永久欠損ヒロイズム


 06

「なんだか、恥ずかしいなぁ……ごめんね、情けないところ見せちゃって。どうせ慰めるんだったらもっと可愛い子の方が良かっただろう?」
「何言ってるんだ?シズマも充分可愛いだろ」

 少なくとも、カメラの前のシズマは誰よりもキラキラしていた。それを素直に告げれば、シズマの顔が赤くなる。目が赤くなったと思えば、今度は顔全体の熱が上昇してるようだ。

「大丈夫か?赤いぞ?冷ますか?」
「い、いい、大丈夫だから……それにしても、君、本当末恐ろしいね……。これはあの道真君もタジタジになるわけだ」

 シズマは何やらブツブツ言っていたが、どうやら涙も止まったようだ。いつもと変わらないシズマの笑顔みて、なんだか胸の奥がもやもやしていたのが取れたようだった。

「あ、そうだシズマ、お腹減ってないか?あそこの店からいい匂いがする、なんか食べていこう!」
「っえ、いきなりだねえ君も。けど、丁度よかった、僕も何か胃に入れたいところだったんだ。行こう行こう」
「やったー!……ところで、パンケーキって美味しいのか?」
「美味しいよ。あそこの店はネットでもほっぺたが落ちるって評判なんだ」
「ほっぺたが落ちるのか?!……それは……大丈夫なのか、問題にはならないのか……?」
「あはっ、そうだね、ある意味問題だよね」

「大丈夫だよ、もしクロウ君のほっぺたが落ちそうになったら僕が抑えててあげるから」そう、シズマは笑った。その笑顔は、ミチザネといたときに見せた自然な笑顔で。
 夕焼けに照らされたシズマの笑顔に、つられて頬が緩む。

「シズマ、俺、お前の笑った顔が好きだ!」
「ふふ、ありがとう。けど、あまりそんなことばかり言ってたら、道真君が妬くんじゃないか?」

「ミチザネ?」と、小首傾げたときだった。

「……おい、お前ら、商店街のど真ん中で騒いでんじゃねーよ」

 商店街通り。
 ミチザネの声が聞こえてきたと思えば、駄菓子屋の前、そこにはアイスを頬張るミチザネがいた。

「ミチザネ!お前迎えに来てくれたのか?」
「んなわけねーだろ、……小腹減ったからなんか食おうと思っただけだよ」
「まあ、そういうことにしてあげようよ。クロウ君」
「そういうことにしてあげるか、シズマ!」
「……なんかムカつくな」

 相変わらず不機嫌そうな顔だが、手を繋いだままだった俺たちを見て、「おい、なにやってんだよそれ」とミチザネは眉間に皺を深くする。

「クロウ、お前、あんま人前でベタベタするのやめろよ、ただでさえ悪目立ちするのに……」
「う……」

 やばい、説教が始まる。と、思いシズマから手を離そうとしたときだった。シズマの指が、ぎゅ、と絡みつく。深く絡めるように手を握り締められ、驚いて顔を上げればシズマはミチザネに繋いだ手を見せつけるように軽く俺の腕を持ち上げた。

「ああ、これは僕からクロウ君にお願いしたんだよ」
「……は?」
「それともなにかな、僕はどう見られようが構わないんだけど道真君には何か不都合があるのかな……?」
「静間、お前……」

 にこりと笑うシズマに、ミチザネが言葉に詰まっていた。おお、ミチザネのあんな顔久しぶりに見た気がする。そう感心していたとき、シズマに肩を抱かれた。

「それじゃ、道真君、僕たちはそこのお店でパンケーキ食べてくるから。よかったら君も……あ、いや、君は女の子ばっかりのお店行きたくないんだったね。無理に誘って悪かったよ。それじゃ、クロウ君行こっか」
「ちょっちょっと待て!勝手に決めてんじゃねえよ!」
「え?でも……」
「お……ッ、俺もたった今パンケーキが食いたくなったんだよ」

 汗をだらだら流しながらそう、こちらを睨みつけてくるミチザネ。『お前、なにかしたのか』という念が伝わったが、俺も俺で首を横に振ることしかできない。
 ただ一人、シズマだけは上機嫌だった。


【episode3.人間修行 了】


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