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射精時の感覚に全て持っていかれそうになるのを寸でのところで堪えた。
が、次にやってきたのは政岡の口に出してしまったという事実だった。
「まさ……」
大丈夫か、と慌てて政岡の肩を掴んだ時。
ごくりと、政岡の喉仏が上下する。
「な……ッなんで、飲んでんだよ……っ」
「汚えだろ、馬鹿じゃねえの」と政岡の肩を叩けば、眉間に皺を寄せたやつは俺から目を逸らす。
「別に、いい」
「……は」
「あんたのなら……別にいい、って言ってんだよ」
その言葉に、今度こそ俺は混乱する。
何がいいのか全く分からないが、こいつの性癖は俺の理解の範疇を超えるということなのか。
呆れる所なのだろうが、何故だろうか、胸の奥がぎゅっとなる。
「ば……ッかじゃねえの……」
やっぱり、この学園は馬鹿なやつらばかりだ。
いくらゲームのためとはいえ、男のものなんて飲む気になれない。
「フン、さっきより元気出たみたいだな」
そんな俺を見て、笑う政岡は俺の身だしを整える。
その言葉に、あ、となった。
「神楽のやつが持ってるとしたら科学部のだろうし、あれはそんなに効果続かないはずだ」
「少し時間経てばもっと楽になる。すぐ動けるようになるぞ」科学部の媚薬はそんなに有名なのかとツッコミそうになったが、言われてみれば先程までの焼けるような熱は引いていき、その代わりに頭の中がすっきりしていく。
「……」
「なんだよ、まだ文句いいてえのか?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
政岡は、それを知ってて抜いてくれたのだろうか。
てっきり、それに付け込んでまじでヤラれるんじゃないかと内心焦っていたが、そんな素振りすらみせない政岡に今度はこっちが顔を合わせれなくなる。
「あ……ありがとう、ございます」
恥ずかしいとか、申し訳ないとか、色んなものがごっちゃになった結果敬語になってしまった。
何事かと目を丸くした政岡だったが、
「ぅ、おっせえんだよお前は……!……ま、俺に惚れてもいいんだぜ!」
「……」
「お、おい……せめて何か言えよ……!」
いつもの調子に戻ったようだ。
何気ない政岡の言葉が胸に引っ掛かる。
ああ、そうか、ゲーム。
優しくした方が俺が落ちると思ったのだろうか、政岡は。
そう考えると、少しだけ胸の鼓動が落ち着いてくる。
同時に、もの寂しさのようなものを覚えずにはいられなかった。
「あぁ、そうだお前、まだ残ってんだろ、薬!なんか飲み物買ってくる!」
そんな俺の思案なんて露知らず、逃げるように立ち上がった政岡はそう言いながら走り出した。
「そこから動くなよ!いいな!」なんて、叫びながら。
言われなくてもこんな状態でどこにも行けねえよ。
釘を刺す政岡が面白くて、つい、少しだけ笑いそうになってしまった。
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