に当てられぼんやりとする頭の中取り敢えず俺はこのパンパンに膨らんだ手の中の性器を楽にさせることにした。射精するのには然程時間は掛からなかった。

「ッ」

 もう片方の手のひらを使い、束ねたそれを包み込むように激しい愛撫を続ければドクンと大きく脈打ったそれはほぼ同時に射精して、勃起したそれが孕んだ大量の熱は服に飛んだ。

 ◆ ◆ ◆

「やっぱ、お前、大嫌いっ!まじ嫌い!顔見たくねえ!」
「とか言いつつ?」
「言いつつ?じゃねえよまじ死ねよ、いっつもいっつもなあ最低なんだよっクズ野郎!俺はお前のオナホじゃねえんだよ!」

 事後。
 例のごとく癇癪を起こす鹿波は顔を真っ赤にしたままそう怒鳴り散らす。
 あんあん言っていたくせにこの変わり様。
 前までは小憎たらしかったが今この鹿波の態度が照れ隠しとわかった今怖いものなどない。
 心の声はきっと『高座のばかっ、せめてちゃんと言ってくれなきゃビックリしちゃうじゃん……ああっでも高座とあんなことしちゃうなんて……っあうぅ、恥ずかしいよぉ……っでも、嬉しい……』ってところだろう。
 ぐいぐいと俺を押し、なんとか部屋から追い出そうとしてくる鹿波に「ははっ、また照れて」と朗らかに笑いかけようとした瞬間スパンと小気味いい音を立て頭を叩かれる。
 スリッパだ。こいつスリッパで殴ってきたぞ。

「出ていけ!今すぐ!」
「わかった、わかったから叩くな!ゴキブリじゃねえんだから俺!」
「ゴキブリ以下だ!」

 このままではスリッパが丸めた雑誌、更には灰皿へと昇格しそうだ。そんな気迫すら感じ、流石に不味いと感じた俺は鹿波に背中を蹴られるように部屋から追い出された。

 学生寮廊下。
 鹿波に蹴られてズキズキ痛む腰を擦りながら俺はとぼとぼ自室へと向かって歩いていた。
 ちくしょう鹿波の野郎俺が怪我人だったって恩を忘れやがったのか。なんて思いながら歩いていると、ふと向かい側から見覚えのある人影が。

「ありゃ、高座帰ってきてたの」

 ぶちぶちと愚痴っているところに声をかけられ、驚いたように顔を上げればそこには荷物を手にした山下がいた。

「うわっなんだ山下か」
「うわってなんだようわって」

 目を丸くする俺に失礼だなあと唇を尖らせる山下だったがすぐにいつもと変わらない調子で「てっきり明日帰ってくるかと思ったよ」と笑いかけてくる。そんな山下に「フラグ修正してきた」とだけ伝えれば、病室での会話を思い出したようだ。

「あっはっは!なるほど、お疲れ様」

 そう相変わらず他人事のように笑う山下はぽんと俺の肩を叩く。

「お前は?」
「ん?いやちょっとたまにはリアルの学園生活を楽しもうかと」

 明らかに自室とは逆の方へ歩いていた山下に疑問を抱いた俺だったが、山下の簡潔な言葉に「なるほどな」と頷く。
 寧ろ山下にとってリアルはゲームの方じゃないかと突っ込みたくなったが敢えてなにも言わずに見送ることにした。

「早めに帰ってこいよ」
「了解。じゃ、また後でね」

 そう軽く会話を交わし、俺はその場で山下と別れた。

 ◆ ◆ ◆

「鹿波、高座と仲直りしたんだって?」
「っ、山下……。おい、勝手入ってくんじゃねえよ!」
「やだなぁ、ちゃんとノックしたよ。コンコン」
「今言ってんじゃねえか」
「細かいことは気にしなーい。……ってあれ?一人なんだ」
「……さっきまで、もう一人いた」
「もう一人?ああ、高座のことだね。さっきそこで会ったよ。見舞いに行ったときより怪我増えてたからまた鹿波が手出したんじゃないかなって思ってたけど、通りで」
「俺は悪くねえ」
「そっかそっか。じゃあ、さっき言ってたゲーム持ってきたから遊ぼう。ほら、せっかく泊まる用意もしてきたんだから」
「泊まらせるとか言ってねえだろ」
「鹿波の愚痴は長いから念のためだよ。ほら、お邪魔しまーす」

 おしまい

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