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「ぁ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だァ!おがじぐなるゥ!嫌だァ!殺してぇ!」

「大丈夫大丈夫、すぐに気持ちよくなるからね〜!」


それは自分がだろう。
というツッコミは飲み込んだ。

皮膚を裂くような音ともに笑う方人さんの声が聞こえてきて、そこで俺は耐えられず口を抑えた。

俺の先輩である縁方人は悪趣味だ。
知り合いの売人から薬を貰ってはそれを自分で服用せずに気に入った相手に使用するのだ。
それだけならまだしも、通常よりも五感が異常に冴え渡った相手を嬲るのが好きだと言う。
嘔吐して奇声を上げて快楽のあまり泡吹いて気絶するのはまだ可愛い、失禁して汚物撒き散らしてのたうち回る相手に勃起しろなんて方が難しい。


「ぁ、あッ、ひぎッ!いぐッ!びゅっびゅって出ちゃうッ!!」

「よしよし、偉いね〜。んじゃこの調子でどんどん出しちゃおっか〜」

「嫌だァ!辞めてぇ!もう無理だってぇ!嫌だ、あッ、ひき、いやああッ!!」


……本当、よくやる。
扉の前に居ても聞こえてくるその声に俺はなんも言えなくなる。
別に、方人さんの性癖は知っていたがここまでくると大概だと思う。


『気持ち良すぎると殺してくれってくらい苦しくなるんだってよ。それってすごくね?』


ある日、方人さんが言っていた。
人の快楽に、それに伴う苦痛に惹かれるという方人さんの性癖はどうでもいいのだけれど、何故俺にそんなことを言うのかが理解できない。
方人さんは俺と自分が趣味が合うと思っているようだが理解できない。
俺は好きな子が苦しんでる顔を見て興奮する程の異常性癖は持ち合わせていなのだから。

部屋が空くまで、ジュース飲んで携帯いじってると方人さんが出てきた。
その顔が赤く濡れてるのを見てぎょっとする。


「あれ、亮太まだいたんだ」

「いたんだって……どうしたんすか、顔。血、ついてますよ」

「ああ、これな。ちょっと鼻血止まんなくてさ。頭の血管切れたっぽい」

「……」

「お前も適当な子、捕まえてきたら良かったのに。一人じゃ退屈だろ」

「方人さんたちの聞いてたら時間なんてあっという間ですよ」

「そーかそーか、なら今度混ざるか?」

「それはまじで勘弁したいんですけど」


部屋の中を覗けば、雑に置かれたベッドの上、下腹部を血で真っ赤に汚し、痙攣するその子を見て俺はさっと顔を逸らす。
異様な匂い。


「随分と楽しそうでしたけど、付き合うんですか?あの子と」

「は?なんで」

「だって気に入ってたじゃないですか、方人さん」

「無理無理。だってあの調子じゃもうまともに締め付けらんねーだろうし、使い物になんねーから」

「……」

「それよりも、気分転換に飲みに行こうぜ。今の時間帯開いてるところでいい店知ってっから」

「……こんな時間に食べてたら太りますよ」

「いーのいーの!その分また運動すりゃいいだろ!」


言いながら、方人さんは肩を組んでくる。
放置される子のことも気になったが、まあ誰かが見つけてくれるだろう。
俺はその部屋を後にし、その後も方人さんに付き合うことになった。
のだけれど。


「方人さん、起きて下さいよ。方人さん、あんた重すぎるんだって!」

「ぁあ゛ー……脳味噌揺れる……」

「飲み過ぎなんですって!弱いくせに!……はあ、クソ……ッ」


閉店時間になり、全客帰らされているというのに方人さんのせいで手こずってしまった。
半ば引きずる形で店の前までなんとか連れ出したとき、方人さんの服のポケットから何かが落ちる。

携帯だ。
真っ青なその携帯を拾ったとき、どこか触ってしまったらしい。
画面に表示された待受画像に、俺は目を見開いた。
そこにはよく見慣れた顔が映っていた。
隠し撮りなのか、ピントがずれたその画像だったがそこに映っているのは確かに。


「……兄貴……?」


そう、口にした矢先だった。
方人さんに携帯を取り上げられる。

あ、と思った時、見たこともないような冷たい目でこちらを見る方人さんと目が合った。
それも、ほんの一瞬のことで。


「亮太……次付き合えよ、俺、ダーツしたい」

「……はぁ?もう無理ですって」

「飲み過ぎたから……運動しなきゃ……いけねえし……」


言いながらも既に眠り掛けてる方人さん。
呆れたが、こうなったら仕方ない。俺はタクシーを呼び出し、方人さんの通う学園まで方人さんを送り届けることにした。

それにしても、何だったのだろうか、あれ。
方人さんと兄貴が同じ学校に通ってるってのは知っていたが、それよりもあの時の目が気になって仕方なかった。

……まあいいや。
タクシーを見届けたあと、朝日で明るくなり始めた空に目を細めた。
俺もそろそろ帰るか。
適当な女の子に連絡し、迎えに来てくれるというので俺はそれを待つことにした。
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