職業村人、パーティーの性処理要員に降格。


 01※

 昼前、滞在中の宿屋の飯を食い、勇者たちはギルドへ行っては報酬のためクエストに向かった。
 俺はというと勇者から頼まれた買い物や装備品の確認をし、それからやつらが帰ってくるまで自由時間となった。
 昼過ぎ頃には戻ってくるとは行っていたが、正直俺は一人になれるこの時間が唯一休めるときだった。

 勇者との関係がシーフにバレてからというものの、勇者の目を盗んではベタベタ触ってくるシーフにいい加減我慢の限界だった。
 いや、触れられるだけならまだいい。下手したら別室へと呼び出され、抜かされることもあった。
 勇者にいつ呼び出されるかわからないからあいつがいるときは挿入はしないでくれと言えば、やつも渋々ながら承諾してくれたが、勇者も勇者で変わらないというか……寧ろ勇者に拘束される時間の方が増えていたのも事実だ。
 あいつらがいる間に休む暇などない。朝から朝立ちの処理がてら時間ギリギリまで勇者に挿入された下腹部は未だに熱を持っている。
 そのせいであいつらがいなくなって、一人で慰めることも少なくはない。こうでもしないと悶々して雑用中も雑念が入って仕事にならないのだ。
 だから、合理的に過ごすためだ。

「ああ、この前預かった武器の修繕は終わったよ。ほらよ」
「ああ、ありがとな。オッチャン」
「誰がオッチャンだ、お兄さんだって言ってんだろ!」

 この街にやってきてどれくらい経つだろうか。 鍛冶屋の店主とももうすっかり顔馴染みだ。預かった勇者たちの武器を抱え、ついでに薬類や備品なども買い、それから宿屋へと戻る。
 あと勇者に頼まれたことといえば……ああ、そういえば教会に行かなければならなかった。呪われた魔術書を浄化のため教会に預けているからそれを引き取ってほしいと勇者が言っていたのを思い出す。
 魔術書、なんて使うやつ一人しかいない。
 正直なんで俺が、という気持ちが強かったが勇者の頼みだ。……それに、俺がこのパーティーに残るために必要なことでもある。
 仕方ねえか。気は乗らなかったが、一旦荷物だけ置いて俺は町外れの教会へと向かった。


 教会はあまり好きではない。
 神様なんて信じたことなかったし、魔術だって、嫌いだ。男なら拳で戦え、魔術なんて卑怯だって幼い頃から植え付けられた思想は根深く、実際に俺は魔道士でろくなやつを見たことない。
 教会はこじんまりとしていて、どうやら孤児院としても機能しているようだ。子供たちに読み聞かせを行っていた人良さそうな神父に声をかければ、すぐに魔術書を持ってきてくれた。
 神父の背後に隠れていた子供たちが恨めしそうにこちらを警戒していたので、俺はすぐに教会を出た。……なんとなく教会の子供が自分に重なって見えて耐えられなかったのだ。
 呪われていたという魔術書は分厚く、大きい。
 魔術書には、様々な魔法についての内容が書かれているという。こんなもの読んだって俺にとってはそもそもなんの意味があるのかわからない文字の羅列なのだが、その筋の人間にとっては大切なものだという。
 呪われた魔術書は、浄化しない限り様々な効果を齎す。呪いの強さによっては命を落とすこともあるというのだ。だから、みだりに開けてはならない。幼い頃、村の教会の神父はそう子供だった俺達に言い聞かせていた。

「……魔術書ねえ」

 才能なんてないとわかってても、もしかしたら俺にでも使える魔術があるのではないかと思わずにはいられない。
 ……今までだったらそんなことすら考えなかっただろう。現に、魔術は今でも好きではない。
 けれど、武術でも剣術でも戦力外になった今、なんでもいいから力が欲しかった。
 ほんの戯れだ。俺は教会の裏の林に周り、辺りに人の気配がないのを確認して抱えていた魔術書を開いた。
 ……やはり、読めない。なんだこれ、寧ろ文字の形すらしてないな……。
 そうページをぱらぱらと捲ったときだ、ふと、一文だけ読めたのだ。

「……っ、もしかして」

 これなら。……でも、肝心の内容がわからない。どんな魔法かも、けれど、試しに口にしてみた。内容からして恐らく初級魔法、下手な大惨事にはならないはずだ。そう思って、指でなぞりながらその呪文を口にしたときだ。
 世界が白く染まる。違う。霧か?もしかして目くらまし的な魔法なのか?と、辺りを見渡したときだった。持っていた魔術書が動き出した。

「っ、な……!」

 本のページの隙間から溢れ出す黒い影が俺に向かって伸びてくる。指先から腕まで這い上がってくる触手に驚いて本を落とした。
 やばい、完全に呪いが解けていたわけじゃなかったのか。咄嗟に腰の短剣に手を伸ばそうとしたとき、黒い影の触手は俺の腕を高く拘束するのだ。

「は、なせ、このやろ……っ!」

 二の腕から脇の下をゆっくりと登ってくる感触が気持ち悪い。魔力でも吸い取っているのか、触れられた箇所が焼けるように熱い。
 裾の下、脇から胸元へと這いずる触手の先端は更に枝分かれし、胸元へ伸びるもの、下腹部へと伸びるものへと他方へと侵食していくのだ。
 麻痺毒か。触れられた箇所はビリビリと痺れ、思うように動かない。

「ぅ、く、そ……っ」

 こんな雑魚相手に苦戦してるなんてあいつらに見られたらと思うとぞっとしない。とにかく、麻痺が切れるまで下手にこいつらを刺激しない方がいいか。そんなことを考えていたとき、衣類の下、胸へと伸びた触手が突起に掠める。

「っ、ん、ぅ……っ」

 掠めただけなのに、あいつらの手とも違う、ヌルヌルとしたその触手の先端が突起を擦り上げた瞬間、感じたことのないような感覚に頭の奥が痺れた。おかしい。こんなの、有り得ない。まさか。
 そう思いたかったが、確かにそれは意思を持ったように胸を弄っているのだ。

「や、めろ……っ、離せ……っ!」

 勘違いだと思いたい。けれど、身を捩り逃げようとすればするほど更に枝分かれした先端部はタコ足のように乳輪に吸い付き、無数のイボで覆われたその足で乳首を舐ってくるのだ。

「っ、ひ、ィ……っ! や、うそ、やめろ……っ!」

 淫魔と呼ばれる類いのモンスターがいることは知ってる。けれど、まさか自分がそのモンスターの餌食になるなんて思ってもいなかった。引き剥がそうと掴んだ先から手のひらから手首、肘まで更に全身へと侵入してくる触手に、息を飲む。

「ぁ、うっ、や、め……ろ……っ」

 こんな、こんな雑魚に反応したくない。なのに、昼夜イジられた続けてきた胸の突起は通常よりも遥かに感じやすくなっていたのも事実だ。
 こしゅこしゅと乳首をシコられ、限界までピンと尖ったそこ全体を覆うように伸びた触手はそのまま甘く引っ張りやがるのだ。そのまま無数の小さな針で刺されるように吸い上げられれば、それだけで頭の中が真っ白になる。

「ぁ、あ……っ、や、だ……やめろ……やめ……っ」

 股間が痛い。朝イッたばかりなのに。その後もヌいたのに。熱い。気持ちいい。はずなんてないのに。もっと、もっと扱いてくれ。嬲ってくれ。そんな風に思考が傾きかけたときだった。
 いきなり、体中を這っていた触手が黒い炎に覆われ、跡形もなく消えた。
 体を支えていたものを無くし、そのまま地面へと落ちる俺の体。なんで、と足元に落ちた魔術書に目を向けたときだった。背後で、足音が聞こえた。

「……姿が見えないと思ったら、こんな雑魚にまで襲われるなんてな」
「……っ、お、まえ……」
「助けてくれてありがとうございます、だろ。……っていうか、なに? もしかして俺、邪魔だった?」

 ギルドから戻ってきたばかりなのか、ローブを羽織ったやつ――魔道士は心底呆れたように俺を見下ろしていた。
 血の気が引いた。よりによって、こいつにこんなところを見られると思わなかったから、余計。

「っ、んなわけないだろ……」
「ふん、どうだか」

 こんなところ見られたのがよりによってこいつだなんて。相変わらず高圧的な物言いが癪だったが、確かにこの男がいなければ今頃自分がどうなっていたのかと思うとぞっとした。
「ありがと」と小さく返せば、やつはふん、と鼻を鳴らして笑うのだ。

「魔法もろくに使えないくせに魔導書を読もうとするからそうなるんだよ」
「……悪かったな」
「ああ、反省しろ。雑魚は何しても無駄なんだから、諦めて俺たちの言うことを聞いてたらいいんだ」

 なんでこんな言い方しかできないのだろうか、この男は。勇者と話すときの穏やかさなど微塵もない、この男の本質がこれなのだと俺は散々知っている。
 高慢チキで他人を見下ろし、そして気に入った相手以外は有象無象としか見ていない。
 勇者の前では上手くやってるお陰であいつはこの男を有能な魔道士としか見ていないが、現実はどうだ。俺が勇者から見限られたとわかった途端、その悪意を隠そうともしなくなった。

「いつまでそうしてるつもりだ?」
「っ、別に待たなくても……」
「勇者からお前を連れてくるように言われたんだよ。ほら、いつまでぐずぐずして……」

 勇者が?と顔を上げたとき、伸びてきた魔道士に腕を掴まれる。そのまま体を起こされ、ぎょっとした。

「……っさ、わるな」
「麻痺してるくせに一人で動けるわけないだろ。馬鹿か? お前」
「……っ」

 ムカつく。ムカつくし、棘もあるが、この男の言葉はどれも間違っていないというのが余計悔しかった。
 腕に絡みつく魔道士の細い指先に息を飲む。麻痺。それだけならまだいい。体が思うように動かない。それなのに、感覚は鈍るどころか尖っていくのだ。
 ただ腕を掴まれただけなのに、鼓動は今にも破裂しそうなほど加速する。こんな情けない姿、恥ずかしくて魔道士の顔をろくに見ることもできなかった。
 魔道士も気付いているのだろう。俺を襲ったもう一つの状態異常に。

「……本当、トロすぎ」

 そう、やつが呆れたように吐き捨てたとき。近くの木の幹に体を押し付けられる。

「っ、離……」

 背筋に当たる硬い感覚に驚いて、咄嗟に魔道士の腕を掴んだときだった。背後の木の枝や蔦がまるで意思を持ったように俺の腕に絡みつき、そのまま頭の上で拘束するのだ。
 目の前の男の仕業だというのはすぐにわかった。

「どこを触れられた?」
「……っ」
「いちいち恥ずかしがるなよ。……催淫毒を取り除くには毒抜きするしかないんだよ」

「それとも、このまま全身に毒回るまで大人しくしてたいのか? それなら結構。俺はこのまま帰らせてもらうけど?」苛ついたように溜息を吐く魔道士に、背筋がぞっとした。
 この男ならしかねない。そうわかったからだ。ごくりと固唾を飲む。恥も、全部飲み込めたらどれほどよかったか。

「む、ね……」
「が、なに?」
「さ、わられた……」

 顔に血が集まっていく。なんで、なんでこの男相手にこんなことを言わされないといけないのか。歯がゆかったが、従うほかなかった。こんなところでよりによって情けない理由でくたばるわけにはいかないのだ。
 魔道士は俺の答えに満足したのかしてないのか、表情を変えるわけでもなくただ冷めた目でこちらをじっと見るのだ。そして。

「そのまま。動くなよ、面倒だから」
「っ、ふ」

 衣類越し、胸元に這わされる手のひらに堪らず息を飲んだ。そのまま探り当てられる胸の突起を布越しに柔らかく潰される。こんなの、以前なら痛くも痒くもなかった行為だ。
 けれど今は。

「っ、ふ、……ッ、ぅ……ッ」

 勇者に毎日のように愛撫され、そこは相手が誰であろうとどんなに細やかな刺激であろうとと反応してしまう浅ましい部位と成り果てていた。

「ッ、……ふ、ぅ……っ!」

 乳頭を軽く擦られただけで、薄手の服越しにでもわかるくらいぷっくりと浮かび上がるそこを見て魔道士は呆れたように笑う。

「これも、毒のせいか?」
「っ、ぅ、る……せぇ……っ」
「助けてやってるんだろ。僕の貧相な体を気持ちよくしてくれてありがとうございますくらい言ったらどうだ?」
「っ、だ、まれ……ッ、ぅ……ッひ、ぃ……ッ!」

 両胸を同時に引っ張られ、堪らず仰け反る。そのまま引っ張られた状態で硬く凝った先っぽの側面を擦られ、堪らず腰を引く。我慢できず拘束を引き千切りそうになるのに、解けない。流石は魔道士だとこんなところでやつの力なんて認めたくないけど、そのおかげで腰をくねくねみっともなく動かしてしまうこの状況は二重の意味でも苦しかった。

「っは、ぁ……ッ」
「邪魔だな、服。脱げよ」
「っ! い、いやだ……っ、やめろっ」

 そのまま、胸元を開けさせられそうになり咄嗟に俺は体を捩ってやつの手から逃れようと暴れる。突然嫌がる俺に何かを察したのか、魔道士は露骨に不快感を顔に出した。

「いや俺が治してやってんだけど? 何抵抗してんだよ」
「っ、だ、めだ……っ!」
「なんで?」
「……っ、お、お前が……」
「俺?」
「お前だって、見たくないだろ……俺の、体……なんか……っ」

 こんな、性行為の痕跡を色濃く残した体を見られてしまえばきっと魔道士だって嫌悪するだろう。ただでさえ俺のことを嫌ってる魔道士だ。何を言われるかも分からない。
 俺の服に手を掛けたまま、少しだけ魔道士は固まった。そして、頭上の拘束が緩んだと思った瞬間、体を引っくり返される。木の幹に両手を突くような体勢に驚いて振り返ろうとしたときだ。

「ほら。これならいいだろ」
「……っ!」
「俺だってお前の体なんて見たいなんて思わないし、寧ろ萎えるしな」

 一瞬でももしかして自分のために気遣ってくれたのか、なんて思った自分の甘さを呪いたい。
 余計な一言の多さにむっとする暇もなかった。魔道士は存外丁寧な手付きで俺の服の前を開けさせてくる。
 そして、顕になった胸元に直接手を這わせたやつはそのまま胸の突起物を探り当て、そのまま指を這わせてくるのだ。薄手の手袋越し、柔らかく根本から先っぽまでを撫でるようにしごかれればそれだけで快感はより鋭利になるのだ。

「っ、ぅ、ん……っ」
「気持ち悪い声出すなよ。……気が散る」

 相変わらず無理なことを言う。俺だって、好きで出してるんじゃない。シーフや勇者は声をきかせろ、出せ、などと抜かしていたが本来ならばこれが正常だ。俺は、手の甲で口を抑えた。

「ん、ぅ……ッふ……ッ」

 手袋越しだからだろうか、いつもとは違うもどかしさがより生々しく感じた。やつの顔も姿も目に入らないのが救いだった。それでも、背後、背中に感じるやつの熱、吐息だけはどうしようもない。
 とにかく、毒抜きだけに集中しろ。そう、散漫しそうになる自分を叱咤する。

「……ん、っ、ぅ……っ」

 こそばゆい、それ以上に恥ずかしい。歯痒い。アッという間に固くなったそこは見てわかるくらい赤く腫れ上がっていた。指先が掠めるだけで脳髄が甘く痺れ、腰が抜けそうになる。
 会話なんてない、こいつは回復役の役目として俺の毒抜きをしてるだけだ。迷いのない義務的な手付きで、それでも的確に良いところを刺激するその指に散々乳首を愛撫される。徐々に、それでも的確に高められていく快感は毒のせいもあってか普段よりもより強力だった。

「待っ、な、にか、出る、きそ……っ」
「ああ――じゃあ、もう少しだな」
「っも、すこし、って……ッ、ひ」

 ずり落ちそうになっていた体を脇から入ってきたやつの腕により抱えあげられる。そして、背後から回された指に乳輪ごと揉みしごかれるのだ。

「ぅ、ん……っ、ぅ、あ、や……っ、離せ、だめだ、これ以上は……っ!」

 何か来る。射精とは違う、胸の奥、どくどくと脈打つ心臓とは別に渦巻いていたどす黒い快感が頭角を表すのだ。それはより執拗に責め立てられることで胸元へと競り上がってくる。

「っ、は、ッ、ぁ、……っも、やめ、……っ、いっ、で、る、出る……ッ!」

 俺の悲鳴も無視して確実に弱いところばかりを指先で愛撫してくるやつに、呆気なく胸の内に溜まっていたそれは弾けた。瞬間、尖った乳頭部分からどろりとした半透明の液体が溢れ出す。内側から這い出るその異物感に混乱する暇もなく、真っ白になった頭の中、放心する俺を捕まえたまま魔道士は驚くわけもなく更に乳首を柔らかく根本から先端部へと押し潰すように引っ張っていく。

「ぁ、も、や、めろ……っ、やめ……〜〜ッ!!」
「毒抜きって言っただろ。少しでも残ってたら俺のせいだって勇者に怒られる、ちょっとくらい我慢しろ」
「っ、ふ、ぅ……ッ! ぅ、あっ、や、……ッぁ、あぁあ……ッ!」
「変な声出すなって言ったよな、俺」
「……ッ! っ、も、いい、大丈夫、だから……――っ、ぅ、ひ!」
「大丈夫かどうかは、俺が決めるんだよ」

 指で跳ねられ、性器かなにかみたいに上下にシコシコと扱かれる。溢れた透明の液体を更に塗り込むような魔道士の指に抵抗することもできなかった。頭の中で火花が弾ける。ガクガクと痙攣してるのは胸だけではなかった。足にも力が入らなくなって、膝から落ちそうになる体をやつに抱き締められるように捕まっては更に執拗に胸を愛撫される。

「もっ、や、め、……っ、ぁ、また、くる、変なの」
「言っただろ、毒抜きだって。残りカスも全部出さないと意味がない」

 出せよ、と耳元で囁かれ、ゾクゾクと背筋が震える。何も考えられなかった。先程以上に熱くなっていく胸元。潰されても潰されても柔らかくなるどころか一層硬くつんと主張するそこを更に虐められれば、ぬらぬらと濡れた突起の先っぽからまたどろりと液体が溢れ、俺の胸とやつの手袋を汚した。吐息が混ざる。意識も朦朧としていた。やつにこの体も、肌も見せたくないと丸まるのが精一杯だったのに気付けばもっとしてくれと言わんばかりに胸を突き出すような格好になっていた。
 魔道士も、俺の体なんて目に入ってるはずなのに何も言わない。ただ、俺を見下ろしたまま胸を愛撫するのだ。



 どれほど『毒抜き』をしていたのだろうか。もう痛みもない。抵抗する気力も、体を隠すことすら忘れて魔道士に身を預けていた。何度絶頂を迎えたのかもわからない。最早乳首からは何もでなかった。

「……っは、ぁ……っ」

 俺の胸の液体を布で拭った魔道士は、そのまま立つこともできない俺の衣類を一つ一つ戻していく。

「おしまい。ほら、しっかりしろ。勇者サマがあんたのこと探してた」
「……っ、……」
「そのままぼーっとしてたら、また襲われるぞ」

「今度は有料だから」なんて、魔道士は言いたい放題言って手袋を新しいものに変えながら置いていた魔導書を抱えるのだ。最後の最後までムカつくやつだ。
 確かに、軽くなった体から熱が引いていくといつも通りの体調が戻っていた。麻痺も、ない。
 ……ムカつくやつだと思うが、自分の役目に対しては手を抜かないところは相変わらずだ。
 だからこそ、いくら嫌いになっても心の底からは憎めなかった。

 ……宿屋に戻ろう。
 もう暫くは魔導書には触りたくない。

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