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ただいまのお礼文は職業村人メイジ+シーフ+村人SSSです。比較的平和です。


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次の目的地である街までの中継ぎとして訪れた街はカジノを中心に栄える都市だった。
派手で露出の高い服を着て呼び込みをする女を見て早速ふらっと歩き出すシーフに、イロアスは「まずは宿泊施設を見つけるのが先だぞ」と釘を打つ。不服そうにしながらも「はいよ」とシーフは肩を竦めた。


「それにしても、人が多いな」

「ああ、そうだな……スレイヴ、逸れないように気を付けろよ」


言いながらこちらを見てくるイロアス。なんで俺にだけ、と思いながらも「お前こそな」と返せばイロアスはそうだな、と笑った。
ナイトも落ち着かないのだろう、辺りを警戒してるように見えた。
と、そこまで確認してメイジの姿が見当たらないことに気付いた。


「おい……」

「俺ならここだ」

「……っ!」


いきなりすぐ背後から顔を出してくるメイジに息を飲んだ。立ち止まりそうになる俺の背中をそっと支え、「止まるな、ぶつかるだろう」と声を掛けられる。


「お、お前……いきなり現れるなよ……っ」

「いきなりはないだろ。俺のことを探していたんじゃないのか?」

「……別に」

「そうなのか?随分と不安げに辺りを見渡していたようだが」

「あんたの自意識過剰だ」

「そうか。……それは残念だ」


なにが残念だ。そもそもついさっきシーフが勝手な真似をするなとイロアスに怒られてたばかりじゃないか、と言ってやりたかったがそれでは本当に自分がメイジのことを気にしているようで癪だった。
俺はやつから逃げるよう歩幅を広げ、ずかずかと歩いていく。背後からやつがついてくる気配がしたが無視してやった。

ギャンブルというものにはいい思い出がない。
クエストの関係でイロアスと一緒にカジノに足を踏み入れたことはあったが、下品な空気と金の匂いがどうしても駄目だった。シーフはというとそんな俺を見て「貧乏なガキに楽しさは分からんだろうな」と人を馬鹿にしていたが、別に知りたいとも思わない。

きらびやかな街同様派手な宿泊施設に泊まり、それから自由な時間になる。
この娯楽街で自分が楽しめることなどあるものなのだろうか。そんなことを思いながらも探索しようと街へ出れば、前方、人混みに紛れて見知った後ろ姿を見付けた。
いつものローブを脱ぎ、軽装に着替えた長身の男――メイジだ。
シーフも一緒なのだろうか、大体アイツらが夜遊びをするときは一緒のときが多いのだがあたりにシーフの姿はない。
そのまま入り口前の男と何かを話し、カジノ施設へと入っていくメイジを見て驚いた。まさかあいつ、イカサマでもして金儲けをするのではないだろうか。気になって跡をつけようとすれば、用心棒らしき男に「子供は立ち入り禁止だ」と門前払いを食らった。


「な……っ、俺は子供じゃない」

「ママを探してるならそこの角にある案内所へ向かうといい。詳しいやつがいる」

「人の話を聞け、この……ッ!」


そう声を荒げそうになった矢先、背後から伸びてきた手に肩を掴まれる。


「なんだ、こんなところにいたのか。スレイヴ、ママが探してるからお兄ちゃんと帰ろうな」


そこにいたのはシーフのやつだった。腹立つほどの笑顔でいけしゃあしゃあとそんなことを言い出すシーフに「やっぱりそうか」と納得したのか、用心棒の男は「さっさと行け」と手で追い払ってくるのだ。
そのままシーフは「お邪魔しました」とそのまま俺を掴んだまま道を引き返していくのだ。


「な……っ、おい離せ……!」

「お前、カジノなんて興味あったのか?」

「べ、別に……」

「別に悪いとは言わねえけど場所が悪すぎる、遊ぶなら他のとこにしとけ」


興味ねえよ、と口にするよりも先にそう耳打ちしてくるシーフに思わずやつの顔を見た。


「どういうことだよ」

「どうもこうも、そこは観光客から金を毟ることで有名な店だって話だ。お前が行ってみろ、秒で服まで剥ぎ取られて売られるぞ」


なんでお前がそんなこと知ってるのか、と思ったがシーフは情報収集にも長けてる。ならば、別の疑問が湧いてくる。


「……でも、さっきメイジが入っていったぞ」

「メイジが?へえ、以外だな。あいつがギャンブルに興味あったとは」


シーフの反応からしてやつも驚いてるようだ。だとしたら益々気になったが……あの変態男のことだ、俺の理解の範疇を超えてても別になにも思わない。が。


「もしかしたら無一文になったメイジが見られるかもしれないな」


同じことを考えていたようだ。シーフの言葉につられて少し口元が緩んでしまう。
なんてやり取りをしていたときだった。


「……誰がなんだって?」


すぐ背後から聞こえてきた声にぎょっとする。咄嗟に振り返れば、そこには先程カジノに入っていったばかりのメイジが立っていた。


「なんだ、もうケツ毛まで毟られたのか?」

「品がないぞ、シーフ。……それと、何か勘違いしてるようだが俺は別にお前と違って遊びにきていたわけじゃないからな」

「へえ、だったら飲み屋と間違えたか」

「金を下ろしに行っただけだ」


そう何気なく口にしたメイジに、ぶはは!とシーフは笑った。けど俺はまるで笑えなかった。カジノの扉からガタイのいい男たちが現れ、血相変えてなにやら揉めてるのを見て俺はメイジに目を向けた。
やつと視線が重なる。そしてあいつはどこからか取り出したローブをかぶり、微笑むのだ。


「飲みに行くなら付き合うぞ。……スレイヴちゃんはジュースだけだぞ」

「なんだ、メイジが奢ってくれるってよスレイヴ。良かったな」

「…………」


深くは突っ込む気にはなれず、かといってこのまま一人になって騒ぎに巻き込まれるのも厄介だ。仕方なく俺はこの熱りが冷めるまで連中と近くの酒場に入ることになったが、全く食事の味がしなかった。


おしまい


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