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芳川×齋藤R18注意

◇ ◇ ◇ ◇


「会長って、まじで佑樹と付き合ってるんすか?」

「は?」

「いや、だって皆言ってますよ。あの会長が有り得ないって」

「……そうなのか?」

「会長が女の子と一緒になるってのも信じられないけど
、よりによって男だもんなー。普通ビビリますって」

「……そうか」

「それで、どこまでいったんです?」

「おい十勝、余計な詮索はやめろ」

「だって気になるじゃないですか!確かに佑樹も良いやつだけど、まさか会長と付き合うなんてなー」

「……お前まさか齋藤君にも下世話なこと聞いてないだろうな」

「大丈夫大丈夫!俺、そんなことぽんぽん聞きませんし!……でも、会長のどこがいいのか聞いたらキョドりながら『全部』って答えたのは結構面白かったなー」

「おい、十勝」

「うわ、なんでまじで怒ってるんすか。ちょっとした好奇心ですって。あいつにはそれ以上聞いてませんし」

「俺達のことは放っておけ。あいつにも余計なちょっかいは掛けるな」

「こ、怖ー……」

「十勝」

「はっ、はい!」



◇ ◇ ◇ ◇


「……ふぅ」


今日も一日が終わった。
授業を受けるのはいつもと変わらない時間のはずなのに、放課後までがやけに長く感じたのはそれほど放課後を待ち遠しく思っていたからだろうか。

帰る準備を済ませ、俺は教室を出た。
向かう場所は、生徒会室。
部外者である俺だが、今日は生徒会はない。いるのは会長だけだ。
だから、少しの間お邪魔するという形になるわけだが……。


「あれ?佑樹?」


エレベーターへ向かう途中のことだった。
背後から声を掛けられる。
咄嗟に振り返れば、そこには。


「と、十勝君……!」

「今帰り?」

「えっと、まあ……」


まさか、このタイミングで十勝と会うことになるとは。
生徒会室に行くのがバレたら不審がられるかもしれない。
そう冷や汗滲ませる俺とは対照的に、十勝は相変わらず友好的で歩み寄ってくる。


「ならどっか遊び行かねえ?暇なんだよねー俺」

「えっ?今から?」


「もちろん!」と満面の笑みで応えてくる十勝にますます汗が滲む。
十勝からの誘いは有難い。しかし、如何せんタイミングが悪すぎる。


「ごめん、今からはちょっと用事があって……」


十勝には申し訳ないが、ここは断っておこう。
そうなるべく相手を傷付けないように言葉を選んだのだけれど。


「もしかして、会長と?」


図星を指され、俺は一瞬言葉に詰まる。
十勝も、俺と会長の噂は知っている。何度か興味本位で尋ねられたこともあったし。
けれど、流石に面と面向かって尋ねられると心臓に悪いというか、なんというか。


「お前、結構顔に出やすいよな」

「ご、ごめんね……そうなんだ」

「そっかぁ、なら仕方ねえなー」


十勝の、こういうあっさりとした性格は好きだと思う。
あくまでも変わらない調子の十勝に内心安堵する。


「本当ごめん。今度でよかったら一緒に……」


どこか行こう。
そう言い掛けたときだった。


「佑樹ってさ、本当に会長のこと好きなわけ?」


それは、勘繰るようなものではなくただ純粋な疑問だった。
だからだろう、余計、胸に突き刺さる。


「……え?」

「なんか、変だよお前。これからデートってのに全然楽しそうに見えないもん」

「そんなこと、ないよ」


怪しまれてるのだろうか。
バレているのだろうか。
先程まで穏やかだった心臓が激しく脈を打ち始める。
平静を装うとすればするほど、ボロが見えてしまいそうで。


「……もしかして、無理矢理付き合わされてるってわけじゃ……」


そう、十勝が口を開いたとき。


「っ、違う」


つい、声が大きくなってしまう。
驚く十勝以上に、俺は自分の声に驚き、そして居た堪れなくなった。


「……俺が、会長を付き合わせてるんだよ……」

「佑樹」

「ごめん、十勝君……俺、行くから」


背後から、十勝が呼び止める声が聞こえたが、それでも立ち止まる声は出来なかった。
十勝には悪いけど、居ても立っても居られなかったのだ。
本当は分かってる。
自分たちが付き合ってるなんてそんな綺麗な関係ではないことくらい。

それでも、それでも、俺は、会長に会いたいというこの気持ちは、嘘ではないはずだ。



◇ ◇ ◇ ◇



「すみません、遅くなりました……っ」


扉を開けば、生徒会室奥、会長席に腰を掛けた芳川会長が顔を上げた。


「別に構わない。君にも色々あるんだしな」


開いていた本を閉じ、立ち上がる会長はそのままゆっくりと俺を迎えてくれる。
授業中、聞きたかった声なのに何故だろうか。
先程の十勝の言葉を思い出し、扉の前から動けなくなる。


「どうした、浮かない顔して」


不意に、こちらへと歩み寄ってきた会長に声を掛けられる。
つられて顔を上げたとき、伸びてきた会長の手に頭を撫でられた。
その大きな掌の感触に、さっきまで我慢していた何かが自分の中で溢れるのを感じた。


「……会長……っ」


目の前、佇む会長を抱き着いた。
少しだけ驚いたような顔をした会長だったが、それも一瞬のことだった。会長は「どうしたんだ?」と照れ臭そうに笑う。


「……俺は、会長のことが、好きです」

「そうか」

「好きなんです」


いつもなら、恥ずかしくて口にできない言葉だが、なぜだろうか。今、無性に自分の気持ちを吐露したかった。

相手が会長だからだろうか、いつも俺の言葉を聞いてくれる会長にその言葉を口にするのは、不思議と不安は感じなかった。


「……分かっている」


ふと微笑む芳川会長に、後ろ髪を撫で付けられる。
その優しい手付きが擽ったくて目を細めたとき、口元に近付いてきた会長の唇が触れた。


「かい、ちょ……っ」


触れるだけの優しい口付けに、顔が熱くなる。
唇が離れそうになり、咄嗟に俺は会長の腕を掴んでいた。


「ん、ぅ……っ」


それに応えるよう、頬から顎先、首筋へと唇を押し当てられれば、会長に触れられた箇所全てが熱く疼き始める。


「何か……あったのか?」


ふと、こちらを覗き込む会長と視線がぶつかった。
余程酷い顔をしていたのか、心配そうな会長の言葉にぎくりと全身が反応する。
自分の中の不安を正直に話すべきか迷ったが、会長は、きっと俺の相談を聞いてくれる。
それに、俺の余計な意地でこれ以上余計な心配掛けるのも申し訳ない。そう判断した俺は白状することにした。


「あの……俺は……会長と一緒にいる俺は、楽しそうに見えませんか?」


恐る恐る、尋ねれば芳川会長の表情が僅かに硬くなる。
そして。


「……十勝に何か言われたのか?」

「……っ!」


どうして、と目を見開く俺に、芳川会長は小さく溜め息をついた。
それとは裏腹に、胸元、伸びてきた指先は丁寧にシャツのボタンを外していく。


「確かに、俺といる時の君は楽しそうには見えないな」


ぷちりと最後の一個が外れたとき、開けさせられるシャツの下、素肌に触れてくる会長はなんでもないように続けた。
その言葉に、そんな、と言葉に詰まったとき。
脇腹から腰へと滑り落ちてきた会長の手が下腹部に触れ、全身が硬直する。


「……いつも物欲しげな目をしてる」

「……ぁ……っ」


咄嗟に足を閉じようとすれば、股の間に膝が入り込んできて強引に足を開かされる。
スラックス越し、膨らみ始めたそこを撫でられれば全身の血液が一気に沸騰しそうになった。


「かい、ちょ……っ」

「あいつがそう思うのも無理がない。……あんな顔されていたら何も知らないやつは誤解するだろうな」


「君の本性を知らないやつは」そう、耳元、囁かれた言葉に顔が熱くなる。
会長の指から逃げるよう、数歩後退ろうとするが背中はすぐに扉にぶつかってしまう。


「っ、ぁ、や、ぁ……ッ」


逃げられると思ってないのに逃げてしまいそうになるのはなぜだろうか。
これ以上一緒に居ると、会長に脳の髄まで支配されてしまいそうで恐ろしく感じるのだ。その反面、会長のこと以外考えられなくなってしまえばどれだけ楽なのだろうか。そう思ってしまう自分も確かにそこにはいて。

弄ぶよう、布越しに悪戯に触れてくるその手の動きに腰が震える。


「っ、だ、め……です……っ会長……っ!」


腰が抜けそうになり、咄嗟に会長の腕に縋り付いた矢先のことだった。
拍子に強く擦り上げられ、衣類越しのその刺激に耐えられず、呆気なく俺は射精した。
背筋が震え、暫くその体勢から動けなくなる俺に会長も気付いたようだ。
頭上で小さく笑う気配がし、顔から火を噴きそうになる。


「ぅ、あ……っ」

「……随分と早いな」


口に出されると余計居た堪れなくなってしまう。
会長の顔が見られなくて、俯いた矢先、伸びてきた手にベルトを緩められた。


「あ、あの……っ」

「そのままだと気持ち悪いだろ。……替えは用意しているから脱いだ方がいい」

「で、でも……んんッ」


俺の制止に構わず、ウエストを緩めた会長にスラックスを脱がされる。
今更と思われているだろうが、やはり、明るいこの場所では恥ずかしさの方が勝ってしまうわけで。
汚れた下着に手を掛けられたとき、咄嗟に芳川会長の手を掴んでしまった。


「齋藤君?」

「あ、あの……自分で、しますから……っ」


どうせ脱がなければならないのならば芳川会長の手をわざわざ煩わせるのは避けたい。
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな俺に、会長は嫌な顔をするわけでもなく、「そうか」とだけ笑った。


「なら、自分でしろ」


その笑顔に別のものが含まれているような気がしてならないが、ここまで来て引き下がれない。
会長の見てる前、恐る恐る自分の下着に指を掛ける。
ちらりと会長を見れば、まともに目が合ってしまった。


「……っ」


恥ずかしい。けれど、会長に脱がされるよりかはいくらか……と思ったがこれもこれでなかなかのチャレンジだということに気付いた時にはもう色々手遅れだった。


「どうした?一人では脱げないのか?」


意地の悪い言葉に、耳が熱くなる。
恥ずかしがれば恥ずかしがる程会長が楽しそうに笑うのを知ってしまった今、このままでは俺の心臓に悪いばかりだ。

ええい、と半ばヤケクソになりながらも、それでも一気に脱ぐことは出来ず、汚れたそれをずらせば下腹部で濡れた音が響き、息が詰まりそうになる。

ただ脱ぐだけだというのに、会長に見られているからか。射精したばかりだというのに早速勃起し始めている自分のものが目に入り、死にたくなる。
すぐ耳元で鼓動が大きく響いた。震える指先で下着を摘んだ俺はそのまま足首までずらし、肌から離した。


「っ、ぅ……脱げ、ました……」


どれくらい時間が経ったのだろうか。
酷く長い時間奮闘していたような気がするが、その間会長はじっと俺の様子を見ているだけで。
せめて、と下半身が見えないよう手で隠そうとしていると、そこでようやく会長は口を開く。


「それをこっちに渡せ」


つい「え」と声を上げてしまった。
今のこの体勢でも危ういというのに、落ちた下着を拾うなんて真似したらその、ちょっとあれではないのか。
狼狽えるが、会長はそれ以上何も言わない。
強要されているわけではないのに、何故だろうか。逆にそれ以上何もしてこなくなる会長に不安になって、俺は自ずと従うことしかできなくなってしまうのだ。


「……っ」


なるべく座り込まないよう、跪く。会長からはどう見えているのだろうか、とか、そんなこと考えてしまえば気が気でなくなってしまい、腕を伸ばし、拾おうとした矢先だった。
指先がその下着に触れようとした寸でのところで、伸びてきた会長の手にそれを拾い上げられる。


「会長……!」

「すまないな、……少し、虐め過ぎたか」


俺の下着を掴み、笑う会長に心臓が跳ねる。
下着を取り上げられた今どうすることも出来ず、とにかく、立ち上がろうと腰を持ち上げた矢先だった。


「それにしても」


と、会長の手に腰を抱き寄せられる。
強引に体を密着させられるような形になり、驚いて離れようとすれば背筋をなぞるよう臀部へと滑り落ちてきた会長の指が、割れ目に触れた。


「っ、ぁ、あの……っ」


探るような指の動きにこそばゆさ以上のものを覚え、咄嗟に引き腰になる。
そんな俺に構わず、会長はそれを引っ張った。
瞬間、


「っ、ぅ、ん、んんッ」


内壁ごと引き摺る勢いで埋め込んでいた球体が一つ引っ張り出される。
それはいきなりのことだった。
埋め込まれた大きさの違う複数の球体は全て連なっており、それを知っている会長は問答無用で二つ目の球体を引っ張った。


「待っ、て、くださ……っ」



い。と、言い掛けた矢先、ぐっと力任せに引っ張られたそれは窄まった肛門ごと押し広げるように体の中から飛び出す。
大きなその球の後に続いて、今度はそれよりも小さな球が中を擦り上げるように勢い良く引き抜かれた。


「っ、ぁ、あ……や……ッ!」


球が飛び出す度に頭が真っ白になり、息をするタイミングすら見失ってしまう。
排泄に似た行為への恥ずかしさと、それを会長にコントロールされるということで余計自分が惨めに思えてきて。
それ以上に。


「……本当にするとは思わなかったな」


半分以上の球が抜けた状態のまま、その先についたリングに指を絡めた会長は呟く。
その呆れと笑いが混ざったような言葉に、腰が震えた。



「……だって、会長が……いうので……っ」

「俺のせいにするつもりか?……こんなものを挿入したのはこの手だろう」

「っ、い、言わないで下さい……っ」


だって、会長が楽しそうだなって言っていたから。もしかしたら喜んでくれるのではないのだろうかと思ったのだ。
会長に手を掴まれ、ますます居た堪れなくなっていると小さく会長の喉が鳴るのを聞いた。


「齋藤君」

「……は、い」

「今度は自分で抜いてみろ」


その命令に、全身が緊張する。
え、と凍りつく俺に、レンズ越し、僅かに目を細めた会長は笑う。


「自分で挿れたんだから出来るだろう?」




いつからだろうか。
会長に頼まれると、断れなくなっていた。
それどころか、会長が喜んでくれたらそれだけで胸が満たされていくみたいで。
俺みたいなやつでも誰かに必要とされている、その事実に酷く安らぎを覚えるようになる。


「……っ、ぅ、ん……っ」


小さい球は力加減を間違えると一気に出てきてしまい、その抉られるような刺激を避けるため、なるべくゆっくりとリングを引っ張る。
あまり、こんな無機物で取り乱してしまうようなみっともない姿は見せたくない。
そう思うのに、どれくらいゆっくりしても中途半端に自分の中から頭を出すその球を見てしまえば下腹部がきゅっと締まってしまい、余計、恥ずかしくなってしまう。


「一人が難しいのなら手伝ってやろうか」


その甘い言葉に、胸の奥が熱くなる。
それでも、首を縦に振らずに済んだのは一人でやるということが会長からの命令だと頭で理解しているからだろう。
ぐっと指先に力を込めれば、きゅぽんと音を立て大きな球が飛び出す。
その刺激に、つい手に力を込めてしまった。


「っ、ぅ、んんんッ!」


瞬間、一気に複数の球が引き抜かれる。
散々擦られ腫れ上がったそこには個々は球とはいえ凹凸を象った無機物は刺激が強すぎた。

勃起した性器から滲む液体を一瞥し、俺は自分の体の中から取り出したそのアナルパールを握り締める。


「会長……っ、俺、言われた通り……ちゃんと、出来ました……」


喋る度に解された肛門が疼くのがわかった。
「だから」と、会長の手に指を絡めたとき。
会長の手が、俺の指から離れた。


「……本当に、君はどうしようもないな……っ」


そして、腰に回された腕に下半身ごと抱き締められた。
会長の制服が汚れることも厭わず密着させてくる体から、会長の体温が流れ込んでくる。
心地の良いその感触にうっとりとし掛けた時、無機物によって解されたそこに会長の指が宛てがわれた。


「っ、ひ、ぅ……ッ!」


ずぷりと音を立て捩じ込まれる細い指に、目を見開く。
驚きのあまり、目の前の会長に縋り付けば何を思ったのか更にもう一本の指が深く挿入される。


「っ、ぁ、や、ぁ、う……そ……っ」


体内に埋め込まれた複数の指。
その太さは球ほどではないとはいえ、内壁を擦り上げ中を摩擦するその動きは生々しくて。
唾液を絡め、中を滑るその指は体の奥まで入り込んでくる。


「っ、かい、ちょっ、待っ、ぁ」

「待つ必要はないだろう。半日も掛けて自分で解してたのだから」


「こんなものまで使って」と、いつの間にかに指から離れたアナルパールを靴先で蹴り、会長は笑う。


「だ……って、ぁ、んんッ」


指の動きに合わせ、腰が震える。
反り返った性器からだらだらと汁が溢れてきて、腹の底から何かが競り上がってくるのが分かった。


「君がこんな色狂いだとはな」


やばい、と思った時には全て手遅れで。
ぐっと会長の指が内壁を抉った瞬間、糸が切れたみたいに性器から精液が飛び出す。
射精したといのに、射精後特有の爽快感はない。
それどころか。


「っかい、ちょ……っ」


飲んでも飲んでも喉が乾くような飢餓感が襲い掛かってくる。何度射精しても、満足出来ない。
もっと、と無意識に更なる強い刺激を本能が求めていることを俺は知っていた。


「ふ、ぅ……っ」


引き抜かれる指。
腰が抜け、その場にへたり込みそうになったところを会長に支えられた。
顔を上げればすぐ傍には会長の顔があって、目が合えばその口元に笑みが浮かぶ。


「そうだったな。……君は、これくらいで満足出来る体ではなかったな」


こちらを見下ろすその目に、寒気にも似たなにかが全身を駆け抜ける。
ああ、この目だ。この目に、俺は。


「……扉に手を付けろ。腰を上げて、自分で拡げてみろ」


「それくらい出来るだろう」囁かれる言葉は先ほどまでの優しさはない。
それでも、有無を言わせないその言葉は、俺にとって求めていたもので。


「……っ」


喉が震える。
喉だけではない、体も。
扉に手を伸ばせば、冷たく硬い感触が触れる。
こうなれば、会長の顔が見えなくなってしまう。
けれど、それでもいいかもしれない。


「お……ねがい、します……」


少なくとも、緩む頬を引き締めることすら出来ない今の自分を見られなくて済むのなら。



◇ ◇ ◇ ◇



ある休日の昼下がりのこと。
学生寮一階のコンビニでデザートコーナーを物色していたときだった。


「ゆーうーきっ」


ぬっと伸びてきた手に肩を掴まれ、心臓が口から飛び出しそうになった。
咄嗟に振り返れば、そこには。


「っ!十勝君!」

「そんなに驚くなよ、こっちがビビるから。……なにやってんの?」

「え、いや……まあ、ちょっとね」


まさかこんなところで会うとは思ってなかった。休日はいつも学園の外へ行ってる十勝を知っている分、余計。
それにしてもどうしてこうもタイミングが悪いのだろうか。
笑って適当に切り上げようと思ったのだけれど。


「もしかして、それ、会長に?」


そして早速バレてしまう。
照れ臭かったので逃げようと思ったのだが、やはり十勝にはバレてしまうようだ。
しかし、そんな十勝にわざわざ隠す理由もない。


「……うん、いつもお世話になってるから、たまにはお礼がしたくて……」

「……佑樹、お前いい子だな」

「そ、そんなことないよ」


何故かジーンとなっている十勝に居た堪れなくなる。
真っ直ぐな十勝と一緒に居ると励まされる反面自分の浅ましさが浮き彫りになるようで、余計。
そんな俺を知ってか知らずか、俺の隣に並んだ十勝は棚に並ぶデザートを覗き込む。


「会長が好きなのならチョコレートより生クリームだな、いちごのやつ!こっちのがいいんじゃね?」

「ほんと?ならこっちにしようかな。……教えてくれてありがとう、十勝君」

「いいっていいって、頑張れよ!」

「うん!」


そう言ってそのままコンビニを出ていく十勝君。
十勝には本当、励まされるし助けてもらっている。
これなら芳川会長も喜ぶだろう。
容器に入ったショートケーキを抱えられるだけ手に取った俺は、喜ぶ会長を思い浮かべながらレジへと向かった。


おしまい
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