「っ坂田先輩!」

今しかない。勇気を振り絞って名前を呼んだら、その人は振り返ってくれた。

「おー、来てくれたんだ」
「はい。卒業、おめでとうございます」

今日は先輩たち高校三年生の、最後の行事の日。部活に所属している子は恒例のように卒業式にはやってきて、お花や色紙を渡すのだ。あたしは生憎帰宅部で、だけどどうしても最後の制服姿の先輩を目に焼き付けたくて、わざわざ今日も学校に出向いてきたのだ。

「写真、撮ってください」
「はーいよ」

彼との出会いは、委員会の定例会議で。坂田先輩はサボりがちだったけど、たまに会えるとドキドキした。あたしは優しくて大人な彼に恋して、告白もして。でも振られてしまった。あれは確か夏の終わりの日、二人きりになったときに今しかない、そう思って、死ぬほど緊張しながら想いを告げたのだ。

妹みたいな感じ。

そう言われた時の、なんとも言えないあの感情が未だに忘れられない。悲しいのとはちょっと違う、空っぽ、まさに空っぽだった。それまで大切に支えてきた何かが崩れたような気分。

笑って立ち去るのが精一杯だったあの時と比べ、今では随分と普通になった。

まだ好きなの?と聞かれれば、あまりよく分からない。

「写真、ありがとうございます」
「どーいたしまして」

自分勝手な話だけど、彼にもしも今好きだ。と言われれば、あたしはきっと……


(あ…第2ボタン)

やっぱりというか、彼の制服の第2ボタンは他の女の子に取られた後。てか、違うじゃん!第2ボタンどころか、全部のボタンないよ、坂田先輩ったら相変わらずモテモテだなぁ。そのくせ彼女はいない。その事実が、あたしを支え続けているのかもね。


「たまに、メールして良いですか」
「おう、いつでも」
「えへ…」

坂田先輩ったら、罪な男だなぁ。
一回振った女の子にそんなこと言ったら、大抵期待しちゃうよ?

「じゃあ、元気で…」
「今日はありがとな」
「いいえ。じゃあ、さようなら」


さようなら。


駅まで歩きながら、撮ってもらった最後のツーショットを眺めていると、自然と涙がつーっと流れた。
別に悲しいわけじゃない、苦しくもない。
これは、終わりの涙だ。
これまでの自分にさよならするための、節目の涙。
あたしはこれからも前を向いて、進んでいく。
ありがとう、坂田先輩。



大好きでした。



20120314



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